マーケティング活動を包括的にサポートするクラウドサービスを展開するAdobe。同社取締役(プロダクトストラテジー・アドバタイザーソリューション担当)のビル・ムンゴヴァン氏は「データを上手く活用したものがよりスマートな広告運用を手にできる」と語っている。
データの粒が細かくなり、ユーザーが多様なデジタル行動をとることがわかりはじめた。ダイナミックに変動するユーザー行動に対応するには、アトリビューション(広告効果を評価し、予算配分を最適化するプロセス)を含むオペレーションを、ソフトウェアで自動化し、作業を簡易化することは重要な選択肢だ。日本企業ではジョブローテーションが頻繁にあり、デジタル・マーケティングの担当者が変わりやすいことも自動化のニーズを後押しするかもしれない。
Adobe(アドビ)はデジタル広告配信自動化ツールのAdobe Media Manager(アドビメディアマネージャー:AMM)を提供している。同社取締役(プロダクトストラテジー、アドバタイザーソリューション担当)のビル・ムンゴヴァン氏は広告運用におけるオートメーションの重要性を指摘。「データをうまく活用したものがよりスマートな広告運用を手にできる」と語っている。
――AMMでヤフージャパンのヤフーディスプレイネットワーク(YDN)が活用できるようになるそうですね
ヤフージャパンは日本でとても影響力のあるプラットフォームです。ヤフージャパンとはトラッキング(ネット行動の追跡)の統合を進めています。AMMを通じて、ヤフージャパンのユーザーをトラッキングできるようにしているということです。検索に関してはすでにそれができていますが、YDNに関しては、来年にはAPIへのフルアクセスができるようになります。
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――ヤフージャパンのクロスデバイストラッキングをAMMの利用者も享受できますか?
私が理解するかぎりですが、ヤフージャパンはクロスデバイストラッキングが可能です。もちろん、ログインユーザーに限られますが。ユーザーがログインしてさえいれば、それぞれのデバイスをまたいだトラッキングが可能になります。
――Google、Facebookのもつデータと広告主のフィーストパーティデータをマッチさせられますか?
Facebookのデータと広告主のファーストパーティデータをマッチさせることができます。一方、Adobeは今春のサミットでは、我々は広告主が協調してクロスデバイストラッキングをスケールさせるソリューションを紹介しています。「デバイスコープ(Adobe Marketing Cloud Device Co-op)」(関連記事)。
この分野ではGoogle、Facebook、ヤフージャパンも皆、異なるソリューションを提案しており、Adobeもまた異なるソリューションを提案しています。このなかで、Adobeだけが広告から収益を得ていないため、「客観的」でいられるのと思います。広告主はAdobeから最高のソリューションを得られるはずです。
――Google、Facebookは大量のデータをもち、それを握りしめています。ウォールド・ガーデン(壁に囲まれた庭)と呼ばれています。この状況をどう捉えますか?
そのためにデバイスコープを開発しているのです。広告主たちが個人情報を秘匿したまま、トラッキング情報を提供し、個人とデバイスをマッチさせることができます。ウォールド・ガーデンのパブリッシャーたちはまったく異なる状況にあるでしょう。彼らはより広告を売りたいという誘惑に駆られるということです。我々はより広告主に対してフラットな立場なのです。
――AOLを傘下に置くVerizonが米Yahooのコア事業を買収しました。パートナーシップ戦略にも変化はあるのでしょうか?
変化はありません。VerizonはAOLを2015年に買収しました。AOLはいまも自分の広告枠を自分で売ろうと考えています。米Yahooの検索、ディスプレイに関しては今後もAMMで買い付けができます。Verizonが今後何をするかによりますが、現状AMMには変更はありません。プレスから得ている情報以上のものは私にはないですが、AOLと米Yahooを横断して買い付けができるのならば対応したいと思いますが、現状わかりません。
――先月LINEが上場し、広告プラットフォームに関しても整備しています。パートナーシップを結ぼうという考えはありますか?
特に日本で強いメッセージングアプリだと思います。日本はAMMにとって重要な市場です。LINEはポテンシャルな提携相手だと思います。機が熟せばそうなることもあるでしょう。LINEのAPIがうまく機能するかを確かめようと思いますが、現状はYDNが先になるでしょう。
――バイドゥ(百度)の検索広告が利用可能ですが、市場の大きさを鑑みて、中国の広告手段をより拡大する可能性はありますか?
