ストリーミング動画に投下される広告費が増えるなか、詐欺師たちもいち早く、戦利品の分け前をかすめ取ろうと画策しはじめている。とある調査結果によると、ストリーミング動画の広告リクエストのうち、20%は不正なリクエストが占めるといい、3月の推定値である18%から上昇している。
ストリーミング動画に投下される広告費が増えるなか、詐欺師たちもいち早く、戦利品の分け前をかすめ取ろうと画策しはじめている。
アドバンストTVの広告を扱うマッドハイブ(MadHive)の推定によると、ストリーミング動画の広告リクエストのうち、20%は不正なリクエストが占めるといい、3月の推定値である18%から上昇している。この数字と、その他業界が出しているOTT(オーバーザトップ)広告費に関する推定値に基づいて、ブロックチェーン広告の研究開発を行う非営利のコンソーシアム、アドレジャー(AdLedger)は、2019年にOTT広告の不正で無駄になる広告費を14億ドル(約1526億円)と予測している。
IPGのマグナグローバル(Magna Global)の推定によると、米国のOTT広告費は2019年の38億ドル(約4143億円)から2020年には38%増の50億ドル(約5451億円)に成長する。
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「OTT広告は費用が高いうえに、在庫量は少ないという状況が長く続いた。ここ1〜2年で、[OTT広告の]供給量は爆発的に増えたが、価格は高いままだ。つまり、詐欺師にとっては格好のターゲットと言える」。こう説明するのは、アドレジャーのエグゼクティブディレクターで、マッドハイブのパートナーシップおよびプラットフォーム事業担当のバイスプレジデント、クリスティアナ・カッチャプオティ氏だ。それでも、業界にはOTT広告には不正など一切ないと信じるものもいる。
「デジタル育ちのひとりとして、それはありえないと分かっていた」と、カッチャプオティ氏は言う。氏は以前、トレマービデオ(Tremor Video、現在のTelaria)とウォチット(Wochit)を含む、いくつかのアドテク企業に在籍していた。
OTTにおけるアドフラウド例
ボットやなりすましなど、広告オークションの操作で培った技術を、単に動画ストリーミングの領域で応用しているだけの詐欺師たちがいる一方で、OTT広告のアドフラウドにはいくつかの特異性も見られる。
アドレジャーによると、ひとつの大きな違いとして、OTT広告の半数(40%)近くがサーバーサイド広告挿入で配信されている。この場合、配信される広告はJavaScriptを実行しない。このため、主に不正検知のサービスを提供してきた従来のサードパーティベンダーは、モバイルやデスクトップの環境と同等の効果をもって、不正を追跡する手段を必ずしも備えていない。
さらに、広告バイヤーたちは「プレミアムパブリッシャーから広告を買っている」と思っているかもしれないが、サプライサイドプラットフォーム(SSP)も実は広告の買い付けを操作できる。
「SSPやアドネットワークは、広告ポッド(1回のCM挿入時間内に連続的して再生される複数の広告枠の集まり)全体を買い付け、細かい広告スロットに分割して転売している。自分たちは無料でスロットを使い、残りで利ざやを稼ぐやり口だ」と、アドレジャーのカッチャプオティ氏は説明する。パブリッシャーがこのような行いを検知するには、SSPの配信レポートを入手しなければならないし、仮に入手できたとしても、どこを見ればよいのか分からなければ、不正に気づくことはできないだろう。
不正率は最大90%のケースも
このほか、OTT広告に共通の不正として、「ドメインスプーフィング」と呼ばれるIPアドレスのなりすましがある。高額のCPMを目当てに、トラフィックの流入元を米国のIPアドレスに偽装する手口だ。アプリのなりすましも同様で、ディスプレイ広告におけるドメインのなりすましと同じように、プレミアムアプリに属する広告在庫を偽装する。
このほか、複数のOTT広告が広告ポッドにグループ化されるという性質上、ときに誤判定が生じることもある。「ルーピング」という詐欺の手口では、同じデバイスまたは同じIPアドレスが短時間では到底視聴できないような広告リクエストを送信する。たとえば、ひとりの人間が30秒の広告5件を60秒で視聴することはできない。だが、ダブルベリファイ(DoubleVerify)でプロダクトマネジメント担当のバイスプレジデントを務めるロイ・ローゼンフェルド氏の説明によると、大勢の人間がOTTでライブストリーミング動画を閲覧しているところでは、アドサーバーは、コマーシャルの時間がはじまる前に、当該の動画を視聴しているユーザー全員の分の広告を同時に取ってこようとする。
「一見、不正行為とまったく同じに見える。深い分析と、そのための適切な方法論が必要になる」と、ローゼンフェルド氏は指摘する。「アドフラウドでないものをアドフラウドと判定すれば、利益よりも害のほうが大きくなるだろう」。ダブルベリファイが見るところでは、OTT広告の不正率は、キャンペーンにもよるがおおむね2%から最大90%である。
もっとも有効な自衛策のひとつ
カッチャプオティ氏は、バイヤーにしろ、彼らが使う不正検出のサービスプロバイダーにしろ、アドサーバーが取ってきた広告と、最終的に表示され、閲覧された広告を比較することにより、このような不正は排除できるという。サードパーティの不正検出サービスと連携する以外に、広告主がOTT詐欺に対して取れるもっとも有効な自衛策のひとつは「ベンダーにレポートの透明化を迫ることだ」と、カッチャプオティ氏とローゼンフェルド氏は、口を揃えて助言する。
アドサーバー会社のスマート(Smart)で最高マーケティング責任者(CMO)を務めるマイケル・ネヴィンス氏の言葉を借りれば、新しいテクノロジーには「濁りのある環境」がつきもので、そういう環境は得てして悪党を引きつける。加えて、OTT在庫に対する需要増とCPMの高騰により、不正の嵐が吹き荒れかねない状況とも言う。
「不正検出の技術は当然、高度化するし、それは有用なことなのだが、デバイス業界は有効なスタンダードを欠いたまま、断片化された状態が続いている」と、ネヴィンス氏は指摘する。「この課題にも対応しなければならない」。
Lara O’Reilly(原文 / 訳:英じゅんこ)