かつてクロスデバイスアトリビューション戦略で、広告主が依存していた、Googleの「ダブルクリックID(DoubleClick ID)」。その削除に適応するのは、メディアエージェンシーにとって、これまで容易ではなかった。
かつてクロスデバイスアトリビューション戦略で、広告主が依存していた、Googleの「ダブルクリックID(DoubleClick ID)」。その削除に適応するのは、メディアエージェンシーにとって、これまで容易ではなかった。Googleが提案した、プライバシー面で安全な代替のアトリビューション製品「アドデータハブ(Ads Data Hub:以下、ADH)」は、ベータ版のままで、初期に起こりがちな問題をまだ抱えている。だが、広告業界の幹部によると、1年が過ぎ、エージェンシーはADHを役立てるか、ADHに代わる製品を求めるようになったという。
グループ・エム(GroupM)はまだ、ADHの実装に取り組んでおり、ADHに対するニーズについてGoogleのプロダクトチームと継続的に話し合っている。グループ・エムで最高データ責任者を務めるリチャード・ロイド氏によると、まだ取り組んでいる途中だ。「邪魔をされずにログファイルデータにアクセスできる世界から調整されたADHに移行しようとしているが、それに伴う問題すべてを解決したわけではない。だが前進しつつある」と、ロイド氏は語る。
Googleは、ADHで測定中の広告キャンペーン数について公式発表していないが、広告業界の情報筋によると、主要な顧客のバーティカル全体で約4000だという。Googleは2018年8月、「一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)」で求められる、消費者に対するデータプライバシーの義務を引き合いに出して、欧州でダブルクリックIDを削除した。
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「この1年間、エージェンシーに対応する重要な機能の設計とADHへの組み込みに協力してくれた、パートナーのエージェンシーに感謝している。この分野での継続的なパートナーシップに期待している」と、Googleの広報担当者は述べた。
だが、ダブルクリックIDの削除によって、マーケターは行動の変更を迫られ、エージェンシーはアトリビューションモデル戦略の見直しに懸命に取り組まざるを得なくなった。「(GoogleのダブルクリックIDという)単一の製品に基づく万能なアトリビューションモデルの時代は終わった」と、ロイド氏は付け加えた。
メディアプランの全体像
ダブルクリックIDでは、Googleのエコシステム外のパブリッシャーに渡ってIDの同期が行われており、GoogleによるダブルクリックID削除時にエージェンシーが直面した戦略上の最大の課題は、メディアプラン全体を見ることができるかどうかだった。ADHは、Google独自のウォールドガーデン内で運用するよう設計されているので、メディアプランのそうした全体像がわからない。FacebookやAmazonのようなほかのプラットフォームも、クリーンルーム方式の製品を開発中だが、そうした個別のエコシステム内のモニタリングにしか役立たない。
大手メディアエージェンシーの上級幹部によると、GoogleがADH外でユーザーレベルのデータをもう共有しないため、大量のGoogle製品の全面的な導入を迫られたマーケターがいる一方で、ADHに代わるもっとオープンなパートナーの検討を強いられたマーケターもいるという。「マーケターの決定は、Googleとの関係を、どの程度のレベルに置くによって左右される」と前述の幹部は付け加えた。
コンサルティング企業カントン・マーケティング・ソリューション(Canton Marketing Solutions)の創業者、ニック・キング氏によれば、通信会社のO2、ボーダフォン(Vodafone)、BTなど、大手ブランドの広告主数社は、もっと広範なエコシステムで測定するため、アトリビューションでGoogleを利用しなくなったという。ブリティッシュ・ガス(British Gas)も同様だ。「ADHは、完全なアトリビューション製品ではなく、GoogleがフィードからIDを削除したときに失われた機能の代わりにはならない。Googleでの活動の分析には使えるが、ブランドがエコシステム全体の測定を求めている場合は、ほかのテクノロジーを勧めなくてはならないことが多い」と同氏は語った。
アトリビューションの課題
だが、エージェンシーがメディアの計画・購入方法を見直した原因は、GoogleによるダブルクリックID削除だけではない。GoogleやFacebookなどのテックプラットフォームはこの数年間、自社のエコシステム内で機能するサードパーティのアドテクの数を徐々に減らしてきた。それに、GDPRという厳格な規則に対する準備が加わって、一部のメディアエージェンシーはすでに戦略を見直していた。
ロイド氏によると、メディアバイヤーはもう、ダブルクリックIDで利用可能なログファイルデータを用いていれば解決していたであろう問題を、ADHを利用して解決することは検討していないという。3年前は、採用しているアトリビューションモデルがマニュアルルールベースか機械学習ベースかに関係なく、ログファイルデータの主な用途はアトリビューションで、それがアドサーバーデータの利用方法の主力だった。だが、GoogleやFacebookのようなテックプラットフォームが、自社プラットフォーム全体で独立系のアドテクを稼働させるのを徐々に止めてきたことに、エージェンシーはこの数年間ですでに適応してきた。
メディアプランの重要部分は、Google以外のFacebookなどのソーシャルプラットフォームにあり、パブリッシャーからすれば、ウォールドガーデン外でもある。「ADHが間違ったソリューションというわけではない。現在必要なアトリビューションモデルを構築したくても、Googleのキャンペーンマネージャー(Campaign Manager)に顧客とのやりとりすべてが含まれていないのが問題だ」と、ロイド氏は付け加えた。
残された不満の姿
何年ものあいだ依存して、それを軸に全製品を構築していたツールの突然の削除をめぐって、エージェンシーが表明していた以前の不満は静まった。大半のエージェンシー幹部は、情報コミッショナーオフィス(Information Commissioner’s Office)が最近、アドテクのGDPR軽視を批判したのを考慮して特に、Googleが厳格化されたデータプライバシー法を順守して消費者のデータを守る一方で、広告主を満足させるという難しい綱渡りをしなければならないと認めている。
技術上の問題が残り、その一部のせいで、メディアエージェンシーは、かつてのように速く、徹底的にデータセグメントをテストすることができない。たとえば、ダブルクリックIDでなら、エージェンシーは、かなり細かいレベルでさまざまなオーディエンスの集計や比較を行うために、Googleにログファイルデータのクエリを送信できた。また、ほぼリアルタイムでそうした情報を受け取ることができ、照会して1時間に数十のオーディエンスデータの反復テストをすることが可能だった、いまはGoogleがより広範なトラブルシューティングプロセスを経ないと、プライバシー面で安全な方法でそうしたデータを共有できない。
「分析ソリューション構築の開発段階について考えれば、以前なら、1秒で結果が返ってくるデータプロセスで実験を行ったかもしれない。その後に微調整して、1時間の時間枠で、さまざまなデータセットの結合や集計を行う方法を30通り試すことができただろう。アウトプットのために作成しているものが、解決しようとしている問題に完全に見合っている」と、ロイド氏は語る。一方、いまは、そうした能力が低下して、少数のデータの繰り返ししか扱えない。
ADHが有する長所
だが、ADHにはほかの長所があり、広告主もそれが役立つことに気付いている。たとえば、広告主は、全データの暗号化のような高度なセキュリティ機能をデフォルトで利用できる。また、ダブルクリックIDを使ったデータ転送では、大量のデータファイルを繰り返しダウンロードして操作する必要もあった。Googleは、モバイルアプリのインプレッションデータのような、以前は利用できなかった他の種類の分析用データにもアクセスできるようにしている。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)