中国の広告手段に関してはあまり顧客から要望がなく、むしろ韓国のネイバーの要望が大きい。ただ、われわれは欧州に大きな顧客基盤をもち、バイドゥよりもロシアの検索エンジン「ヤンデックス(Yandex)」の方がニーズが大きいという事情があります。われわれの顧客には、中国でデジタル広告を買い付けることにまだあまりニーズがないのです。
豪州やシンガポールにも一定の顧客がおり、タイにも少し顧客がいるが、われわれは日本にフォーカスしており、YDN、LINEが重要だと思っています。その後中国のデジタル広告に関しても検討するかもしれません。
――デジタル広告市場に関してはどのような観測をもっていますか?
デジタル動画広告は大きくなると確信しています。テレビ予算がオンラインに移転することが予想されています。すでに今年かなり大きくなってきましたが、来年も同様のペースで成長するでしょう。モバイル広告も成長が続きそうです。
――AMMでロケーションデータ(位置情報)に基づいた広告が可能になりました
たとえば、Googleが我々に位置情報を提供したとしたら、Googleを通じて特定の位置にある人へ広告を打つことができます。現在われわれは東京にいる人に広告を打てますが、大阪はまだです。広告主にとって、東京のある地域が価値が高く、別の地域が価値が低いならば、その入札プロセスはオートメーションにすることができます。店舗に人々が近づいた際にクーポンを発給するという形が考えられます。
――アトリビューションをどうやればうまく回せるでしょうか。それぞれの広告がどの程度貢献したかを評価するのは極めて難しいはずです。
我々は広告主に自由にアトリビューションモデルを設計できるようにしています。「広告Aは◯◯%貢献した、検索広告Bは☓☓%貢献した」というふうに。しかし、実際には大半の広告主にとって、それぞれの広告がどれほどコンバージョンに貢献したか、どう数値を割り振ればいいのかを知るのは難しい。我々は6つのアトリビューションモデルを提供し、広告主はそのなかから一番いいものを選んでもらうようにしています。
ただし、次のステップがある。次の四半期にテストし、来年の春頃のサミットで発表したいと思っているのは、アルゴリズム駆動のアトリビューションです。6つのアトリビューションモデルのなかからモデルを選択した後、それぞれのクライアントごとにアルゴリズムによってカスタマイズされます。得られた結果による、モデルの調整は自動化されます。我々は広範な範囲におけるオートメーションを提供しているのです。
さらにシミュレーションも可能です。ひとつのモデルを選択したとして、別のモデルが気になれば、シミュレーションし、パフォーマンスがどう変わるかを試せるのです。シミュレーションの結果によってはモデルを入れ替える決断を下せるでしょう。最初の段階は人間がやりますが、後のプロセスはマシーンがやってくれます。
※筆者注:アトリビューションは金融業界から「輸入」された手法。金融商品のパフォーマンスは数値化されており、それぞれの商品の貢献を評価できるが、広告商品の「効果」はより複雑であり、一部の調査では「クリックと購買が相関しない」とわかっている。アトリビューションには「ラストクリック」「リニア」「ポジションベースト」などのモデルがあり、ムンゴヴァン氏が触れている6つのモデルもこれを指している。
――ダイナミッククリエイティブオプティマイザー(DCO)はリアルタイムにユーザーに応じたバナーのクリエイティブを作ることができるといいますが、そのプロセスはどうやれば可能なのでしょうか?
バナー広告はいくつかの要因でできているので、10の異なる素材を頂ければ、DCOは100パターンのクリエイティブを作ることができます。ユーザーがニュース記事のページをロードしたとしましょう。その瞬間、DCOはCookieを通じてユーザーが誰かを認識し、分析ツール、DMP(データマネジメントプラットフォーム)のデータと掛け合わせ、もっとも関連性の高い広告を提供します。
――Cookieはときに正確ではないかもしれません。
確かにときにそうです。しかし、アナリティクスデータ、サードパーティデータを利用すれば関連性の高い広告を出すことは可能です。アプリ利用が好まれるモバイルに関しても同様の方法をとることができます。
――デジタル広告を上手く活かす術は何でしょうか
データをうまく活用できれば、よりスマートな広告運用が可能になります。もしそれが、AMMでされれば嬉しいですが。AMMはAdobeのアナリティクスデータとサードパーティデータを活かすように設計されています。
Text, Photograph by 吉田拓史