Adobeは23日、東京都品川区で「Adobe Marketing Cloud Customer Experience Forum 2017」を開催した。イベントではAdobeが注力する顧客体験がキーワードとなり、バズワードでトレンドでもあるAI(人工知能)における取り組みの「Adobe Sensei」が紹介された。
Adobeは23日、東京都品川区で「Adobe Marketing Cloud Customer Experience Forum 2017」を開催した。イベントではAdobeが注力する顧客体験がキーワードとなり、バズワードでトレンドでもあるAI(人工知能)における取り組みの「Adobe Sensei」が紹介された。
マーケティングソフトウェア群のMarketing Cloud周りでは、2016年3月の最大年次イベント「Adobe Summit」で企業間連携デバイス認証の「Adobe Device Co-op」を発表(解説記事)し、同年秋には動画広告DSPのTubeMogul買収を発表。デジタル広告方面の「実質的」な機能を拡大している。
ここにAIの「Adobe Sensei」を加え、今後はどのような展開をするのだろうか。Adobeは今年も3月19〜23日に年次の最大イベント「Adobe Summit」を米ラスベガスで開催する予定で、今後の同社の戦略や新技術が明らかになりそうだ。
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佐分利社長:CESは人工知能ブーム
アドビ システムズ 株式会社 代表取締役社長 佐分利ユージン氏は「年初に世界最大規模を誇るテクノロジーの祭典『CES』が開催された。注目を浴びたのは人工知能や自動運転だった。自動車メーカーの出展が多かったが、AIを活用してドライバーとの関係を築くという新たなやり方が開始された。ムードに合わせて音楽を変えてみるなどの環境に合わせて対応する」。
「デジタルを通じたカスタマイズされたエクスペリエンス。常時ネット接続は当たり前だが、いまはマルチデバイスでもある。企業と顧客の接点はこれまでになく多様化している。もうひとつ面白いことが起きているが、それはジェネレーションX(1960年代初頭または半ばから1970年代に生まれた世代)とミレニアル世代(1980−2000)、ジェネレーションZ(2000−2010)はまったく異なる環境で成長していることだ」。
「『いい乗用車に乗りたい。いい一戸建てを買いたい』というのがジェネレーションXの傾向だが、ミレニアルはモノをもつよりも体験を重視する。一般消費者の嗜好は変わりつつある」。
顧客重視が収益性を高める
破壊的要因にも注意を払わないといけない。「世界一大きなタクシー会社のUberは、車を一台も所有していない。その発想を応用して、Uberイートをはじめた。デジタルディスラプション(
佐分利氏はエクスペリエンスをうまく最大化した例として 米キャリア大手 T-mobileを挙げた。「顧客に夢中なキャリア」と自分らを位置づけ、特徴的なCEOのもとグローバルローミングを無償にした。「ストリーミングを利用したいときのみアップデートを必要にし、メール、テキストは無償にした。ものすごい顧客満足度を上げた。年間縛りの契約も撤廃した」という。

アドビ システムズ 株式会社 代表取締役社長 佐分利ユージン氏
T-mobileは2012年に3300万人から2016年に7000万人に迫る勢いで利用者拡大を達成した。「エクスペリエンスを実現する価格プレミアム、顧客ロイヤルティ、競合他社より高い収益性、最終的には高い株価を達成している」。
AI競争、Adobe Senseiの真価
佐分利氏は「AIは流行り言葉だが、Adobeのユニークさとしては焦点をエクスペリエンスに集中して開発していることだ」と語った。
デジタルマーケティングBU Marketing Cloud エバンジェリズム統括責任者 マーク・イーマン氏はAdobeが昨年11月に発表した人工知能のフレームワーク、インテリジェントサービスの「Adobe Sensei」のデモを見せた。「スカイツリー、近い」と検索すると、Adobeセンセイが2つの要素をもつ画像を見つけ出してくれる。スカイツリーの背景の空に対し、別の空の写真をもってきて、「空を取り替える」とすると、空が入れ替わる。
イーマン氏は「コンテンツベロシティ」(即座にコンテンツを制作し、投入すること)を達成できる、と力説した。
Adobe Marketing Cloudと近接する領域では「AI大競争」の様相だ。SalesforceがCRMのAI「Salesforce Einstein」を発表し、オラクルも「Adaptive Intelligent Applications」を掲げている。マイクロソフト(Adobeと提携)、SAP、IBMもAIに大型投資をする。
2016年3月に米ラスベガスで開催されたMarketing Cloudのイベントでは、コンテンツ生成支援分野での機械学習活用が紹介されていた。同年11月発表のAdobe Senseiはフレームワーク、インテリジェントサービスという位置付けであり、より広範な利用可能性を開こうとしているように見える。

Adobe デジタルマーケティングBU Marketing Cloud エバンジェリズム統括責任者 マーク・イーマン氏
Adobe Senseiを用いた機能としては、画像解析と検索での活用、ストック写真の「Adobe Stock」での画像検索、フォント解析、顔認識と編集、セマンティックセグメンテーションと呼ばれる物体認識などだ。
メディアプランの高速化、コスト減
米ラスベガスなどで複合型エンターテイメントホテルを展開するMGM リゾーツ・ナルのメーガン・エストラダ氏は「以前は5メディアエージェンシーを活用し、75のメディアプランを展開していた」と語った。
新しいメディアエージェンシーを決め、ゼロベースでAdobeのプラットフォームを採用したという。ウェブサイトを改良し得られる顧客のデータを拡大し、さまざまな顧客接点で顧客にパーソナライズされたアプローチをかけられるようになった、と話した。

MGM リゾーツ・ナルのメーガン・エストラダ氏
「以前は分断されたエコシステムのせいで、客は今買おうとしているのにキャンペーンの確定に2週間かかったが、Adobe導入で一括化され、速度が高まり、メディアバイイングのコストが落ちた」と説明している。
Written by 吉田拓史 / Yoshida Takushi
Photo by GettyImage