RETAIL REVOLUTION

食品宅配サービス 黎明期の失敗から、我々が学ぶべきこと

2020年はオンラインの食料品購入が大きな注目を集めたが、遡ること22年前の1999年もまた話題となった年だった。

食料品市場全体に占めるオンライン売上の割合は、2019年の3.4%から2020年は10.2%にまで増加した。ウォルマート(Walmart)やAmazon、クローガー(Kroger)におけるオンラインでの食品注文数が急増した。また、同市場におけるスタートアップ最大手のインスタカートは、最後に資金調達をおこなった2018年から推定時価総額がほぼ倍増となる137億ドル(約1兆4200億円)に達している。

だが、全米で食料品のオンライン販売ブームが起きたのは今回が初めてではない。1990年代後半に、ウェブバン(Webvan)やホームグロッサードットコム(HomeGrocer.com)をはじめとする複数の食料品EC企業が業界を席巻しようとしていた。これらの企業は、Amazonでも数年はかかるであろう規模のフルフィルメントセンターを短期間で構築した。

資金面でも目を見張るものがあり、ウェブバンは8億ドル(約830億円)、ホームグロッサーは4億4000万ドル(約460億円)という巨額の資金調達に成功している。1990年代半ばにAmazonをはじめとするIT企業がECで成功を収めたことで、数兆ドル(数百兆円)規模の米国食料品業界においても、ECによる破壊的イノベーションが起こるのは避けられないと考えられていた。AmazonやほかのEC先駆者にとって、この市場は非常に魅力的なフロンティアとして広がっていた。

だが、ピーポッド(Peapod)を除く大半の食料品EC企業は、ドットコムバブルの崩壊とともに2000年から2001年にかけて倒産することとなった。ほとんどのIT系の起業家は、オンライン食料品事業という巨大市場の将来性について認識していたが、彼らは投資しようとはしなかった。米国で再び投資が行われるのに約20年もの時間がかかったのは、このときの失敗の記憶が色濃かったためだ。インディアナ大学で起業マネジメントを専門とし、主にオンライン食料品事業を研究してきた教授のグレッグ・フィッシャー氏は、2001年以降ベンチャーキャピタルにとって「食料品事業は、まるでNGワードのように扱われてきた」と語る。「誰も触れようとしなかった」。

食料品のオンラインモデルはなぜ破綻したのか?

最近になってニュースとして取り上げられるようになったが、オンライン食料品事業は何十年も前から存在している。グロッサリーエクスプレス(Grocery Express)は1981年に、電話注文を受け付ける食料品店として立ち上がった。その後、同社やプロディジー(Prodigy)といった企業がインターネット注文も受け付けるようになった。イリノイ大学アーバナシャンペーン校、情報学教授のメリッサ・オセペク氏は、2013年に発表した論文でグロッサリーエクスプレスを「初のオンライン食料品店」として取り上げている。

ピーポッドは1989年に同業界に参入したが、Amazonが多額の資金とともに参入してきたのは1994年のことだ。そしてウェブバンが1996年、ホームグロッサードットコムが1997年に創業されている。だがこの2社は長続きしなかった。2001年にはITバブルの崩壊で苦しむホームグロッサーをウェブバンが買収したものの、まもなく倒産している。

大手のオンライン食料品企業は、ビジネスモデルがバラバラだった。たとえばピーポッドは既存の食料品店の食品を配達するモデルだったのに対し、ネットグロッサーはフェデックスやUPSによる配達モデルを採用した。一方、ウェブバンやホームグロッサーは、既存の食料品店とは無関係に、独自の配送ネットワークとフルフィルメントネットワークを構築していた(ただし、フィッシャー氏は「在庫がない場合は、社員が急いで地元の食料品店から商品を購入していた」と指摘している)。

このように各社が独自の路線を選んだため、そもそも食料品のオンライン注文というコンセプト自体が初めてだったユーザーにとっては、どこから何がどう届くのか把握できず、余計にややこしい状態となっていた。さらに、配送料金を支払って食料品の配達を受けるということ自体に拒否反応を示すユーザーも多かった。「オンライン食料品の事業モデルの統合に向けた動きがあってしかるべきだったが、実際には何も取り組みが進まなかった」とフィッシャー氏は語る。

命運が分かれた事業モデル

初期のオンライン食料品事業はおおよそ3種類に分類できる。ひとつ目はピーポッドのような、クローガーやセイフウェイ(Safeway)、パール(Pearl)といった地元のスーパーマーケットや卸売業者から商品を入手し、配送するタイプだ。このビジネスモデルは、数百億円という先行投資がなくても事業を始められるというメリットがある。このモデルを採用した場合、「配送手数料の値上げ」が主要な収益源となる。

そしてふたつ目が、今はなきウェブバンやホームグロッサーに代表される、倉庫から配達まで自社管理するフルフィルメント型のモデルだ。この場合は、最先端のフルフィルメントセンターが不可欠となる。たとえばウェブバンは、フルフィルメントセンター1施設につき3500万ドル(当時のレートで約38億円)を支払っている。同社は全米の26の主要都市に拡大する計画を立てており、その投資総額は10億ドル(約1080億円)にも上った。「同社がベンチャーキャピタルから調達した資金の大半は、インフラ開発に充てられた」とフィッシャー氏は述べている。

