ここ数年、Facebookとインスタグラムは、広告主のメディアミックスを支配してきた。しかしメディアバイヤーたちによると、最近この2大ソーシャルメディアに投資される広告費が、減少しはじめているという。
ここ数年、Facebookとインスタグラムは、広告主のメディアミックスを支配してきた。しかしメディアバイヤーたちによると、最近この2大ソーシャルメディアに投資される広告費が、減少しはじめているという。
ただそれは大量流出というより、少しずつ漏れ出している。eコマースコンサルティング会社ワンダーマン・トンプソン・コマース(Wunderman Thompson Commerce)のソーシャルメディア担当グループディレクター、ハリー・ワイコフ氏によると、同社におけるFacebookやインスタグラムに投資される広告費は、この1年間で5~10%は減少しているという。
「背景には、パンデミックがある」とワイコフ氏はいう。「昨年は、マーケティング予算に関して、多くの広告主が特定のメディア活用から手を引いたり、支出を抑えたりせざるを得なかった」。
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ユニリーバ(Unilever)やコカコーラ(Coca-Cola)のような大手クライアントを抱えるワンダーマン・トンプソンでは、Facebookやインスタグラムに流れていたかもしれない広告予算は、最近TikTokのようなプラットフォームに投資されているという。広告主たちは、ソーシャルコマースの機会を構築・強化する努力をしているほか、インフルエンサーとの協働を進めている、とワイコフ氏は話す。
すぐに王座を失うことはない
Facebookとインスタグラムが持つオーディエンス規模、ターゲティング機能、広告ユニットの提供範囲を考えると、広告主やメディアバイヤーはこれらプラットフォームがすぐに王座を失うことはないだろうと予測している。実際、米DIGIDAYの以前の記事によると、Facebookとインスタグラムは、広告主にとって依然として「無視できない存在」であることがわかっている。しかし、現在この2大プラットフォームは、若年層の関心の低下、インプレッション単価の上昇、データプライバシーといった課題に直面しており、背後にはTikTokやSnap(スナップ)、Pinterest(ピンタレスト)といった挑戦者たちも控えている。また、パンデミックの影響により、先行きの不透明感と人々の購買習慣の絶え間ない変化が生じており、広告主たちはFacebookとインスタグラムの代替手段を模索しており、状況は決して良好とはいえない。
Facebookの広報担当者は、米DIGIDAYの取材に対し、同社の2021年第2四半期決算の決算発表に触れた。この広報担当者は、そのなかでFacebookが力強いビジネス成長を果たし、第2四半期の総売上高が前年同期比56%増の291億ドル(約3兆1970億円)であったことに言及している。なお、Facebookの最高財務責任者、デビッド・ウェーナー氏は、7月28日に行われた直近の決算報告において、この成長は主にオンラインコマースや消費財など、パンデミックの期間中に好調だった分野によってけん引されたと語った。
確かに、Facebookが自らのプラットフォームへの投資が拡大されている例として言及した、ティヌイティ(Tinuiti)というエージェンシーでは、Snapchat、TikTok、Pinterestなどに投資される広告費が増加する一方、Facebookとインスタグラムへの支出に関しても、前年比で増加しているという。
ティヌイティで、有料ソーシャル担当バイスプレジデントを務めるアビ・ベン=ツビ氏は次のように語る。「Facebookでは前年同期比37%増、インスタグラムでは前年同期比75%増となっている(それぞれ第1四半期はFacebookで24%増、インスタグラムで53%増)。そして、Facebookとインスタグラムへの投資額は、2019年と比べて61%増というペースで推移している」。
最大の要因はiOSの変更
だが、ピューリサーチ(Pew Research)によると、そもそもFacebookとインスタグラムを含む大手プラットフォームの成長は、過去5年は停滞しているという。また、Facebookとインスタグラムのブランド評価は、2020年の「ストップ・ヘイト・フォー・プロフィット(Stop Hate for Profit)」キャンペーンで、多くの広告主がこのプラットフォームをボイコットしたことで傷ついた。分析・インサイト企業のスカイ(Skai)が出した新しい調査報告書は、ソーシャルプラットフォームのCPMは着実に高騰し、2019年から約12%上昇していることを示している。スカイによると、2019年の今頃のCPMは5.71ドル(約627円)前後で推移していたが、現在は6.37ドル(約699円)となっている。
