ニューヨーク南部地区連邦地裁に先日提出された未編集の裁判所文書によれば、Googleは自社の利益のために、プログラマティックオークションの結果を密かに操作してきたという。にもかかわらず、いまのところ、憤慨の声はほとんど上がっていないようだ。
Googleに対する最新の疑惑の数々に広告主やパブリッシャーが困惑しているとしても、彼らはそれを表に出していない。
ニューヨーク南部地区連邦地裁に先日提出された未編集の裁判所文書によれば、Googleは自社の利益のために、プログラマティックオークションの結果を密かに操作してきたという。にもかかわらず、いまのところ、憤慨の声はほとんど上がっていないようだ。各業界団体は沈黙を守っている。その一方で、「あなたがたは何を期待していたんだ?」とでもいわんばかりに業界関係者らは肩をすくめている。彼らはずっと、プラットフォーム時代のオンライン広告という厳しい現実を受け入れてきた。彼らにとって今回の疑惑は、そうしたことをはっきりと思い出させるものなのだ。
ザ・プログラマティック・アドバイザリー(The Programmatic Advisory)のCEO、ウェイン・ブロッドウェル氏は、「業界関係者なら、この訴状を読み終えるころには、思わず大きくうなずいているはずだ。業界関係者の視点から見れば、まったくその通りだとしかいいようがないからだ」と語る。「透明性に関しては、Googleは協力的とはいい難い企業だ。この点については、業界関係者のほとんどがそう感じていると思う。いま、そのわけが明らかになりつつある」。
Advertisement
これまでの疑惑の焼き直し
この裁判所文書(米14州がGoogleに対して起こした訴訟の一環として、10月下旬に未編集のまま提出された)は、これまで未公開だった情報の数々を赤裸々にしている。この訴訟が明らかにしようとしているのは、Googleがデジタル広告販売で最大のブローカーとして、ウェブのいたるところでその力を乱用してきたかどうかという点だ。
この裁判所文書には、先述の14州が陪審裁判を要求する、Googleに対する疑惑の数々が詳細につづられている。この記事の取材で話を聞いた広告関連企業の幹部7人によれば、これら疑惑の一部はすでにわかりきっていることだという。彼らが意見を異にする点もある。Googleがユーザーを欺いて彼らのデータを入手し、自社の広告事業を強化させたという訴状の主張だ。だが、それ以外の主張に関しては、同社のこれまでの疑惑の焼き直しであると、彼らはいう。特にそうなのが、ヘッダービディングにおけるGoogleのポジションだ。
メディアコンサルタント企業のカントン(Canton)で最高戦略責任者を務めるロブ・ウェブスター氏は、次のように語る。「確かに刺激的ではあるが、今回のリークは、我々が疑ってもみなかったことを何も教えてくれていない。そのなかで一番ダメージが大きいのは、Googleが今後、支配体制をどこまで広げるつもりなのかが、このリークによって明らかにされている点だろう。このリークが強調しているように、ヘッダービディングは、Googleがデジタル広告費を掌握できる体制にとっての脅威とみなされていた」。
Googleがプログラマティクオークションを支配する現状にフラストレーションを抱えていたライバル各社は、その回避策を思いついた。それがヘッダービディングである。ヘッダービディングは、パブリッシャー各社がアドエクスチェンジをリアルタイムで競い合い、最高の広告価格を得るための手段として、2015年に登場した。パブリッシャーがGoogleのアドテクを利用して自社の広告スペースを広告主に売る動機を減らすこと。それがヘッダービディングの目的だった。
こうすれば、パブリッシャーは利益の一部をGoogleに取られなくてもよくなる。裁判所文書によれば、その取り分は落札額の19~22%であり、その他のエクスチェンジが請求する手数料の2倍に相当するという。確かに高いが、ほかのアドテクベンダーが請求する額と比べて、そこまで高いというわけでもない。しかしそれでも、多くのパブリッシャーが、この割高な手数料を避け、Googleに対抗しつつ得る金を増やすための手段として、ヘッダービディングを受け入れた。2016年には、米国内の主要オンラインパブリッシャーの70%がヘッダービディングを採用するようになった。
