スニーカー収集は、手間も費用も高くつく。人々は新しいプロダクトがリリースされた日に、アクセスを巡ってボットと戦うか、翌日にリセールプラットフォームや業者から、小売価格よりも数百ドル(数万円)、あるいは数千ドル(数十万円) […]
スニーカー収集は、手間も費用も高くつく。人々は新しいプロダクトがリリースされた日に、アクセスを巡ってボットと戦うか、翌日にリセールプラットフォームや業者から、小売価格よりも数百ドル(数万円)、あるいは数千ドル(数十万円)高値で購入しなければならない。
これは、市場の成長を阻害する可能性のある問題だ。スニーカーの独占と限定販売がこの5年間で売り上げを牽引し、スニーカー市場は800億ドル(8兆8000億円)の市場になったが、同時にカジュアルな消費者を遠ざけるリスクも懸念されている。そこで、ストリートウェアの新興プラットフォーマーたちは、「限定品のストリートウェアは、高価でなければならない」という常識を変えようとしている。
その一角が、2021年6月にローンチされたスニーカーのレンタル、および試着サービスを提供するプラットフォーム、キックス・ワールド(Kyx World)だ。最高経営責任者は、共同設立でもあるブライアン・ムポ氏。同プラットフォームは、エアジョーダンとユニオン・ロサンゼルスのコラボスニーカー、「エアジョーダン・ユニオンLA 4レトロオフ・ノワール(Air Jordan Union LA x 4 Retro Off Noir)」や「アディダス・イージー700・V3クレイ・ブラウン(Adidas Yeezy 700 V 3 Clay Brown)」といった最高級スニーカーを、より手頃な価格でユーザーに販売することを目指している。
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キックス・ワールドのビジネスモデル
キックス・ワールドのビジネスモデルはシンプルだ。顧客は、月額49ドル(約5400円)で1足、月額129ドル(約1万4000円)で2足、249ドル(約2万7000円)で3足、399ドル(約4万4000円)で4足のスニーカーを毎月レンタルできる。また、それぞれのスニーカーの再販価格の合計が、各プランごとに設定された金額を超えない限り、顧客は好きなスニーカーを選択できる。たとえば、月額49ドルのプランの場合は、合計300ドル(約3万3000円)まで。月額399ドルのプランは、合計2000ドル(約22万円)までとなっている。
また、顧客はスニーカーを1カ月利用し、その後別のスニーカーと交換するか、もう1カ月利用するか、購入するかを選択できる。顧客は基本的に、レント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)のように、スニーカーを毎月レンタルするためのサービスとして利用することもできるし、スティッチ・フィックス(Stitch Fix)のように、購入前の試着に利用することもできる。
ムポ氏によると、ほとんどのプランに設定されている価格は、平均的なスニーカーコレクターが費やす価格よりも安価だという。ストックX(StockX)の調査によると、平均的なスニーカー消費者はスニーカーに月314ドル(約3万5000円)を費やしている。
さらに、キックス・ワールドの商品はリセール業者から供給されているため、顧客は新しいスニーカーを発売日当日、場合によっては前日に手に入れることができるという。なおローンチ時点で、キックス・ワールドは900人近くの利用者と3000足の靴があり、その多くは新品だったという。
ブランディング重視のプロモーション
キックス・ワールドは現在、ショートフィルムをメインのプロモーションコンテンツとして展開。これは同社のソーシャルチャネルで投稿され、スニーカーのインフルエンサーの手で拡散された。さらにこの動画は、30万人のインスタグラム・フォロワーを抱えるエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターのジェフ・ステイプル氏にも協力を依頼し、同氏のアカウントでも展開された。ムポ氏によると、ステイプル氏の参加はキックス・ワールド自体の認知度獲得のためだという。「それがジェフがわれわれのクリエイティブ・ディレクターである大きな理由だ」。
また、ムボ氏は以下のように続ける。「彼はブランディング分野に非常に強い基盤を持っている。我々にいま必要なのは、ストリートウェア業界で強固なブランドイメージを構築することだ。ちなみに、キックス・ワールドではオリジナルの靴下を販売しているが、こうしたグッズもすべてブランド戦略ありきで展開している。ストリートウェアの消費者は、特定のブランドに熱心になるケースが多いので、成功することを確信している」。
独立系ストリートウェアデザイナーの分野でも
ラフール・ティワーリ氏が最高経営責任者を務めるプラットフォーム、トリル(Trill)もまた、この分野の低価格化を目指している。同プラットフォームは、ナイキ(Nike)やシュプリーム(Supreme)のような大手企業以外の、独立系ストリートウェアデザイナーのためのマーケットプレイスだ。2021年2月にローンチされ、現在は毎月25万ドル(約2800万円)から30万ドル(約3300万円)の売り上げを達成している。
ティワーリ氏のチームは、まだ知名度も低い新人の独立系デザイナーをリクルートし、彼らが大きな成功を収める支援を行っている。当初は、ソーシャルメディアやリファラルを活用し、ティワーリ氏のチーム自らこうしたデザイナーを探すことが多かったが、いまでは月に40人から90人のデザイナーの応募があり、そのうちの約10%が採用されているという。
トリルは採用したデザイナーたちを、中国とバングラデシュの製造パートナーに紹介し、彼らがデザインしたプロダクトを生産している。この製造パートナーたちは、トリルから優先的に仕事を受注できる代わりに、通常の最低注文数よりも少ない規模での製造に同意しているという。その後デザイナーが制作したプロダクトは、トリルのインスタグラム風なWebサイトで、ブランドではなくカテゴリー別にグループ分けされて販売される。
ティワーリ氏によると、トリルの目標は、ストリートウェアの消費者が超高級なブランドだけに集中することを防ぎ、より手頃な価格で手に入る多くの独立系デザイナーブランドに道を開くことだという。ストリートウェアのデザインを、より手頃な価格にすることに加えて、デザイナーにとって公平な世界を作りたい、と彼は強調する。
「売上の大部分を、グッチ(Gucci)をはじめとした大手ブランドに依存する、ファーフェッチ(Farfetch)のようなプラットフォームとは異なり、トリルの売上は多様なブランドによるものだ」とティワーリ氏。なお同氏によると、トリルで展開される約75のブランドのうち、売上ランキング上位50%のブランドが占める全体売上の割合は、約70%におよぶという。「突然、売上がスパイクすることはあるが、これは特定のブランドに関してではなく幅広いブランドに見られている。たとえば、カニエ・ウェストが花柄のジーンズを履いたら、花柄のパンツを持つブランドはどこも、売り上げが増えるといった具合だ」。
高まる女性ユーザーからの支持
これらに加えて特筆すべきは、キックス・ワールドとトリルのどちらも、このカテゴリーでは通常あまり顧客として捉えられない女性の消費者たちからの関心を集めている点だ。ムポ氏によると、キックス・ワールドのベータ版には10%〜15%の女性ユーザーがいると予想していたが、実際には25%だった。またティワリ氏によると、トリルのデザイナーの70%は女性か、有色人種だという。
[原文:New shopping platforms aim to make sneakers more accessible]
DANNY PARISI(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)