YouTubeが6月から非難の声を浴びている。きっかけは、特定のタイプの広告インベントリを購入する際の透明性に大きな問題があるとするアダリティクス(Adalytics)のリポートを、メディアが相次いで取り上げたことだ。 […]
YouTubeが6月から非難の声を浴びている。きっかけは、特定のタイプの広告インベントリを購入する際の透明性に大きな問題があるとするアダリティクス(Adalytics)のリポートを、メディアが相次いで取り上げたことだ。
デジタル動画大手のYouTubeは現在、広告収入を回復させつつある。7月25日に公開された四半期決算報告書によると、昨年度の総収入は400億ドル(約5兆6700億円)近くにまで迫っていた。今第2四半期の広告収入も77億ドル(約1兆900億円)に達し、前年同期から4.4%増えている。主な要因は、大手ブランドからの広告収入が増えたことだ。
だが、YouTubeはこの好調を維持できるだろうか。米DIGIDAYが話を聞いたメディアエージェンシーの投資担当者やブランドセーフティ担当者によると、成長を続けるにはいくつかの変化が必要になりそうだ。取材に応えてくれた13人のエージェンシー幹部は、YouTubeが採用している手法の一部に不満を募らせているが、その多くがアダリティクスのリポートで指摘されていた手法だった。一方で、Googleはさまざまな手段を講じて、リポートへの反論を展開している。
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エージェンシーの不満
アダリティクスのリポートによる影響を抑えるため、Googleはこのリポートに初めて触れた記事がウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Steet Journal:以下、WSJ)から公開される前に、少なくとも1社の大手エージェンシーに接触していたようだ。
そのエージェンシーの幹部は、「我々がGoogle動画パートナー(Google Video Partners:以下、GVP)を擁護するようなことは多くなかった。なぜなら、我々のスタンスは(可能な限り)GVPをブロックすることだからだ」と言う。GVPとは、広告主の広告が表示されるYouTube以外のコンテンツのパブリッシャーを指す言葉だ。今回の取材に応じたエージェンシー幹部は、GoogleやYouTubeとの関係が壊れてしまうことを恐れ、全員が匿名を求めた。
彼らが抱く大きな不満のひとつは、YouTubeがGVPプログラムにおいて、ネガティブオプション条項(インベントリーの購入時に特定の要素を[オプトインではなく]オプトアウトする方式)を長年採用していることにある。
ある情報筋は、「購入時にGVP製品が半ば強制的に組み入れられるケースが少しずつ増えている」と述べ、「GVPインベントリーの購入を強制され、オプトアウトする手段がないケースがある」と付け加えた。また、「YouTubeはWSJの記事に書かれた主張のいくつかに反論しようと、オプトアウトができるかのような話をしていた。また、GVP内で(広告の)表示場所をコントロールできるような話もしていたようだ。だが、Googleのあらゆる製品に言えることだが、反論の多くは『部分的には正しい』ということに過ぎないのが実情だ」とも話す。
さらにこの幹部によれば、「YouTubeでコンバージョンに焦点を当てたキャンペーンを展開すると、GVPのインベントリーが強制される」という。「この記事が出た途端に、手動でオプトアウトできるオプションが出現した。(Googleによれば)このオプションは以前から存在していたそうだが、実際には私が3年前から要求し続けていたものだ」。
Googleの対応は
ほかのブランド担当者が米DIGIDAYに語ったところによれば、アダリティクスのリポートで指摘された懸念や、それをきっかけとした議論の広がりに対処する方法のひとつとして、トゥルービュー(TrueView)広告購入の設定で自動オプトインを廃止し、メディアチームによる事前同意を必須にすることが考えられるという。
複数のエージェンシーによれば、ブランドはリスクが伴うことを理由に、オプトアウトオプションの追加をただちに要請したようだ。YouTubeは原則的に同意したものの、アダリティクスのリポートが公開されてから数日経っても、Googleの担当者はオプションの追加が可能かどうかすら判断しかねているようだったという。こうした話し合いにやって来た担当者の多くは中堅クラスの社員で、 「大ベテラン」でも「若手」でもなかったと、あるエージェンシー情報筋は述べている。
