Appleのトラッキング弾圧がメディア支出にどの程度影響を及ぼすのか。無論、現時点では不明だが、かなりの大きさになると思われる――少なくとも短期的にはそうだろう。メディア支出は必ずや回復するが、それはV字ではなくU字であるだろうと、マーケターは見ている。
Appleのトラッキング弾圧がメディア支出にどの程度影響を及ぼすのか。無論、現時点では不明だが、かなりの大きさになると思われる――少なくとも短期的にはそうだろう。
回復に擁する月日についてもさまざまな見方があるが、どれもその根幹にはふたつの前提がある――ひとつは、モバイルマーケターが成長するには、どんな状況であろうが、やはり顧客を捕まえる必要がある。もうひとつは、コロナ禍により、モバイルゲーミングはブランド広告の主要メディアという見方が強まった、というものだ。
この両前提に基づき、メディア支出はAppleのATT(App Tracking Transparency)による打撃から必ずや回復するが、それはV字ではなくU字であり、まずは落ち込み、その後4カ月から6カ月かけてゆっくりと、しかし確実に復活するだろうと、マーケターは見ている。
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「ATTの導入直後、利用できる広告識別子(IDFA)が少ないパフォーマンスマーケターの場合、メディア効率は一時的に下がる」と、モバイルゲームパブリッシャーであるチルティングポイント(Tilting Point)のグロース部門SVPジーン・セバスチャン・ラヴァージ氏は言う。「その後、それらマーケターが新たな環境に適応していくにつれて、徐々に上がっていくことになる」。
導入直後の衝撃は甚大
導入直後の衝撃は甚大なものになるだろう――Appleのモバイル機器上でのユーザートラッキングが困難になれば、モバイル識別子のないインプレッションの広告料は35%(楽観主義者の見方)から50%(現実主義者の見方)ほど落ちると予想されている。
言い換えれば、そうしたアプリ内インプレッションをマーケター勢がさほど重要視しなくなる、ということだ――それらは取るに足らない、識別子のないトラフィックであり、利用資格がなく、換金もできないと見なされる。事実、スマート・アドサーバー(Smart AdServer)はIDFAのないインプレッションのeCPMは30~40%下がると見ている。アドテクベンダー、インモビ(InMobi)の見方も同じく楽観的ではない。
「IDFAのないインプレッションについては、eCPMの35%低下を予想している」と、インモビのプロダクトマネジメント部門トップ、セルジオ・セラ氏は言う。「iOSパブリッシャーの換金力減は数カ月続くだろうし、それは認めるしかない。ただ、インプレッション数が上がることで最終的には同様の収益が生まれると、前向きに考えてもいる。特にパフォーマンスバイヤーにはそれが言える」。
つまり、そうしたインプレッションにおけるパフォーマンス力減をメディア費減ほど重要視しないマーケターだけが、ATT導入後、楽観的に事業を営み、支出を増やせることになる。
Appleを一時離れる人たちも
大半のパフォーマンスマーケターはしかし、なかでもマーケティング目標のフォーカスがアプリのダウンロード数のみの場合は特に、日和見主義にはならないと思われる。特に閲覧ベースのデジタルアトリビューションという、この変更に激しく影響を受けている方法論に依存しているのなら、それはまずない。
そうしたマーケターは代わりに、Apple機器への広告費を減らすつもりであり、なかには明確な効果測定が約束されるほかの場所(Android機器など)に一旦乗り換え、コンテクスチュアルデータをはじめ、識別子に頼らないデータを用いた、それらインプレッションの精製法を見いだしてから、徐々にApple機器に戻ることを考えているところもある。
加えて、IDFA付きインプレッションも、多くのマーケターにとっては手が届きにくくなると考えられる。これまで同様に確実なターゲティングが可能な数少ないインプレッションであるため、価格の高騰は必至だからだ。予想は難しいが、おそらく50%程度になるだろうと、インモビは見ている。ただし、大金を支払わなくともトラッキングに同意する数少ない層にリーチできる可能性もある。たとえば、スマート・アドサーバーは30%以上の価格高騰はないと見ている。