また、ソーシャルプラットフォーム界の巨人を悩ませているのは、Appleのデータプライバシー周りの変更だと、パフォーマンス・マーケティング企業、デジショップ・メディア(DigiShop Media)の最高経営責任者(CEO)、カーチャ・コンスタンティン氏はメール取材で答えている。
「衰退をめぐる最大の要因は、iOSの変更により強力なターゲティングオプションの一部が削除されたことにある。また、世界は少しずつパンデミックから抜け出しつつある。人々がリアルな世界に戻っていくなか、ユーザー数の減少に伴いインベントリーも減り、CPMが上昇したのではないか」とコンスタンティン氏はいう。
エージェンシーのモディフライ(Modifly)でCEOを務めるエライジャ・シュナイダー氏も、コンスタンティン氏の主張を支持する。
「消費者の信頼はとうの昔に失われてしまったが、広告主の信頼も失われはじめている」とシュナイダー氏は話す。
広告主も予兆を感じている
一方、広告主たちも予兆を感じるようになった。シュナイダー氏は、スタートアップから飲料ブランドのスーパー・コーヒー(Super Coffee)や、ウェルネスブランドのビーム(Beam)のようなD2C(Direct-to-consumer)ブランドをクライアントに持つモディフライで、クライアントたちが昨年来、広告支出先の多様化を強く求めているのを目の当たりにしてきたと語る。シュナイダー氏は、2019年と2020年におけるモディフライの広告支出の80%は、Facebookとインスタグラムに注ぎ込まれていたと付け加える。現在、広告支出の内訳は、Facebookとインスタグラムが55%、TikTokやSnapchatなど、そのほかのソーシャルプラットフォームに関しては45%となっている(シュナイダー氏は、これらの内訳を具体的な金額で示すことは避けた)。
IMGNメディア(IMGN Media)の最高戦略責任者、ノア・マーリン氏は、「Z世代に焦点を絞っている広告主にとっては、Facebookやインスタグラムは重要な存在だ。だがいまや、その立ち位置は揺らぎはじめている」と話す。IMGNメディアが抱えるクライアントのFacebookとインスタグラムへの広告支出は、これまでは予算の95%を占めていたが、現在は75%まで減少している。
広告支出の多様化を急ぐ広告主は、Facebookとインスタグラム以外のソーシャルプラットフォームから、実店舗をサポートするためのデジタルツールまで、あらゆるものにデジタル費用を分割している。明確な王者が現れて、Facebookとインスタグラムを王座から引きずり下ろすような事態にはなっていないが、その規模と膨大なオーディエンスから多くの広告主はTikTokに期待を寄せている。
何はともあれこの減少は、メディア支出の多様化の必要性について、業界全体の議論をあと押しするものであり、プラットフォーム間の健全な競争とより現実的な選択肢をもたらす、とマーリン氏は述べる。
また、マーリン氏はこう付け加える。「Facebookとインスタグラムへの支出がゼロになるとは思わないが、もっと多様なメディアをミックスしたいと思いがあり、そのための予算を確保できるならば、Twitch(ツイッチ)やTikTokが良いだろう」。
必然的な変化
こうした動向は、Facebookが衰退を遅らせるための調整に失敗したからではない。広告主たちも、これは単にソーシャルプラットフォームをめぐる「必然的な変化」だろうと認識している。ソーシャルメディアをめぐる状況は常に変化していて、広告主はそれに適応していく必要がある。
今回のパンデミックでは「柔軟性が優先されたのだ」とワンダーマン・トンプソンのワイコフ氏は述べる。「CPMやCPC(クリック単価)が下がりはじめたら、広告主はFacebookやインスタグラムに戻って来るかもしれない。この世界は常に進化しているので、広告主たちは何がベストなのか、注意を払い続けるだろう」。
KIMEKO MCCOY(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:村上莞)