Adobeは21日、広告運用管理プラットフォーム「Advertising Cloud」のリリースを発表した。Advertising Cloudを利用するとテレビと多数のデバイス / プラットフォームにまたがるデジタル広告 […]
Adobeは21日、広告運用管理プラットフォーム「Advertising Cloud」のリリースを発表した。Advertising Cloudを利用するとテレビと多数のデバイス / プラットフォームにまたがるデジタル広告を一元管理できるという。今回のリリースには以下のような特徴があるようだ。
*テレビ軸で動画などのデジタル広告を買う大手広告主を想定顧客にしている
*セールスフォース、オラクルなどに対し、顧客接点での強みを増し、ユニークさを狙う
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*公式にアドテク業界に参入したと言える。Google、トレードデスク(The Trade Desk)などが競合
Adobeは昨年12月に動画DSPのチューブモーグル(TubeMogul)を5億4000万ドル(約600億円)で買収完了した。Adobeのクラウド製品群にもとからあるさまざまなデジタル広告買い付け・管理機能とチューブモーグルがもつ、テレビとデジタルを横断したデータを測定し、プランニングを行い、デジタル動画買い付けをリアルタイムに執行する機能を統合した。
同社のクラウド製品を合わせると、テレビ―デジタルを貫いたプランニングができるようだ。(1)企業は顧客の行動を知り、(2)分析し、(3)広告コンテンツを製作し、(4)動画・ディスプレイ・ソーシャル・検索広告を買い付け、(5)テレビ広告を含んだ効果測定から予算調整をする――という形。
昨今のテレビと動画の融合トレンドに狙いを定めた製品とも言える。米国では、テレビとコネクテッドテレビ、デスクトップ、モバイル、タブレットなどで視聴されるデジタル動画の垣根が極めて小さくなりつつあり、サービスが百花繚乱だ。
eマーケター(eMarketer)の昨年9月の予測値によると、米国のデジタル広告費は720億ドル(約8兆円)に達し、テレビ広告費712億ドル(約7兆9000億円)を超える。2016年以降はデジタルがテレビを突き放していく。デジタル広告において動画のパイはまだそこまで大きくないが、Google、Facebookだけでなく、通信キャリアのベライゾン、AT&Tなどの世界時価総額ランク20位以内に入る企業が投資を注ぎ込む、成長領域だ。
テレビとデジタルをまたぐチューブモーグルの機能により、Adobeはテレビを主軸にした大型キャンペーンに食い込める可能性がある。
Adobeのテレビ・映像業界への関与は複雑だ。テレビ事業者のデジタル配信機能や動画広告挿入機能などを「Primetime」で提供しており、他方映像編集ソフトを制作サイドに提供している。買収したチューブモーグルはテレビとデジタル広告の買い付けを自社のダッシュボードで一括管理する「プログラマティックTV」のビジョンをもっていた。これはクール前に新番組枠を売る「アップフロント」という伝統的な米広告業界の慣習とは異なる。
CRMにおけるユニークなポジション
Adobeはマーケットが重なるセールスフォースやオラクルに比べて、顧客接点での能力を増しユニークになる。今回のリリースは、Adobeがこの両者に対して、グローバルで1950億ドル(約21兆6000億円、2016年予測値)のデジタル広告市場とその周辺市場に大きく先行しようとする考えがうかがえる。
Adobeはマイクロソフトとの協業を進めている。Adobeは21日(現地時間)にマイクロソフトと共同ソリューションの提供を開始したと発表した。セールスやカスタマーセンターのような実働部隊を運営・管理するマイクロソフトの製品とマーケティングの管理するAdobeの製品などが連携するという。フロントエンドとバックオフィスで強さを補い合う統合のようだ。
ガートナーが定義するCRM(顧客関係管理)市場では、2015年の上位がセールスフォース(シェア20%)、SAP(同10%)、オラクル(同8%)の順であり、マイクロソフト(同4%)とAdobe(同4%)はシェア4%程度で上位3社を追っており、この点も協業の要因だろう。両社のビジネスのすべてがこの「CRM市場」に含まれているわけではない。
アドテクに本格参入した形でGoogleなどとの競合がはじまったとも言える。検索・ディスプレイ広告のソリューションにおいてはGoogleはAdobeの重要なパートナーだろう。しかし、同時に他社のトラッキングを許容しないGoogleの「ウォールド・ガーデン(塀に囲まれた庭)」がAdobeのソリューションに大きく影響している。
アドテクのスイートスポット
Adobeは企業間データ共有によるIDベースのクロスデバイス測定「Device Co-op」でウォールドガーデンに挑もうとしてきた。クロスデバイス測定をめぐっては、WPPが昨年末開発を表明したが、もうひとつのウォールド・ガーデンであるFacebookがクロスデバイス測定を広告主に開放するテストを開始している。
Advertising Cloudのように、多数のデジタル広告買い付けを一元管理するプラットフォームとしては、トレードデスクも代表的だ。アドテク分析で知られる投資会社ルマ・パートナーズの2016年9月のレポートによると、アドテク勢の株価・売上高マルチプルの平均値はトレードデスクを除くと大幅に下落する。つまり、広告買い付け管理プラットフォームというモデルは、アドテクビジネスのスイートスポットということになる。
Adobeがマーケティングテックとアドテクの垣根を大きく跨いだ。Adobeがウォールド・ガーデンとの直接的な競争を避けながら、企業のアドテク周りをスムーズにするユニークなポジションを築けるか注目したい。
Written by 吉田拓史 / Takushi Yoshida
Photo by GettyImage