家具ブランド大手のイケア( IKEA )は8月30日、米国で家具の買い戻しと再販売のプログラムを開始し、小規模な消費者直販の家具ブランドや再販を中心とした家具プラットフォームと並んで、循環型経済の推進に乗り出した。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、小売業の変革の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
家具ブランド大手のIKEA(イケア)は8月30日、米国で家具の買い戻しと再販売のプログラムを開始し、小規模なD2C家具ブランドや再販を中心とした家具プラットフォームと並んで循環型経済の推進に乗り出した。
大手家具ブランドとして初
IKEAは、大手家具ブランドとしては初めて、買い戻しモデルを採用する。過去、家具の再販売は、チェーリッシュ(Chairish)のようなオンラインとオフラインのアンティークマーケットプレイスと、アーバン・アウトフィッターズ(Urban Outfitters)、ワン・キングス・レーン(One Kings Lane)のような従来型小売業者で占められていた。ここ数年は、サバイ(Sabai)やフロイド(Floyd)などいくつかの小さなD2Cの新興企業が買い戻しプログラムを立ち上げ、自社ブランドの商品の買い取りと再販売を開始した。
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アパレルの再販売と同様に、中古家具業界は急速に成長しつつあり、2025年には166億ドル(約1兆8200億円)に達するとみられている。従来型のショールーム式の小売業者であるウエストエルム(West Elm)から、箱入りソファを扱う新興企業のバーロウ(Burrow)まで、さまざまな小売業者が布地のリサイクルやエコフレンドリーなパッケージに投資しているが、再販売と買い戻しのモデルは循環による持続可能性を実現し、リサイクルに加えてリユースを促進するものとなる。
家具の再販売に関係する配送、保管、物流などのコストは、アパレルの場合より高額となる。そのため、家具小売業界ではこのモデルの採用が遅れており、これまで取り組んできたのは、小規模な新興企業やオンラインマーケットプレイスばかりだった。しかし、IKEAが再販売に参加したことで、大手の小売業者も、この新しいモデルをテストするようになると思われる。
循環型経済を目指すIKEA
IKEAは昨年10月に、自社製家具の買い戻しと再販売のプログラムを拡大すると発表した。このプログラムは最初にカナダで2019年に開始されたものだが、これを、ブラックフライデーにヨーロッパを中心とした27カ国で実施するという試みである。このプログラムにより、IKEAユーザーは布張りや革張りの製品を除く中古家具を売り戻し、商品の元の定価の30〜50%に相当するストアクレジットを受け取ることができた。
IKEAは8月30日、このプログラムを初めて米国に拡大すると発表した。ペンシルバニア州コンショホッケンの店舗(IKEAの北米本社でもある)で1カ月間、試験的に実施される。IKEAアメリカのサステナビリティマネージャーであるジェニファー・キーソン氏は、最終的な目標はこのプログラムを米国のすべての店舗に、恒久的に拡大することであると、米モダンリテールにメールで回答している。
キーソン氏は次のように語っている。「IKEAは、2030年に完全循環型のビジネスを達成することに注力している。このために現行の直線的なビジネスモデルを、最初からリユース、修理、再利用、リサイクルを念頭に置いたものへと変換する。再生可能な素材、リサイクル素材、またはリサイクル可能な素材のみを使用し、廃棄物を出さないようにし、買い戻しや再販売などのサービスを導入していく」。
キーソン氏は、再販売に関する法律が州や地方自治体ごとに異なるため、「市場に合わせて」このプログラムをゆっくりと展開しているのだと説明している。たとえば、コネティカット州では、通常の家具メーカーは返品された布張りや革張りの自社製家具を販売できない。布張りや革張りの家具は、ライセンスを受けた中古ディーラーのみが、州独自の衛生基準と商品タグ付け基準に従って販売できる。そのため、これまでのIKEAの活動はほとんどが一時的な試みで、消費者は家具を自分で特定の店舗に持ち込み、査定を受けて引き渡す必要があった。
キーソン氏は次のように述べている。「IKEA・コンショホッケンで買い戻しと再販売のプログラムを試行して、プロセスをテストし、問題があれば対処し、得られた教訓を活かすつもりだ」。
家具の再販売に立ちはだかる問題
IKEAは、このようなプログラムを開始する最初の大手小売業者のひとつだが、過去数年間に多くの新興企業が同じ形式の再販売を試みている。
D2C家具ブランドであるサバイは、エコフレンドリーなリサイクル生地を使用した比較的安価なソファと長椅子を扱う会社として2019年末に設立された。共同創設者のファンティラ・ファタラプラシット氏によれば、同ブランドは、持続可能性を考える消費者に向けた比較的低コストのソリューションとして創設されたものだ。このブランドでもっとも高価な商品は組み立て式家具で、価格は1700ドル(約18万7000円)である。
