2022年についてひとつ確実に言えるのは、アドテク業界におけるディールメイキングの数は今後も増える、という点だ。合併および買収は、急増した2021年同様、今後も引き続き行なわれるだろう。ただし、大規模なものは減っていくと思われる。2022年のディールメイキングについて、米DIGIDAYが予測した。
2022年についてひとつ確実に言えるのは、アドテク業界におけるディールメイキングの数は今後も増える、という点だ。合併および買収は、急増した2021年同様、今後も引き続き行なわれるだろう。ただし、大規模なものは減っていくと思われる。
めぼしい企業の多くは買収されており、上場を狙っていたところはすでにそうしたか、あるいはそれに向かって着実に準備を進めている。加えて、アドテク界のトップらは目下の重要事を山ほど抱えているので、そうしたディールに構っていられない、という事情もある。厳しさを増す広告主の監視の目や、メディア費を巡って熾烈さを増す上場企業同士の争い、インフレの波及効果は、そのごく一部だ。
つまり、ディールの扉は開いているが、強引かつ戦略的動きが大量に見られた2021年ほど広く開かれているわけではない、ということだ。
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いまのところ予想されるのは……
2021年年末から2022年年明けにかけて発表済の話が進むのは間違いない――広告品質検証の最大手インテグラル・アド・サイエンス(Integral Ad Science)は、コンテンツの明確化に特化する、パリが拠点の企業コンテクスト(Context)を買収、アドフラウド対策大手ヒューマン(Human、元ホワイト・オプス[White Ops])は1億ドル(約110億円)の資金調達に成功、さらに広告プラットフォームのマグナイト(Magnite)はクリプトソフトウェア開発スタートアップ、エヌス・パーティ(Nth Party)を獲得した。一方、ソーシャルマーケティング企業のスマートリー・ドット・アイオー(Smartly.io)は2022年1月第1週、競争力強化を図り、Googleマーケティングプラットフォーム、アドリブ・ドッド・アイオー(Ad-Lib.io)に1億ドル(約114億円)の小切手を切る旨を発表した。
そのどれもが、2021年を決定づけた諸々の動きに比べると、派手さには欠けるものの、焦点はより明確になっている。また、アドテク企業の上場熱も冷めていくと思われる。実際、主な新規上場はすでに2021年秋から起きている。しかも、投資銀行ルマ・パートナーズ(Luma Partners)の発表によれば、2021年第1四半期の上場企業数が15社だったのに対し、第3四半期はわずか3社だった。
「合併は続いているが、より小規模なディールが中心になっていく傾向はすでに見え始めている」と、グロースコンサルティング企業ヴォランド(Volando)の創業パートナー、アビード・ジャンモハメド氏は分析する。「私が話を聞いたかぎり、この現象はすでに起きており、より機能的な、人材によりフォーカスしたディールを求めるこの流れがこのまま続いたとしても、個人的には驚かない。実際、そうした大企業の多くはいわゆるバックオフィス機能を有しており、スケールメリットを活かせる分野をすでに押さえている」。
もちろん、大規模ディールがない、というわけではない。マイクロソフト(Microsoft)によるデジタル広告プラットフォームであるザンダー(Xandr)の買収はその一例であるし、アドテク企業メディアマス(MediaMath)による身売りの検討も然りで、それが現実となれば、莫大な金が動くことが予想される。アドテク業界の分断的現状に鑑みるに、さらなる統合の必要性は今後も継続されるだろう。
オープンウェブの分岐
