セールスフォースやアドビシステムズ、オラクルなどのクラウド企業は最近、アドテク企業を次々と飲み込んでいる。4月中旬にオラクルが発表したモート(Moat)買収は最新の例だが、アドテク系エージェンシーにとって、どの大手企業に身売りすべきかを判断することは必ずしも容易ではない。
セールスフォース(Salesforce)やアドビシステムズ(Adobe Systems)、オラクル(Oracle)などのクラウド企業は最近、アドテク企業を次々と飲み込んでいる。4月中旬にオラクルが発表したモート(Moat)買収は最新の例だが、エージェンシーにとって、どの大手企業へ身売りすべきかを判断することは、必ずしも容易ではない。
「一部の企業が優れていても、ほかとはごくわずかの差だ」と、アドエージェンシーのオールマイティー(Almighty)で最高イノベーション責任者を務めるロブ・グリフィン氏は語る。「結局、人気コンテストでしかない。知名度、好感度、過去の実績を認めてもらえるかどうかで、評価と縁組が決まる」。
今回は、主要なクラウド企業が傘下に収めたエージェンシー、その意図、そしてそれに対するマーケターの評価を取り上げる。
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「メディアバイイング」のアドビ
アドエージェンシーのリチャーズ・グループ(The Richards Group)でプログラマティックを率いるデビッド・リー氏によると、アドビはターゲット広告、データ管理、メディアバイイングといったサービスを一括して提供する唯一のクラウド企業だという。こうした製品群は、クロスチャネルターゲティング企業のネオレーン(Neolane)やDMP(データ管理プラットフォーム)企業のデムデックス(Demdex)、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)企業のチューブモーグル(TubeMogul)といった、アドビが買収した企業がもたらしたものだ。ほかのクラウド企業はどこも、バイイングプラットフォームを保有していない。そのため、2016年に買収を発表したチューブモーグルが強みだと、アドビの広報担当者は強調している。
数あるクラウド企業のなかで、アドビはもっとも幅広い技術スタックを取り揃えていると、マーケティングテクノロジー企業VMLのエグゼクティブディレクター、マーティン・コーディー氏は指摘する。ただし、CRM(顧客関係管理)と売上追跡の点では、アドビはほかのクラウド企業に遅れを取っていると、同氏は語る。
アドビは、サードパーティーによる測定の競争でも、モートを買収したオラクルに追い越されている。
「データ測定」のオラクル
オラクルは2014年以降、各種のアドテク関連企業を買い進めてきた。パブリッシャーオーディエンスデータ企業のアッドディス(AddThis)、クロスデバイスデータ企業のクロスワイズ(CrossWise)、オフライン購入データ企業のデータロジックス(Datalogix)、DMP企業のブルーカイ(BlueKai)といった具合だ。オラクルの広報担当者は、こうした多様なデータソースを大規模に統合できる唯一のクラウドサービスだと主張している。オラクルは、モートの買収により、測定と検証を手がける機能を所有する唯一のクラウド企業になるだろう。
「データと測定という観点で、オラクルは明らかなリーダーだ」と、プログラマティックエージェンシーのグッドウェイグループ(Goodway Group)でCOOを務めるジェイ・フリードマン氏は評価する。
オラクルは最近、自社のデータをテレビ広告のターゲティングに活用することを目指してサイマルメディア(Simulmedia)およびチャーター(Charter)と提携したが、この分野ではまだアドビに遅れている。リー氏によると、アドビは、テレビ番組配信プラットフォームのプライムタイム(Primetime)で独自のプラットフォームとなるTVエブリウェア(TV Everywhere)を運用し、チューブモーグルを通じてテレビ広告のプログラマティックバイイングを提供しているという。オラクルには、メディアバイイング製品も欠けている。
「CRM」のセールスフォース
セールスフォースはB2Bのクライアントに優位性をもたらすことに注力しているので、「間違いなく、市場で最高のCRM」を確保していると、アドテク企業シンテックメディア(SintecMedia)の収益化担当バイスプレジデント、アダム・ヘクト氏は語る。こうした機能は、デマンドウェア(Demandware)やイグザクトターゲット(ExactTarget)など、セールスフォースが近年買収したアドテク企業をベースに構築されている。
セールスフォースが2016年に買収した、DMP企業のクラックス(Krux)もまた際立つ存在だと、リー氏は指摘する。クラックスは、広告業者が複数のデバイスにまたがってユーザーをマッチングするのに役立つ、メールのログインに関するファーストパーティーデータを保有しているからだ。セールスフォースの広報担当者も、メールをターゲティングする同社の製品を強調している。
セールスフォースに足りないものは、メディアバイイングおよびサードパーティー検証の製品群だろう。
クラウド企業による買収は、なぜ重要か?
多くのアドテクは派生物であり、買収されない場合、ノーブランドの製品を抱えた企業には倒産のリスクがある。そして、目立った買収の多くはクラウド企業によるものだ。
アドテク企業アンダートーン(Undertone)の共同創設者であるエリック・フランキ氏は、同業者が買収される事例を追跡している。同氏のデータからわかるのは、アドビ、セールスフォース、オラクルが2013年以降にアドテク企業計9社(チューブモーグル、クラックス、デマンドウェア、イグザクトターゲット、モート、クロスワイズ、アッドディス、データロジックス、ブルーカイ)を買収したこと。これに対し、アドテクの従来からの買い手であるマイクロソフトやGoogle、ヤフーが買収したアドテク企業は、わずか4社しかない。
クラウド企業はどこも、ほかのクラウド企業をライバルと明言することを控えている。だが、アドテクの大量買いが進むなかで、魅力的な独立系アドテク企業が買い手を誘惑するたび、必ず競争が起きる。そして、広告業者がアドテクのさらなる標準化を求めて仲介者を減らそうとするなか、その競争自体は当面は沈静化しそうにない。
ちなみにクラウド企業が積極的に拡大を進める一方で、「アドテクを完全に網羅する企業はひとつもない」と、プログラマティックエージェンシーのインフェクティウス・メディア(Infectious Media)のパートナーシップディレクター、ダン・ラーデン氏は述べた。
Ross Benes(原文 / 訳:ガリレオ)
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