ソーシャルメディアプラットフォームはクリエイターに大きな期待を寄せており、クリエイターと広告主のあいだの契約を効率化するプログラムを展開している。こうした動きは、クリエイター、広告主、そして広告費をプラットフォームのエコシステム内部で循環させるのに役立つだろう。
ソーシャルメディアプラットフォームはクリエイターに大きな期待を寄せており、クリエイターと広告主のあいだの契約を効率化するプログラムを展開している。こうした動きは、クリエイター、広告主、そして広告費をプラットフォームのエコシステム内部で循環させるのに役立つだろう。
クラブハウス(Clubhouse)やインスタグラムなどのプラットフォームは、クリエイターと広告主のための資金調達、プログラミング、マッチメイキングなどの機能を備えた新たなクリエイタープログラムを発表している。マッチメイキング機能に関しては、インフルエンサーマーケティングエージェンシーがおこなうサービスに類似している。
マーケターによると、これらの取り組みはインフルエンサーと広告主の関係を効率化させ、プラットフォームの広告オファーの拡大につなげる可能性がある。フルサービスエージェンシーであるランドリーサービス(Laundry Service)で代表を務めるジョーダン・フォックス氏は、とりわけTikTokによるクリエイターとの連携に注目している。「(TikTokは)インフルエンサーとのパートナーシップを強化するうえで非常に有利な立場にある。彼らはすでに広告主と直接ビジネスをおこなっており、また独自にプールしたインフルエンサーに独占的にアクセスできる」と、フォックス氏はいう。「彼らは包括的なオファーのなかに、インフルエンサー選択サービスをきわめて効果的に盛り込んでいるように思う」。
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加速するクリエイター支援
6月上旬、インスタグラムは初の「クリエイターウィーク(Creator Week)」を開催し、成長するクリエイターエコノミーに投資する姿勢をみせた。この3日間のイベントでは、パネルディスカッションやコンテスト、インスタグラム幹部による講演などがおこなわれた。インスタグラムは、クリエイターの獲得に乗り出した最後発のプラットフォームだ。
同じく6月上旬には、ライブ音声ソーシャルアプリのクラブハウスがクリエイター支援プログラム「クリエイターファーストクラス(Creator First class)」の1期生を迎えた。彼らには収録機材や1番組あたり月5000ドル(約55万円)の報酬、クラブハウス幹部によるガイダンスが提供される。TikTokも昨年この分野に参入しており、2億ドル(約220億円)規模のTikTokクリエイターファンドを創設したほか、黒人クリエイターを対象とした3カ間のクリエイターインキュベータープログラムを導入した。Snapchat、YouTubeも同様のプログラムを実施している。
マーケターによると、これらはプラットフォームがクリエイターフレンドリーなエコシステムを構築するための取り組みの最新版であり、ブランドがインフルエンサーマーケティングを戦略の核心に位置付けるのと歩調を合わせて進んでいるという。
インフルエンサーマーケティングエージェンシー、ホエーラー(Whaler)で、クリエイターマネジメント部門ホエーラー・タレント(Whaler Talent)のマネージングディレクターを務めるビクトリア・バチャン氏は、「クリエイターはかつてないほど多くの潜在的な収益化のチャンスを手にしている。クリエイターがブランドやプラットフォームのビジネスをけん引していることが、ここ数年で証明されたからだ」と、述べる。
クラブハウスのコミュニティ・クリエイター・パートナーシップ部門の責任者、ステファニー・サイモン氏によると、「クリエイターファーストクラス」はプラットフォーム上ですでにおこなわれていた取引の自然な延長で、以前から多くの人々が個人間送金アプリの「ベンモー(Venmo)」や「キャッシュアップ(Cash App)」などのリンクをプロフィールに掲載していたという。「我々が行っていることは、クリエイター・ブランド・タレントのリレーションシップや市場のあり方に関する土台づくりだ」と、サイモン氏はいう。「ただ、まとまった資金を提供するだけでなく、クリエイターとしてのキャリアの持続性や安定性を高めることを重視している」。
サイモン氏にとって、クラブハウスのプログラムの特長は、プラットフォームがクリエイターの収益の一部を徴収することなく報酬を毎月提供することで、取引を促進する点にある。これはTikTokクリエイターファンドとは異なる。TikTokのブログによると、TikTokのプログラムは、報酬が動画のパフォーマンスなどの要素に左右されるからだ。テックニュースメディア、インフォメーション(The Information)の報道によれば、インスタグラムもクリエイターウィークに続き、クリエイターファンドの創設を検討しているという。
疑念を抱くクリエイターも
しかし、すべてのクリエイターがこうしたプログラムに身を乗り出して参加しているわけではない。
最近の例では、フルタイムのインフルエンサーであるジャスティナ・シャープ氏が、TikTokのクリエイターファンドから脱退した。シャープ氏は、クリエイター向けエコシステム構築の動きのなかで、プラットフォームがクリエイターの収益の一部をかすめ取るようになることを懸念している。シャープ氏は、500万回以上再生された投稿でも、TikTokクリエイターファンドからの収入はわずか36ドル(約4000円)だったと述べ、報酬の計算方法に疑問を呈した。TikTokが動画の再生回数以外に何をどう計算に入れているかは明らかでなく、不透明なアルゴリズムとともに批判の対象となっている(米DIGIDAYはTikTokにコメントを求めたが、回答は得られなかった)。
インフルエンサーとして10年以上の経歴をもつシャープ氏は、ブランドとの契約は自分でおこない、自分でレートを設定したいと述べる。「単に私がプラットフォーム上でお金を稼いでいるところに割って入って、分け前を手にしようとしているだけだ」。
メディアハブ(Mediahub)のペイドソーシャル部門アソシエイトディレクター、サイプレス・ビラフロレス氏は、TikTokのプログラムについて同様の懸念を示す。インスタグラムやクラブハウスが提供するプログラムと同様、クリエイターファンドは一般的にクリエイターに安定した収入を、プラットフォームにユーザーエンゲージメントをもたらすと述べる。一見、win-winの関係だ。
「厳密にいえば、共生関係のようなものだ」と、ビラフロレス氏。「(クリエイターが)プラットフォームに人を呼び込む。月間ユーザーやデイリーユーザーが増加し、(広告主が)その対価として報酬を支払うのだ」。
KIMEKO MCCOY(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:小玉明依)