広告テクノロジーに特化したメディア、ワイヤーコープ(WireCorp)のCEOで、スタートアップ投資ファンド、ファースト・パーティ・キャピタル(First Party Capital)のジェネラルパートナーでもあるチアレン・オケイン氏は米DIGIDAYに対し、2021年から相次ぐアドテクM&Aが及ぼす影響のひとつとして、オープンインターネット上における大規模なオーディエンスバイの減少が起きると語った。同氏はさらに、それは結果的に、オープンウェブの分岐を生むとも予想した。アドテク能力のアウトソース化を求める「ユーティリティパブリッシャー」が登場する一方で、メインストリーム勢の多くは「ミニウォールドガーデン」化を目指すと、氏は見ている。
「ユーティリティパブリッシャー」のニーズが資金調達を後押しする
「ユーティリティパブリッシャー」とは、ファーストパーティデータを大量に有し、それでいて、広告料ありきのビジネスモデルに長らく依存してきた、ありふれた、いわゆるレガシーメディアブランドほど図体が大きくない、フットワークの軽いメディアオーナーだと、オケイン氏は説明する。このメディアオーナーの「新たな」集団は広告をあくまで潜在力のある「優れたアドオン」と見なす傾向があり、それゆえアドテクのアウトソース化を続ける公算が高いという。
そうしたパブリッシャーは広告配信か、ネイティブ広告またはリスティング広告を通じてマネタイゼーションを強化するべく、ケヴェル(Kevel)――同社のウェブサイトによれば、APIを利用してチケット販売大手チケットマスター(Ticketmaster)、ファイル転送アプリであるウィトランスファー(WeTransfer)、ローカルビジネスレビューサイトのイエルプ(Yelp)などを支援している――といった企業と提携する可能性が高い。
なかには、そんなアドテク企業勢に目をつけている投資家もいる。その背景には、ケヴェルが2021年12月、フルクラム・エクイティ・パートナーズ(Fulcrum Equity Partners)の力を借りてシリーズBで1000万ドル(約11億円)を調達した事実があり、この動きがそうした予想の裏付けとなっていると、オケイン氏は指摘する。
個人情報保護法がもたらす、世界中に着実に広がりつつある重大な影響のひとつは、メディアバイイング勢がAmazonやFacebook、Googleのウォールドガーデンの外に出て、オーディエンス主導の大規模キャンペーンを打とうとする際に直面するもろもろの困難にほかならない。
「ミニウォールドガーデン」の台頭
とはいえ、パブリッシャー勢は、そしてアドテク企業勢はこの溝を埋めるべく、各々が独自の「ミニウォールドガーデン」を作ることになると、オケイン氏は語り、それに伴って起きるコンテクスチュアル広告への回帰が、2022年、さらなるM&Aの呼び水になるだろうと予想する。市場に対する現在のこの動きについて、氏は「奇妙な逆戻り」と称し、データ主導でありながら、広告頼みのインターネットがいわゆる「ミニウォールドガーデン」の真似を始めることになる、と指摘する。
近年のM&Aを考えれば、この流れはすでに起きつつあると言える。これまで業界のセルサイドにいた企業、スマート・アドサーヴァー(Smart Adserver)がプライシングダイナミクスのなおいっそうの透明化を図り、デマンドサイドプラットフォームのリキッドエム(LiquidM)を2019年後半に買収したことは、その最たる例だ。「この先おそらく、コンテクスチュアル[メディアバイ]への揺り戻しを目にすることになる」と、オケイン氏は言い添える。「多くのパブリッシャーがそれぞれ独自のソリューションを構築するためにアドテクを買収し、それをエージェンシー勢に売却する、という動きも見られるかもしれない」。
なぜ今?
Googleが長らくプログラマティック広告の要的存在だったサードパーティCookieから手を引くまで2年足らずとなった現状を踏まえ、業界内の熱はますます高まっており、その結果、多くのパブリッシャーの脳内でディールメイキングの機が熟す、という状態が生じている。一方、マーケター勢が巨大テック勢のウォールドガーデンへの依存度を下げる必要性をますます強く認識するなか、2022年は、価格が妥当ならば、めぼしいアドテク企業を次々に買収するパブリッシャーの動きを目にすることになると思われる。
規模は小さいが、より価値の高いディール?