ヘッダービディングの当面の前途は洋々に見えた。Googleまでもが、それを受け入れているように思われた。だが、今回の訴訟で明らかにされた社内プレゼンテーションのメモによれば、Googleは水面下で、その台頭を「実存的な脅威」とみなしていたという。ヘッダービディングは、Googleのアドエクスチェンジ手数料を回避する手段をパブリッシャーに与えるだけではない。それは同時に、プログラマティックオークションの管理から得られるデータをも阻害する。事実、Googleのある幹部は、ヘッダービディング回避策の発見こそが「理想」だと述べていたという。そしてついに、その理想的手段をGoogleは見つけた。「ジェダイ(Jedi)」のコードネームが付けられたイニシアチブを介して、ほかのエクスチェンジの入札額のほうが高くても、Googleのエクスチェンジを勝たせる方法を見つけたのだ。「オープンビディング(Open Bidding)」の正式名称が与えられたこのプログラムは、ヘッダービディングの代替手段として盛んに売り込まれた。ところが、現実は違っていた。Googleが目論んでいたのは、オープンビディングがヘッダービディングに完全に取って代わることだったのだ。その執念は凄まじく、オープンビディングがもたらす売上の額よりも、ヘッダービディングの使用を中止するパブリッシャーの数を気にするほどだったという。裁判所文書から引用したGoogleの言葉を借りるならば、ジェダイのプログラムは「パブリッシャーに最適ではない利益をもたらし、もし外部に漏れれば、否定的な報道という重大なリスクをもたらす」ものだった。
まったく無力なパートナー企業たち
裁判所文書によれば、ジェダイは多方面にわたる計画だったようだ。Googleの「AMP(アンプ:Accelerated Mobile Pages)」も、この計画の一部だった。今回の訴訟は、Googleが非AMP広告のロード時間を意図的に遅くしているとして同社を非難している。これにより、その他の広告ページに対する競争上の優位性をGoogleのAMPページに与えているだけではなく、ヘッダービディングの速度も遅くなっているという。この遅れを利用すれば、パフォーマンスが遅すぎることを理由に、Googleはヘッダービディングの信用に傷をつけることができる。
だが、Googleの計画はこれだけにとどまらなかった(もし、この文書が信じるに足りるものであれば)。2017年3月、Facebookがヘッダービディングの支援を計画していることをGoogleが知ると、事態は新たな局面に突入した。
Facebookは当時、Googleがプログラマティックオークションのデータを密かに使って、自社の広告事業を強化しているのではないかと疑っていた。そこでFacebookは、自社の広告マーケットプレイス「フェイスブック・オーディエンス・ネットワーク(Facebook Audience Network)」を通じてヘッダービディングを利用する計画を立てていた。Googleはこの動きに強い警戒心を抱いた。事実、Googleのある幹部は2017年、Facebookによるヘッダービディングのサポートを阻止することこそが、Googleのトッププライオリティであると述べている。そしてついに、両社は取引を結んだ。Googleは米国内で当時、パブリッシャーのモバイルアプリの広告インベントリー(在庫)で430億件のオークションを実施していた。この取引では、これらのオークションでFacebookが落札する頻度が決められたという。また、Facebookは同じオークションのほかのビッダーよりも5~10%安い手数料でGoogleからインプレッションを購入できるという取り決めもなされた。Googleは、ディスカウントとは別に、入札すべきインプレッションと避けるべきインプレッションに関する情報をFacebookに与えることにも同意した。もしこれが本当なら、Googleはプログラマティックオークションのさまざまな側面を操作し、Facebookが落札率を高める手助けをしていたことになる。そこにはさまざまな示唆が含まれている。
- Googleの行動は反競争的である
- Googleは事実上、反競争的なオークションで別の寡占企業と共謀している
- パブリッシャーは貴重な売上を意図的に奪われている
- オークションに不正が横行しているせいで、独立系アドテク企業は圧倒的に不利な競争を強いられている
Googleが、Chromeブラウザのユーザー追跡方法を変更しようと計画していることを考えると、これらの点はいっそう気がかりだ。
「Googleがこの行動パターンに従えば、それが意味するのは、同社がその反競争的ポジションを強めて、さらなる支配力を獲得し、パブリッシャーや独立系アドテク企業にさらなる打撃を与えるということだろう」と、ウェブスター氏は語る。
それがパブリッシャーであれ、広告主であれ、あえてGoogleとFacebookのなすがままになってきたこれまでの経緯を改めて思い出すきっかけなど、いらなかったに違いない。だがそれでも、この最新の疑惑の数々が、こうした企業が実際にはいかに無力であるかということを浮き彫りにしているのは確かだ。
『美しきは醜く、醜きは美しい』
