米ソフトウェアメーカーのアドビシステムズ(Adobe Systems)が11月10日、ビデオデマンドサイドプラットフォームのチューブモーグル(TubeMogul)を5億4000万ドル(約5400億円)で買収する計画を発表した。すでに大勢が、この買収はアドテク取引にとって理想的だと指摘している。
米ソフトウェアメーカーのアドビシステムズ(Adobe Systems)が11月10日、ビデオデマンドサイドプラットフォームのチューブモーグル(TubeMogul)を5億4000万ドル(約540億円)で買収する計画を発表した。すでに大勢が、この買収はアドテク取引にとって理想的だと指摘している。
チューブモーグルが手がける安定性の高い動画技術は、アドビが展開するクリエイティブおよびマーケティング関連のクラウドビジネスと親和性が非常に高い。両社はまた、「サービスとしてのソフトウェア(SaaS)」のビジネスモデルを推進してきた。さらに、チューブモーグルは高い収益性を誇り、2016年1月~9月期の売上高として、前年同期比21%増の5610万ドル(約56億1000万円)を計上している。
アドテクとマーケテクのM&Aが流行
「アドビがこの買収にこれほど長い時間を要したことは、私には信じがたい」と、アドテク企業ゼマンタ(Zemanta)のCEOを務めるトッド・サウィッキ氏は語る。「個人的には、今回の買収は大歓迎だ。戦略的な買収条件、優れた製品、妥当な買収価格。個々の買収が次の買収を容易にする。業界でこのような買収がさらに多く実現するといい」。
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コンサルティング会社のリザルツ・インターナショナル(Results International)によると、アドビとチューブモーグルの計画を除き、今年の1~9月にはアドテク分野とマーケティング技術分野で331件の合併と買収が実現。過去最高だった2014年の428件を上回る勢いだという。
たとえば、セールスフォース(Salesforce)は、10月に7億ドル(約700億円)でDMP(データマネジメントプラットフォーム)大手のクラックス(Krux)を買収することで合意。9月には、中国の投資会社の東方弘泰(Orient Hontai Capital)が、サンフランシスコを拠点とする新興アドテク企業アップラビン(AppLovin)の過半数の株式を14億ドル(約1400億円)で取得した。7月には、通信キャリア米最大手ベライゾン(Verizon)が、48億ドル(約4800億円)で米ヤフー(Yahoo)を買収する計画を発表した。ヤフーの傘下には、プログラマティック動画企業ブライトロール(BrightRoll)とアドバイイングプラットフォームのジェミナイ(Gemini)がある。
アドテク業界のお財布事情
「アドテク業界では常に、何よりもデータが重要だ。現在、我々は夢に近づきつつある」と、アドテク大手インデックス・エクスチェンジ(Index Exchange)のプレジデント兼CEO、アンドリュー・カザレ氏は語る。「業界の初期には、データにムラがあった。現在は、精度がはるかに高まっている。アドビによる買収実現もそれが理由だ。彼らはこれで全領域で競争できる」。
それに、この1年半~2年間でアドテクに投資するベンチャーキャピタルは干上がりつつあり、新たに設立される企業はごくわずかだ。その一方で、既存の新興アドテク企業は次の投資ラウンドを実現するのに苦戦している。こうした企業はそのせいで、事業の方向性を転換し、すぐに現金が手に入れる方法を見つける必要があったと、ある大手メディア企業の販売部長は明かす。
「死にかけているアドネットワークなど誰も買いたがらないので、統合は想定されたほど順調には進んでいない」と、この人物は語る。「大手は、最良の企業を買収しようとしている。チューブモーグルとAOLに買収されたアダプティービー(Adap.tv)が抜けたので、プログラマティック動画分野では現在、ビデオロジー(Videology)が最大手だろう。それ以外は、単なるアドネットワークにすぎず、いずれは廃業すると思われる」。
アドテク企業の統合も加速する
アドテク企業がベンチャーキャピタルから資金を調達するのがさらに困難になっているので、オラクル(Oracle)、アドビ、セールスフォース(Salesforce)のようなハイテク複合企業だけでなく、たとえばベライゾンのような通信事業者さえも、アドテク企業の買収に乗り出せる。そう説明するのは、調査会社ピボタルリサーチ(Pivotal Research)のシニアリサーチアナリスト、ブライアン・ウィーザー氏だ。
ゼマンタのサウィッキ氏はまた、アドテク企業の統合も加速すると考えている。その根拠は、技術に投資してきた企業が、メディアアービトラージモデル(テクノロジー料金が明確にならない、すべてをまとめる価格方式)ではなくソフトウェアサブスクリプションベースのモデルに移行しているからだという。
「アドテク買収の最後の波は大失敗だった。Googleは、『アドメルド(Admeld)』と『ワイルドファイア(Wildfire)』に何百万ドルも費やしたが、結局この2つのプラットフォームを閉鎖した。また、AOLは『グラビティ(Gravity)』を閉鎖した」と、サウィッキ氏は説明する。「SaaSが登場する前だったので、これらの買収は良い結果につながらなかったのだ」。
マーケクラウド企業にプレッシャー
アドテクの統合は今後も続くだろう。少なくとも、アドビによるチューブモーグルの買収は、セールスフォースやオラクル、IBM、SAPといったほかのマーケティングクラウド企業にプレッシャーを与える。これらの企業は、広告配信に進出してアドビに対抗するか、そうしない理由を顧客にはっきり説明するよう迫られるだろうと、アドテク企業ナニガンス(Nanigans)の事業開発担当シニアバイスプレジデント、ベン・トレゴー氏は語る。
「私の予想では、彼らはいずれ思い切って決断する。DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)やほかのバイイングプラットフォームが買収される例が増えるだろう」とトレゴー氏。
そして、マーケターにとっては、こうした統合が続く必要がある。その理由は、多種多様な技術プロバイダーと協力し、主要なニーズと需要の比較的短いリストを解決することは、彼らにとって現実的ではないからだと、コンサル企業メディアリンク(MediaLink)のマネージングディレクター、マット・スピーゲル氏は語る。
「我々は、技術プロバイダー1社がすべてを解決するとは思わない。それでも、しばしばマーケターへの助言で、主要な技術プロバイダーを1、2社見つけて、それを足がかりにするようすすめている」と、スピーゲル氏は語った。
Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)