ファンティラ・ファタラプラシット氏は、ブランドの立ち上げ時点ですでに買い戻しと再販売のプログラムを考えていたが、この「サバイリバイブ」プログラムに必要な物流を決定するのに1年以上を要し、この1月にようやく開始できたと語る。
フロイドは、ベッドフレーム、ソファ、テーブル、棚、屋外用家具を消費者に直販している別のブランドだが、同様のプログラムを今年4月に開始した。このプログラムは「フルサイクル(Full Cycle)」と呼ばれ、返品された商品や欠陥のある商品を販売する。フロイドはサバイとは異なり、使用済みの中古品を買い戻すわけではないが、従来ならリサイクルや廃棄処分に回されたような商品を低価格で購入できるようにしている。
家具の再販売が順調に成長しなかったおもな理由は、オンラインで家具を再販売するためのコストにある。ファタラプラシット氏は次のように語っている。「持続可能な買い戻しと再販売は業績の向上に役立つと考えている。しかし、その効果を実現するには多くの時間が必要で、小規模なビジネスでは、最初からそのような活動を行えるだけのマンパワーがない」。
サバイの買い戻し価格のレートはIKEAよりも低い。サバイのストアクレジットを使用する場合で商品の元の価格の20%、現金では15%である。しかし、消費者に代わって商品の引き取りと査定を行うほか、IKEAとは異なりストアクレジット以外で代金を受け取ることも可能だ。
アパレル再販業者と同様に、家具の再販業者も再販売の方式についてさまざまな選択を行う必要がある。あるサービスでは、業者が消費者に代わって家具の引き取り、リスト作成、販売を行うのに対し、別のサービスでは、消費者が自分で販売作業を行うと高いレートで代金を受け取れる。さらに、ブランドでは買い戻しの対象が自社製品に限られるのに対して、チェーリッシュやエブリシング・バット・ザ・ハウス(Everything But the House)などのマーケットプレイスでは、アンティークの買い取りやエステートセール(遺品整理、生前整理)もオンラインで行われる。
ファタラプラシット氏は、再販売を困難にするもうひとつの理由として、大型商品の移送や配送が環境に与える悪影響を減らすため、買い戻し戦略にローカル化を組み入れる、すなわち商品をなるべく近隣の地域で販売する必要があることを挙げている。
ファタラプラシット氏は次のように語っている。「幸運なことに、物流を扱うパートナーが見つかり、このような買い戻しと再販売をローカル化することもできた。本来の目的が持続可能性である以上、顧客からの買い取りと販売のために、商品を遠くまで運ぶのは本末転倒だ」。
今後の成長可能性
オンラインでの家具の再販売マーケットプレイスモデルは以前から存在していたが、2020年のパンデミックで家具に注目が集まったことで特に大きく成長した。たとえば、2014年に設立された中古家具マーケットプレイスのアプトデコ(AptDeco)は昨年、300%もの成長を見せた。チェーリッシュの共同創設者にしてプレジデントであるアンナ・ブロックウェイ氏は、同社のマーケットプレイスが2013年の設立以来50万点のビンテージ品の再販売を促し、高級ビンテージ商品の販売について20〜30%の手数料を受け取ったと述べている。
現在、再販売の商機は広がりつつあり、ブランド自身が参入を開始している。マーケットプレイスは複数のブランドと複数の販売業者によるプラットフォームで運営されているが、買い戻しプログラムはブランド独自のもので、ブランド内で実施される。
新しいモデルの収益性は証明されつつある。たとえばIKEAでは、昨年のブラックフライデーに試験的に行った買い戻しキャンペーンだけで48万2000点を買い戻し、ストアクレジットで210万ユーロ(約2億7300万円)を支払った。
さらにサバイのファタラプラシット氏は、持続可能性が特に若い世代にとって重要であることが判明したとしている。若い消費者は環境に優しい選択肢を探し求めており、上の世代と比べると、どの会社が持続可能性を提供しているか、よく知っている。このため、家具ブランドでの再販売の傾向は急速に強まっていくと考えられる。
ファタラプラシット氏は次のように語っている。「買い戻しと再販売が今後増加していくことは疑いなく、これは、廃棄物を減らすという意味で、家具業界にとって良いことだ。IKEAは周知のとおり大規模な家具小売業者で、同社がこのような方法で自社製品に責任を持つことは、同社の大きな商品売上高を考えても、非常に望ましい。家具業界は、より持続可能な形態に移行しつつあるし、移行せざるを得ないと考えている」。
[原文:With an Ikea pilot, more furniture brands test out resale]
Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Photo from Sabai