こうした疑惑のひとつが「gトレード(gTrade)」だ。これは社内に設置された、Googleがプログラマティックオークションで優位に立てるようにすることを任務とする専属チームだ。同社はまた、広告主が入札したインプレッションについての情報を利用して、オークションで自社の技術を駆使して競合他社に勝ちやすくするプロセスも考案した。元連邦準備制度理事会議長のベン・バーナンキ氏にちなんで名付けられた「プロジェクト・バーナンキ(Project Bernanke)」である。裁判所文書には、バーナンキに関する一例が挙げられている。ある医師は、Google Adwordsを使って、ある特定の人をターゲットにするUSAトゥデイ(USA Today)の広告に10ドルで入札した。フォード(Ford)は、他社の広告購入ツールを使って、その医師と同じインプレッションに12ドルで入札した。その送り先は、どちらもGoogleのエクスチェンジだ。通常なら、そのインプレッションへの入札額で上回るフォードが勝つはずである。ところが、バーナンキはその医師の入札を操作して、それがGoogleのエクスチェンジで勝つようにする。Googleがエクスチェンジの手数料と自社の広告購入ツールの使用料の両方を得るためだ。これにより、Googleの広告購入ツールの勝率は20%以上アップし、その結果、その年商は2億3000万ドル(約262億円)増加したという。
繰り返しになるが、この話を聞いても、すべてのマーケターが驚くわけではないだろう。オンライン広告におけるセラーとブローカー、バイヤーとしてのGoogleのポジションが、同社のオンラインオークションの運営にどのような影響を与えているのか? 一部のマーケターはその理解を試み、その結果、Googleに対する疑念を募らせてきた。ほかのアドテクベンダーと違い、Googleが、自社が販売するインプレッションに関するデータを共有することはめったにない。今回の疑惑の数々は、これが本当にそうかもしれないという理由の説明にいくらか寄与している。それでもなお、マーケターたちがこれに応えて、何か思い切った行動に出るとは考えにくい。Googleがオークションを一望できる見晴らしのいい場所を押さえているからといって、広告主の価格を下げ、ほかのマーケットプレイスよりも優れていることがわかるわけではないからだ。いいかえれば、悪いもののなかから、いくらかましなものを選ぶのが最善策であるというディスプレイ広告の世界において、Googleはいつでも利用できる安全な答えと常に目されてきたのだ。
コンサルティング企業、レモネード・プロジェクツ(Lemonade Projects)のプログラマティックエコノミスト、トム・トリスカリ氏は、この点を次のように解説する。「十分すぎるほどの数の広告主がGoogleの広告オークションを受け入れるようになっているが、もはや彼らはそこを離れられなくなっている。シェア・オブ・ボイス(SOV)などの、さほど現実的ではないものを失うことになるのを恐れているからだ。この状況を表現しているのが、『マクベス』の冒頭部分だ。『美しきは醜く、醜きは美しい。霧と汚れた(アドテクの)空気のなかを飛んでいこうではないか』」。
Google側は真っ向から反論
当のGoogleは、一連の疑惑にミスリードの烙印を押している。同社の広報担当者は次のように語る。「(テキサス州の)パクストン司法長官の主張だからといって、それが真実とはかぎらない。この訴訟は間違いだらけだ。実際には、Googleの広告テクノロジーのおかげで、サイトもアプリもコンテンツ資金を調達できている。中小企業も世界中の顧客にリーチできている。オンライン広告の世界は競争が盛んだが、そのおかげでアドテク料金は下がってきた。パブリッシャーや広告主の選択肢も増えてきた。法廷では、司法長官の根拠なき主張に断固反論するつもりだ」。
Googleを頼みの綱にしている現状を考えると、この件に関して、パブリッシャーが消化しなければならないことは多い。おそらく、広告主以上にそうだろう。ヨーロッパの某パブリッシャーでコマーシャルディレクターを務めるある人物(匿名)は、次のように語る。「今回の暴露には、さほど驚いていない。これが強調しているのは、反トラスト問題に対するさらなる規制や法律の施行の必要性だ。いずれにせよ、裁判所の判断に委ねるしかない。Googleに対して現在行われている、競争・市場庁(Competition and Markets Authority)や欧州連合(European Union)の調査はどのように反映されるのだろうか?」。
[原文:Ad execs dismayed, but not surprised, by tactics Google allegedly used to control digital ad dollars]
SEB JOSEPH(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)