米国政府がTikTokの利用禁止という圧力を強めるなか、インスタグラムが同アプリのパクリ機能「リールズ(Reels)」を公開したことで、この夏、両プラットフォームの戦いが白熱した。だがその後、リールズは一向に足元を固められず、TikTokにしても、大統領選後の米国における未来はいまだまったく見通せない。
動画クリエイターの忠誠をめぐるインスタグラムとTikTokの対立は、冷たいにらみ合いへと沈静化している。
米国政府がTikTokの利用禁止という圧力を強めるなか、インスタグラムが同アプリのパクリ機能「リールズ(Reels)」を公開したことで、この夏、両プラットフォームの戦いが白熱した。だがその後、リールズは一向に足元を固められず、TikTokにしても、大統領選後の米国における未来はいまだまったく見通せない。クリエイターを管理するタレントエージェントやマネジャーたちによると、いまのところ、両プラットフォームがクリエイター市場をふたつに割るというよりは、有力なクリエイターたちが自分の時間をインスタグラムとTikTokのふたつに分けているというのが現状だという。
「現時点では、どのクリエイターもふたつのプラットフォームのあいだを行きつ戻りつしている。TikTokのおかげで大成功を収めたクリエイターのなかにさえ、旗幟を鮮明にする者はいない」。こう語るのは、タレントエージェンシーのICMパートナーズ(ICM Partners)でデジタル事業を統括するクリス・ソーテル氏だ。
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いまだに意味のある違いを維持
大半のクリエイターがTikTokよりもインスタグラムを、逆にインスタグラムよりもTikTokを優先しない一番の理由は、両者の類似性が深まる一方で、両者がいまだに意味のある違いを維持している点にある。TikTokのオーディエンスはインスタグラムと同じくらい広範ではあるが、その中心は10代から20代の若者が占めている。「TikTokは間違いなくZ世代向けのアプリであり、他方、インスタグラムはつい先ごろ[この10月]、10周年を迎えている。インスタグラムはいまや文化の一端を担う存在であり、あらゆる世代が利用しているのではないか」。タレントエージェンシーのUTAで、タレントエージェントを務めるプラナヴ・マンダヴィア氏はそう語る。
さらに言えば、クリエイターたちは金銭的なモチベーションとしては両方のプラットフォームを使いたいが、技術的には両者を分けて扱わざるをえない。たとえば、インスタグラムがいまもリールズに新しい機能や編集オプションを追加しつづけ、クリエイターがその学習に追われるなか、ショートフォーム動画の作成に関しては、使い勝手の点でTikTokに軍配が上がる。
ところが、タレント管理会社のセレクトマネジメントグループ(Select Management Group)でタレントマネジャーを務めるチャーリー・バトン氏によると、TikTokへの投稿動画をインスタグラムのリールズで再配信することは可能だが、インスタグラムはクリエイターたちに対して、「TikTokに投稿された動画には同アプリのロゴが透かしで入り、インスタグラムの発見(Explore)タブではフィーチャーされない」と注意を促している。バトン氏は、「ほとんどの場合、リールズの動画はリールズで撮影するほうが、インスタグラムアカウント全体の成長につながるので、そうする方が良いと奨めている」という。
UTAのマンダヴィア氏によると、クライアントのケルシー・ダラー氏はここ最近、リールズに定期的に動画を投稿するようになり、フォロワー数の増加との相関関係が分かってきたという。同氏の考えはこうだ。「パフォーマンスを見るかぎり、インスタグラムは確実にリールズのコンテンツを強調している。新しい機能を出すたびに、彼らはどのユーザーにもそれを最大限利用させたいと考える。ストーリーズ(Stories)を公開したときもそうだった。リールズについても、新規のコンテンツにより多くの注目を集めるために、アルゴリズムを調整しているにちがいない」。
収益化に関しても機会は同様に