レガシーパブリッシャーとアドテクとの間には波乱の歴史もあったかもしれないが、前者が今後、独自のそれを構築するべく、より小規模な買収を求めて市場に入ってくる可能性もある、とする見方もある。「5億ドル(約550億円)超の巨大買収劇は2021年の話、となる公算が高いと思う」とオケイン氏。「この先おそらく、巨大アドサーバー勢の買収はないだろう。その代わりに、ファーストパーティデータ収集に役立つツールを求める動きが市場で見られるのではなかろうか」。
コンサルティング企業、スパロウ・デジタル・アドヴァイザーズ(Sparrow Digital Advisers)の共同創業者でプリンシパルのアナ・ミリセヴィック氏もオケイン氏と同様の見方をし、広告収入頼みのインターネットはミニウォールドガーデン群居の時代に戻ると予測する。その最たる例として、氏は2021年度に起きたふたつの「ラテラル[横移動]ディール」――マイクロソフトによるザンダーのAT&Tからの買収と、モバイルアプリ企業アップラヴィン(AppLovin)によるモバイル広告プラットフォーム、モパブ(MoPub)のTwitterからの買収――を挙げる。
「ここで見られるのは、別の会社からアセット[資産]を買い取り、それをもう少し理に適った場所に移動させ、そこに新たな価値提案を加える、という動きだ」と同氏は説くとともに、マイクロソフトは自身が有する一連のメディアプロパティに収益をもたらすマネタイゼーションプラットフォームとして、ザンダーを活用できる、と示唆する。
「調査中の」ディール
ただ、2022年が幕を開けたいま、ミリセヴィック氏は買収対象候補として、新たに登場した、あるいは比較的「忘れられている」分野に新たな光をもたらした小規模企業や、キャンペーン予算最適化に新風を吹き込んだ企業および新進プラットフォームを挙げる。
「起きるべきM&Aは数多くある」と氏は言い添える。「デジタルOOHや、ポッドキャストといったナローキャスト広告の自動化に寄与する分野など、現在調査中の業界については、個人的には太鼓判を押す。同じことは、eメールニュースレターのスポンサーシップに寄与できる分野にも言える」。
加えて、氏はクリエイティブの最適化分野もM&Aの対象になる可能性が高いと言い添え、その一例として2021年年末に起きた、クリエイティブオートメーションに特化するセルトラ(Celtra)のプライベートエクイティ企業シンフォニー・テクノロジー・グループ(Symphony Technology Group)による買収を挙げる。
「たとえば、自動クリエイティブテストといった分野も(中略)ここしばらくは忘れられているに等しい分野だ」と、ミリセヴィック氏。「そうした分野はほかにも多々あり、そこにはしばらくの間、買収の対象から外れていた優良企業がいくつか存在している。今後はそうした所で多くのディールが見られることになると見ている」。
もちろん、CTVの存在も……
もちろん、CTVの台頭も忘れてはならない。2021年に投資銀行家を多忙にしたとともに、2022年は、前年ほどの勢いには(やや)欠けると見る識者はいるものの、引き続きM&A専門弁護士の時間を独占すると思われる分野だ。
CTVがM&Aにとってどれほど熱い分野なのかは、有望な新規公開アドテク企業勢が2021年、CTVをこぞって優先事項のひとつとした事実を見るだけでもわかる。コンテンツレコメンドエンジン、アウトブレイン(Outbrain)が動画プラットフォームを提供するヴィデオ・インテリジェンス(Video Intelligence)を5500万ドル(約60億円)で手に入れた一方、効果測定におけるライバル2社、ダブルヴェリファイ(DoubleVerify)とインテグラル・アド・サイエンスもオープンスレート(Openslate)とパブリカ(Publica)をそれぞれ、前者は1億5000万ドル(約165億円)、後者は2億2000万ドル(約242億円)でIPO[新規株式公開]から数カ月以内に獲得している。
2021年、米DIGIDAYの取材に応え、JMP証券でテクノロジー投資銀行業務を担うマネージングディレクター、エルジン・トンプソン氏はCTVについて「いま現在、アドテク業界における一番の話題」と断言した。CTV支出に関し、ROI[投資利益率]のホリスティックな測定を広告主に提供できる企業は、魅力的な標的となるだろう、とトンプソン氏は言い添え、ピクサビリティ(Pixability)やゼファー(Zefr)といったところを買収対象候補に挙げた。
「そうした企業には、広告主のメトリックスおよび目標の同定に寄与し、彼らのストーリー作りに手を貸すために、いわゆるフルスタックが必要とされる」とトンプソン氏。「それこそがまさに、2022年、市場が注目するテーマにほかならない」。
[原文:2022’s dealmaking is already underway, will it be a year of smaller, better, cheaper?]
RONAN SHIELDS and SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)