配送および食料品販売は、いずれも利益率が低い。それゆえウェブバンやホームグロッサーが利益を確保するには、ユーザーから大量の注文を受ける必要があった。だからこそ、これらの企業は拡大を急いだ。利益率の低さでいえば、ピーポッドのようなモデルも同様だ。しかし、同社の投資は基本的に配達車両のみとなっており、食料品やフルフィルメントへの10億ドル規模の投資は必要なく、よりじっくりと拡大に取り組むことができ、持続可能性はもっとも高かった。

そして今のところ、「オンライン配送のサイドオプション」モデルと称される、既存のスーパーマーケットや食料品店がオンラインで注文を受けて配送する、3つ目のモデルがもっとも生き残りやすいことが立証されている。イギリスの食料品チェーンのテスコ(Tesco)は、1997年から「テスコ・ダイレクト(Tesco Direct)」という名前でこうした取り組みを開始した。その後、クローガーやウォルマートも参入しているこのビジネスモデルは、配達のためのインフラがすでにある程度整っていることが成功につながっている。ピーポッドと同様、追加コストは宅配用の車両のみとなる。

失敗は避けられなかったのか?

状況が違えば、ウェブバンやホームグロッサードットコムも生き残ることができたのではないか。「もしウェブバンが一部シリコンバレー企業のような資金調達を受けられていたら」、そして倉庫の展開をあそこまで急いでいなければ、「もしかしたら成功企業になっていたかもしれない」とオセペク氏は語る。

だが当時、スタートアップ各社は即断で奇妙かつ高コストな決定を下していた。オセペク氏は、ウェブバンによる放漫経営の好例として、肉類の供給を挙げている。「当初は、インハウスの精肉店を立ち上げていたが、結局のところ外注したほうが安いということが分かり、後に外注に切り替えている」と同氏は語る。「まるで『拡大のためには、あらゆることに手を出す』といわんばかりの姿勢だった」。英国のネットスーパー大手のオカド(Ocado)も同様の手法で拡大を試みたが、オカドの場合はウェブバンの過ちを繰り返さず、より慎重な成長戦略を採用した。

また、ウェブバンやホームグロッサーの失敗は、このような内的要因だけではなかった。両社がサービスを開始したのはインターネット黎明期だった。オンラインで買い物をする人がほとんどいないなかで、ホームグロッサーはキッチンウェアブランドのタッパーウェア(Tupperware)が得意とする、販売員によるホームパーティ形式の即売会のような、友人に食料品のオンライン購入について広めさせるための企画イベントを行うなどの策を講じていた。だがホームグロッサーの創業者、テリー・ドレイトン氏はフィッシャー氏の調査に対し、たとえばホームグロッサーはAOLとの互換性に欠陥があったと述べている。「ウェブサイトでの『購入』ボタンやチェックアウトが機能していなかった。たとえ欲しい商品があっても、購入することができないというケースも頻発していた」と同氏は語る。

ウェブバンやホームグロッサーはITバブルの崩壊により倒産に至ったが、目立たないながらも競合していたピーポッドは生き残り、緩やかながら確実に成長を続けてきた。2000年に行き詰ったオンライン食料品ビジネスだが、それでもオランダの大手食料品チェーン、アホールド・デレーズ(Ahold Delhaize)は7350万ドル(当時のレートで約79億円)でピーポッドの株式の過半数を取得して筆頭株主となり、1年後には3500万ドル(約38億円)で残りの株式を取得。完全子会社化した。

数少ない生き残り

ウェブバンやホームグロッサーの台頭とそれに続く失敗は、オンライン食料品ビジネスの現状に少なからず影響を及ぼしている。

Amazonは2007年から生鮮食品の配達を開始したが、同社はこのサービスを極めて緩やかに拡大させてきた。ピーポッドと、よりローカルなフレッシュダイレクト(現在はピーポッドと同じくアホールド・デレーズの子会社となっている)を除けば、同分野において今、最大規模となっているスタートアップがインスタカートだ。インスタカートのオンライン食料品ビジネスへのアプローチは、ウェブバンと真逆となっている。

インスタカートは倉庫を持たず、自社の食料品フルフィルメントネットワークも一切持っていない。そのかわり、同社はピーポッドの初期のアプローチと同様に、既存店舗から食料品を調達し、それを配送するという手法を採っている。また、傷みやすい商品を扱うトラックの大規模なシステムを構築するのではなく、宅配はギグワーカーに任せている。

一方で、再び同分野に注目するベンチャーキャピタルが増えている。プライベートキャピタル市場の調査会社ピッチブック(Pitchbook)によれば、2020年の第1から第3四半期までの、投資家によるオンライン食料品事業への投資額は13億ドル(約1340億円)に上っている。これに対し、2019年を通じた同分野のスタートアップの資金調達額は17億ドル(約1750億円)だった。

だが、ウェブバンに代表されるような破たん劇のインパクトは強く、たとえ異なるビジネスモデルの企業であっても、オンライン食料品ビジネスへの投資には及び腰な投資家も少なくない、とオセペク氏は言う。「ただし、数字だけを見れば、可能性を感じて同じような論理で同じことをしようとする企業が出て来てもおかしくない」と同氏は語り、次のように述べた。「しかし、まずはウェブバンを反面教師として学ぶ必要がある。また投資家も、数字のみから拙速な決断をせず、慎重に検討して欲しい」。

[原文:‘A cautionary tale’ What the ’90s online grocery bust means for the industry today

Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)
Photo by Tim Boyle / Getty Images