どちらのプラットフォームも、継続的な投稿を奨励するために、金銭的なインセンティブを活用している。インスタグラムは一部のクリエイターを対象に、リールズへの投稿に対して報酬を支払っているし、TikTokもクリエイター基金(TikTok Creator Fund)を設立して、彼らの活動の収益化を支援している。いずれも金額については不明だ。米紙ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)によると、インスタグラムの場合、トップクラスのクリエイターともなれば、その額は数十万ドル(数千万円)にもなるという。一方、チューブフィルター(Tubefilter)によると、TikTokの一部のクリエイターに支払われる報酬は、動画再生回数1000回当たり2セントから4セント(約2円から4円)程度という。ただし、インスタグラムにしてもTikTokにしても、自社のプラットフォームに独占的に投稿することは要求していないため、どちらか一方を選択する必要はない。
クリエイターとブランドの契約に関しても、二者択一を迫る内容ではない。ブランドや広告代理店は、クリエイターを巻き込むキャンペーンでは、インスタグラムとTikTokの両方を用いた拡散を求めている、と前出のソーテル氏は述べている。ただし、そこにリールズが含まれるとは限らない。マンダヴィア氏によると、リールズに関する引き合いはいくつかあるものの、公開から3カ月足らずの機能について、なにかしらの機会を見定めるには時期尚早という。とはいえ、インスタグラムには、タイムラインへの投稿、ストーリーズ、IGTV動画、ライブ動画など、多くのオプションがそろっているため、契約交渉のなかでリールズの件がインスタグラムに不利な影響を与えるわけではない。
「いま現在、クリエイター向けのスポンサーシップ案件に関しては、TikTokのほうが引き合いは多いが、インスタグラムの力は相変わらず絶大だ」と、バトン氏は指摘する。
停戦状態は長くは続きそうにない
2021年を目前に控えて、インスタグラムとTikTokの対立は一見落ち着いたように見えるものの、この停戦状態は長くは続きそうにない。今後、米国におけるTikTokの足元は固まる方向へと向かうようだ。
この9月、TikTokを運営するバイトダンス(ByteDance)は、米国で同アプリの提供を継続するために、オラクル(Oracle)との提携に合意した。いまだ契約の締結には至らないものの、11月12日、米商務省は(TikTok米国事業の売却期限とされた)この日までにオラクルとの契約が成立していなくても、TikTokの利用を禁止する大統領令を施行しないと表明した。さらに11月13日、対米外国投資委員会(CFIUS)は米国事業の売却期限を11月27日まで延長した。一方のインスタグラムはホーム画面にリールズのタブを追加するなど、アプリ内でのリールズの存在感を着々と強化している。
「我々の契約クリエイターは両者の競争再燃を感じているが、リールズが公開された数カ月前とは違う雰囲気だ」とバトン氏は言っている。
Snapchatという思わぬ伏兵も
加えて、インスタグラムばかりに注目が集まるなか、TikTokのもともとのライバルであるSnapchatも不気味な存在感を放っている。1日当たりのアクティブユーザーは2020年第3四半期に前年比で19%増加、現在では2億4900万人に達する。オーディエンスはいまも増え続けており、その存在は無視できない。とはいえ、ここ数年、ブランド絡みの案件では人気を落としているため、一部のクリエイターのレーダーからは外れがちだった。セレクトマネジメントグループのパートナーであるエイミー・ニーベン氏も「現在、Snapchatでブランドとの契約案件はほとんどない」と述べている。だが、この状況は近いうちに変わるかもしれない。
11月3日、Snapchatは、クリエイターは今後、サブスクライバーの人数、つまり自分をフォローしている人の数を一般向けに表示してもよいと発表した。ニーベン氏はこの変更は「非常に大きな動き」だという。というのも、ブランドや広告代理店がブランデッドコンテンツを用いたキャンペーンを企画する際、クリエイターが持つSnapchatのオーディエンスの規模を評価しやすくなるためだ。
SnapchatはインスタグラムやTikTokとの競争の場に戻りつつあるのか。ソーテル氏の答えはイエスだ。同氏いわく、「TikTokとSnapchatに注目するのはもっとも若い世代だ。子どもたちにとっての入り口的なアプリであり、そこからインスタグラムに目を向けるようになる」。
TIM PETERSON(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)