「自社プロダクトにエンゲージする新規ユーザーの間断なき獲得に成長を依拠している企業は、経営に深刻な影響が及ばないよう、短期間で同等のスケールメリットを達成する必要に迫られている」と、モバイルアドテクベンダー、ファイバー(Fyber)の社長オフェリ・フダイ氏は言う。「一部の広告主、特に生涯価値の低いところは、通常の支出レベルへの早期復帰について、少なくともそれを目指す試みは求められている――そしてそれが潜在的に、全体の回復速度を上げることになる」。
回復の速度を決める要因
回復の速度を決める要因はいくつかある。なかでも鍵を握るのが、アドテクマーケター勢のアプリ内広告購入に対する積極性だ。いち早く適応した企業は、IDFAがなくてもこれまでと変わらず、然るべき人々にリーチできるとして、マーケターの説得にかかる可能性が高い。実際、追跡型広告の制限を求める(ターゲティング広告をオプトアウトしているユーザーの)声はしばらく前から高まっており、マーケターはそれを利用し、非パーソナライズドトラフィック主流化の裏で、モバイル広告がいかに機能するかを見極めようとしている。
事実、ファイバーによれば、LATトラフィックのeCPMはAppleの発表があった2020年6月から2021年1月にかけて倍増した。この上昇はLATインプレッションを積極的に購入するバイヤーの数が徐々に増え、このインベントリを巡る競争が高まったことによる。これはつまり、IDFAのないトラフィックもマーケターにとってそれなりに価値があり、なかでもブランドアウェアネス向上目的でコンテクスチュアルターゲティングを利用するところの場合は、その可能性が高いことを示唆している。たとえば、モバイルデマンドサイドプラットフォームのアプリシエイト(Appreciate)は2020年の第4四半期、ファイバーのコンテクスチュアルターゲティングツールを利用してIDFAのないトラフィックを購入し、CPIを25%下げ、広告費対効果を30%上げている。
「これで扉が開き、これまでCPIキャンペーンの独占状態だったモバイルゲーミング界にさらに多くのブランド広告が入ってくる」と、アドテクベンダー、ループミー(LoopMe)のCEOスティーブン・アップストーン氏は言う。「支出減によってブランドにチャンスが生まれるなか、iOSにおけるCPI広告主のCPMが下がることになる」。
効果測定の穴を埋めるのはどこ
ただし、トラックダウン弾圧が始まってすぐに、資金をApple機器に戻すようマーケターの背中を押せるのは、ファイバーなど、ごく限られた企業しかいない。大半の企業の未来は、FacebookやGoogleなどの効果測定ソリューションがAppleの変更にどう対応していくかにかかっている。効果が容易には見えないとなれば、パフォーマンスマーケターがAppleのインベントリに予算を移すことは考えにくい。
「『どこがいち早く効果測定の穴を埋め、Appleのプロトコルが突きつける問題を回避できるのか?』。私の関心は、その一点に尽きる」と、パフォーマンスマーケティングエージェンシー、プレイブック・メディア(Playbook Media)のCEOブライアン・カラス氏は言う。「GoogleとFacebookはAPIを迅速に調整できれば、圧倒的に有利となるし、Facebookは間違いなく一歩リードしていると思う。ただ、GoogleはDSPの共有データの入手に長けており、長期的に見れば、最大の利益を得るかもしれない」 。
優れたSKAdNetworkコンバージョン戦略を構築し、プライバシー重視のアトリビューションを、あるいは巧みなweb-to-appキャンペーンを利用もしくは併用し、この事態にほかに先駆けて対応するモバイルマーケターが、競合他社の少ない環境を享受できることになる。
「この新たな現実は、過酷なものではあるが、素早く適応できる広告主に対してさまざまな機会も提示しており、それは結果的に彼らの予算増に繋がる」と、モバイル効果測定企業アップスフライヤー(AppsFlyer)のコアプロダクト部門VP、バラク・ウィトウスキ氏は言う。 「理由は言うまでもない。マーケティングは需要と供給のゲームだからだ。たとえばハイパーカジュアルゲーム業界を見れば、よくわかる。現在、すべてのゲーミング企業が同じオーディエンス、いわゆる太い客を巡って激しい争いを繰り広げている。需要は極めて高く、したがってそうしたユーザーを獲得するためのCPIも高い」。
[原文:‘A V-shaped recovery’: Slow recovery ahead for mobile marketers post-Apple tracking crackdown]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU