Amazonパントリーは死んだ。1月上旬、Amazonは同サービスの廃止を発表した。2020年初頭のロックダウン初期に、同社が一時的にAmazonパントリーを停止したのは、今回の決定の布石だったのかもしれない。
Amazonパントリーは死んだ。
1月上旬、Amazonは同サービスの廃止を発表した。2020年初頭のロックダウン初期に、同社が一時的にAmazonパントリーを停止したのは、今回の決定の布石だったのかもしれない。
パントリー(2014年のサービス開始時の名称はPrimeパントリーだった)は、Amazonが食料品進出を試みた黎明期の遺物として記憶されるだろう。このサービスは、複数の個別包装商品を1箱にまとめて配送するもので、大量購入に及び腰なPrimeメンバーを顧客として想定していたものだ。
Advertisement
だが、開始から数年のうちに、パントリーの意義の多くは失われた。Amazonはホールフーズ(Whole Foods)を買収し、複数のAmazonフレッシュ(Fresh)の実店舗をオープンし、食料品の当日配送を謳うPrime Nowなどの新たなサービスを送り出した(ただしPrime Nowは現時点では限られた都市でしか利用できない)。結局のところ、パントリーの専用ボックスに商品を詰めて顧客に配送するのは、ロジスティクス面できわめて困難で、Amazonにとって大きな利益につながるものでもなかったようだ。
けれども、Amazonパントリーの終焉はむしろ、Amazonが食料品業界への本格参入に成功した証だと言える。食料品業界に十分な足がかりを得たAmazonは、十分な成果が上がらなかった初期の実験を合理化することができる。
「パントリーは必ずしも失敗とはいえないが、フレッシュやPrime Nowの登場により意義が薄れ、時代遅れになったと考えられる」と、eコマース分析プラットフォームのプロフィテロ(Profitero)で戦略・インサイト担当シニアバイスプレジデントを務めるキース・アンダーソン氏は、Amazonのほかの食料品サービスを挙げて指摘した。
Amazonは食料品業界で実績を積み上げ、パントリーよりも効率的なサービスを提供するようになった。最新の食料品サービスであるPrime Nowでは、最低購入金額の35ドル(約3600円)を上回る注文であれば、無料で当日配送を受けられる。35ドルに満たない注文の場合、5ドル(約520円)の配送料がかかる。終了直前のパントリーには同様のオファーがあった。35ドル以上で無料配送、それに満たない場合は5.99ドル(約620円)で配送していたのだ。両者の違いは、パントリーでは一部の商品しか選べないうえ、配送には数日かかる場合があったが、Prime Nowでは食料品ストアのほぼすべての商品が数時間で手元に届くことだ。
Amazonがパントリーを立ち上げたのは、食料品セクターへの参入に苦戦していた時だったと、小売アナリストのビル・ビショップ氏は説明する。「今や軌道に乗り、市場を席巻している。多方面で飛躍的成長がみられる」と同氏はいう。
eコマースにおける単品購入問題の解決
Amazonパントリーを理解するためのカギは、歯磨き粉のチューブを考えることだとアンダーソン氏はいう。パントリーが登場する前、Amazonで歯磨き粉を買い足したいと思う顧客は、やっかいな悩みを抱えていた。Amazonで歯磨き粉を買うには、6本か8本のセットでまとめて注文するしかなかったのだ。こう思うのは必然だろう:「Amazonは便利で好きだけど、本当に今すぐ6本も歯磨き粉が必要か?」。
どんなeコマース企業にとっても、利益を上げるためには、すべての注文が最低購入金額を超えていなくてはらなない。Amazonが顧客に歯磨き粉ひとつだけを売れば、確実に損をすることになる。だから売らないし、そのため顧客はコンビニで買うことになる。Amazonは、このジレンマの解決策がパントリーだと考えた。歯磨き粉ひとつ、ポテトチップス1袋、グラノーラバー1本を買いたい顧客が、それらをパントリーボックスにまとめられるようにしたのだ。
パントリーができたことで、多くのメーカーが自社製品を少量かつ購入しやすい形で、初めてAmazonで提供できるメリットを得た。しかし、顧客にとってパントリーボックスをいっぱいにするのは難しかった。最大限に節約できるよう、箱にぴったり収まる商品を見つけるのは困難で、はっきり言って最寄りや街中のコンビニまで歩いて買いに行く方が楽だった。パントリーの場合、ポテトチップスを食べたいと思っても、それだけを買うわけにはいかない。ほかの保存のきく商品を考え出してパントリーボックスに詰め、さらに配送が完了するまで1~5日待たなくてはならなかった。
これではPrime会員が飛びつくサービスとはいえない。昨年のある小規模な調査によれば、食料品をオンライン購入する人たちのあいだで、Amazonパントリーの人気はPrime Nowや通常のAmazonウェブサイトよりも数パーセント劣り、Amazonフレッシュとほぼ同程度だった。「なぜもっと広く受け入れられず、顧客増加につながらなかったかについてだが、思うにほとんどの顧客は、小売業者の経済的課題を知らないか、あるいは知っていても無関心なのだろう」と、アンダーソン氏は語る。
食料品セクターにおけるAmazonのさらなる野望
しかし、何より重要なのは、Amazonがパントリー終了に踏み切ったのは、より魅力的な条件の食料品配送サービスを考案したからであることだ。Amazon Go、ホールフーズ、あるいはPrime NowでAmazonと提携している多数の食料品店のひとつで注文するのは、パントリーボックスの配送を注文するよりも迅速で簡単だ。しかも、パントリーはAmazonが指定する日用品しか箱に入れられないという厳しい条件のおかげで、最低購入価格を満たすのが困難だったが、Prime Nowやフレッシュはより品揃えが豊富だ。
結局のところ、パントリーの廃止はサービスの失敗というよりも、食料品分野におけるAmazonの成功を物語っている。Amazonは2010年代のはじめから中盤にかけて、食料品分野を制するためのアイデアの数々を生み出してきた。そして今、何が有効で何がそうでないかを判断しているのだ。
アンダーソン氏は、パントリーの廃止を皮切りに、Amazonが将来的に食料品部門を合理化するとしても驚かない、と話す。ホールフーズ、Amazonフレッシュ、Amazon Now、そしてAmazonパントリーと、Amazonは2020年末の時点で多くの重複する食料品サービスを提供していた。だがAmazonが進化を続けるなか、「1、2年後にも同じような状態が続いているかどうかはわからない」と、アンダーソン氏は述べた。
[原文:‘A lot of leapfrogging’: What went wrong with Amazon Pantry]
MICHAEL WATERS(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:長田真)