7月20日、マーケティングそのほかの目的でデータをどのように収集、使用、共有できるかについて幅広い影響を及ぼすと見られる米国データプライバシー保護法(ADPPA)の法案が、米下院エネルギー・商業委員会を通過した。だが、広告業界も消費者保護団体も、まだ整理しなければならない課題が多く残っていると声をそろえる。
デジタル広告を規制する大型法案が米国議会でようやく勢いを増してきている。だが、広告業界も消費者保護団体も、まだ整理しなければならない課題が多く残っていると声をそろえる。
7月20日、マーケティングそのほかの目的でデータをどのように収集、使用、共有できるかについて幅広い影響を及ぼすと見られる米国データプライバシー保護法(ADPPA)の法案が、米下院エネルギー・商業委員会を通過した。53対2で可決されたこの超党派法案は、共和・民主の両陣営のトップ議員たちの長年の努力にもかかわらず、データプライバシー関連法案が委員会を通過する初の事例となる。
次のステップに関する日程はまだ出ていないが、時代を画すこの法案は、これから米上下院の主要メンバーの支持をとりつけなければならない。業界団体が法案修正の必要性を訴える一方で、プライバシー保護団体は連邦法や同等の州法の効力が薄められることを阻止しようと警戒する。
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ADPPAの主な内容としては、法案の対象となる企業に対し、その事業に照らし合わせて「合理的に必要な、相応で限定的な」データ収集・使用のみを許し、利用者にはターゲティング広告をオフにする選択肢を提供する。また、子どもに対するターゲティング広告の禁止、企業がセンシティブな話題(健康、人種、宗教、経済状態、精密な位置情報など)から利益を得ることに対する規制、連邦・州当局の法の執行力の強化も盛り込まれているほか、消費者にはデータプライバシーに関連して企業を訴える権利も与えている。
2018年のケンブリッジアナリティカ事件で、多くの場合は本人の認識なく個人データがさまざまな方法で収集されていることが明るみになって以来、民主党と共和党の両党の議員たちがデータプライバシー法の成立を目指してきた。これまで議会で盛り上がりを見せた法案はなく、カリフォルニア、コロラド、ユタ、コネティカット、バージニアの5つの州でデータ収集と使用に関する独自の制限が設けられている。プライバシー保護団体は全米に等しく適用される法律を求め、企業や業界団体は、規制に対する「つぎはぎ的」なアプローチだとして、州主導の取り組みの廃止を求めている。
複雑な状況が議員たちを異なる方向に向かわせる
大きなマイルストーンに到達したにもかかわらず、ADPPAが成立する保証はない。まだ米上院の主要議員の支持表明はなく、今回の法案通過に賛成票を投じた下院議員にも、下院本会議では必ずしも承認しないと話す議員がいる。詳細な議論を要する項目には、強制仲裁を巡る規則を作成するのかや、カリフォルニア州といった強力なプライバシー保護法がある州で連邦法をどのように優先させるのか、などがある(法案に反対票を投じた委員は2人ともカリフォルニア州民主党のアンナ・エシュー下院議員とナネット・バラガン下院議員)。
その一方で、今期の議会で連邦法案を可決すべきと切迫感をにじませる議員もいる。公聴会で、ジャン・シャコウスキー下院議員はこの法案が「画期的」だと述べつつも、「自分が理想とする法案ではないが、私たちにはこの法案を先に進めることが託されている」と付け加えた。
シャコウスキー下院議員は「この法律は、米国の歴史で初めて全国民の基本的なデジタルプライバシーの権利を認めるものだ」とする。
消費者団体、業界団体は評価するも
消費者保護団体によると、ADPPAはデータプライバシーの責任履行義務を消費者から企業に移し、インターネット上のデータエコシステムを巡る企業のビジネス慣行についても、より高い透明性を要求する。電子プライバシー情報センターのカトリーナ・フィッツジェラルド副所長はADPPAが「完璧な法案ではない」としながら、消費者に数々の新しい保護を提供すると話す。
「最近のオンラインプライバシーに関する大きな問題には、エコシステムが複雑すぎてスマホやオンライン検索で生成される個人データの小片の一つひとつについて何が起きるのかを、真に把握することさえできないという点がある」とフィッツジェラルド副所長は語る。「サードパーティのあまりの数の多さに、米国民のほとんどがその影響とそれが及ぶ範囲とを、単純に把握できずにいる状態だ」。
広告業界団体は何年も前からプライバシーに関する連邦法を求めており、現時点ではADPPAの方向性を支持している。だが、今週加えられた修正が新たな意見の対立を生み出しているという声もある。公聴会に先駆けてインタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau)をはじめとするいくつかの組織が、センシティブデータの定義が「過度に幅広く不十分な出来」だとする書簡を議員たちに送っている。
「人々の関心に基づいた広告を届けられなくなると、大型広告看板のような広告が表示されることになる」とIABの公共政策担当エグゼクティブバイスプレジデント、ラルティーズ・ティフィス氏は話す。
ビッグテックに集まる監視の目
テック大手は、多方面から高まる圧力に直面している。米国と欧州の両方で新しい反トラスト規制が検討される一方、米国の各種連邦機関からは他の方法で圧力がかかる。7月18日、米連邦通信委員会のジェシカ・ローゼンウォーセル委員長は、ベライゾン(Verizon)とAT&Tを含む携帯通信事業者トップ15社に書簡を送り、各社の位置情報データの収集・保護方法について情報の提出を求めた。
その前の週には、米連邦取引委員会がセンシティブデータの不正使用に関する法律の「完全な実施に全力を挙げる」ことを表明し、実際には特定可能であるにもかかわらず「匿名化済みのデータ」であると称することのないように、テック業界に警告を発した。
ADPPAでは、特に「データブローカー」と呼ばれる種類の企業について、サードパーティデータに関する透明性を高め、規制を強化する。たとえば、ブローカーは公開データベースに企業登録を義務付けられ、ロボコール拒否のための電話勧誘拒否登録簿のような「データ収集拒否」登録簿にも登録しなければならない。
法案の規則の下でも、広告主は主にファーストパーティデータを使用することで広告のターゲティングを行うことができる。だが、広告業界の一部幹部のあいだでは、法案によってGoogle、Facebook、Amazonなどの巨大企業が今まで以上の力を握るのではないかという考えもある。その一方で、データブローカーの規制や通信事業者の取り締まりについて抜け穴があるのではないかと心配するプライバシー擁護派もいる。このほかにも10人の州検事総長から成るグループが懸念を表明しており、共同署名の下、議会に対し「連邦として上限ではなく、下限を設定する」プライバシー保護法を採択するように呼びかけている。
「リンゴとキウイを比較するようなもの」
プライバシー擁護派は、ADPPAがもたらす変化が業界にとって特に驚くようなものではなく、EUやカリフォルニア州の他のデータプライバシー保護法に関連してすでに法令遵守に務めている企業であれば影響を受けない可能性もあるとしている。だが、テック業界の一部を代表する弁護士からは、重要な違いがあるという指摘も出ている。
ホーガン・ロヴェルズ(Hogan Lovells)法律事務所でグローバルテックと通信事業分野への対応を率いる弁護士であるマーク・ブレナン氏は「これはリンゴとキウイを比較するようなものだと思う」と述べた。「法律としては同じカテゴリーだが、実際問題としてはその味はかなり違う」。
[原文:A national data privacy bill is gaining traction, but not everyone is yet on board]
Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)