「購入時にGVPをオプトアウトできないと社内の担当者から何度も聞かされるだろうが、アドテクがテーマのReddit(レディット)やWhatsApp(ワッツアップ)のグループに参加すれば、『許可リスト』ベースでGVPのオプトアウトを依頼する方法がわかる」と、この情報筋は付け加えた。
可聴性は業界の平均を確実に下回っていた
複数の情報筋によれば、GoogleのチームはGVPのオプトアウトに関する情報を数週間前からオープンにしつつあるが、初めてリクエストしてから認められるまで長く待たされるとの指摘もある。
YouTube以外のインベントリーについては、質そのものに懸念があることをバイヤーはわかっていた。「GVPのインベントリーが購入時に含められる表向きの理由は、規模とリーチを拡大するためだ。したがって、彼らはそれをキュレーションするインセンティブを持っていないばかりか、むしろキュレーションしたくないと考えている。にもかかわらず、彼らがインベントリーに関するドメインレベルのリポートを提供せず、広告が配信された場所すら把握できないという現状は、なかなか興味深いものだ」。
別の広告エージェンシー幹部は、「YouTubeが公開した可視性と可聴性の統計データを調べたところ、一部のインベントリーで可聴性がクライアントの期待を下回っていた」と指摘する。「可視性はそれほど問題ではなかったが、可聴性は業界の平均を確実に下回っていた」とこの幹部は振り返り、当該広告の可聴率は55%という低さだったと語った。
問題はいずれ解決される?
デジタルメディア業界の多くのセラーや仲介業者と同じく、エージェンシー幹部がGVPの利用に関して抱いている不満は、透明性が欠如していることだ。あるエージェンシー幹部は、GVPインベントリーにまつわる不透明さについて、次のように述べている。
「Googleでリポートを取り出して、GVPのどこに(広告が)掲載されたのか調べようとしても、『ボリュームの少ない広告枠』という一文しか表示されない。だがこれは、『Googleが報告するつもりのないドメイン』を示す言葉だ。広告がどこに掲載されているのか確認することも、その情報に基づいて除外リストを更新することも、許可リストを特定のサイトのみに(適用)することもできないのだ」。
とはいえ、歯ぎしりしたくなる状況であっても、オンラインメディア業界はその短い歴史のなかで、相互依存、あるいは共依存の関係を深めてきたため、いずれ問題は解決されるだろうというのが、米DIGIDAYと話をした多くの情報筋の見解だ。
主張が孕む矛盾
また、ビジネスの手法が不透明なのはGoogleだけではない。今回の件は、ひとつのリポートによって明らかにされた最新の事例に過ぎないのだ。しかも、Googleは事実無根だとして強く反論している。
「Googleに透明性を高める能力があることは間違いない。だが、我々がプログラマティックに広告を配信するときは、まさにこのような理由から、ある程度懐疑的な見方をしている。Googleや他のテクノロジープロバイダーのパブリッシャーは、いずれも自社のインベントリーが高品質でブランドセーフだと主張しているのだ」と、別のエージェンシーの幹部は言う。
また、「我々はそれが事実でないことを知っている。もしそうなら、ブランドセーフティやコンテンツブロック、そしてベリフィケーションのために、我々がIntegral Ad Scienceやダブルベリファイ(DoubleVerify)といったサードパーティを利用する必要はないはずだ」とも話す。
一方で、「GVPは広告主が2023年に期待している意思決定や透明性の基準を満たしていない」と、あるエージェンシー幹部は話す。「Googleがこのまったく正反対の2つの製品を所有し、組み合わせていることは極めて興味深いと私は思う」。
[原文:YouTube faces pressure from agencies to cede more control over unwanted inventory]
Michael Bürgi and Ronan Shields(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:島田涼平)