中国系eコマース大手のシーイン(Shein)とティームー(Temu)は、米国における低価格商品の市場シェアをめぐり、いくつもの訴訟を抱えている。そしてどちらのブランドも、急成長するデジタルファストファッション分野において、リーダーの地位を確立しようとしていることを示している。
ピンドゥオドゥオ(Pinduoduo)の親会社PDDホールディングス(PDD Holdings)が所有するティームーは7月、ボストン連邦裁判所(Boston federal court)で、シーインに対して米国の独占禁止法違反を申し立てる訴訟を起こした。この訴訟で、シーインは中国の衣料品メーカーがティームーとの提携するのを阻止するため、独占サプライヤー契約を結ぶよう強要したと告発されている。一方、シーインは2022年12月、ティームーに対し、ティームーがソーシャルメディアのインフルエンサーを募集し、ソーシャルチャネル、特にTikTokでシーインを誹謗したとして訴訟を起こした。
小売の専門家によると、シーインとティームーはどちらも国際市場での覇権を争っており、それぞれ独自のマーケットプレイスを構築することでそれを実現しようとしているという。こうした現在進行中の訴訟事件は、どちらの企業も、自社の低価格製品にかなりの需要があるeコマース市場を実際に見つけたことを示している。しかし、両社ともこの分野の競争が食うか食われるの世界だと明らかに理解しており、相手より優位に立つためのあらゆる戦略を駆使しようとしている。
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中国系eコマース大手のシーイン(Shein)とティームー(Temu)は、米国における低価格商品の市場シェアをめぐり、いくつもの訴訟を抱えている。そしてどちらのブランドも、急成長するデジタルファストファッション分野において、リーダーの地位を確立しようとしていることを示している。
ピンドゥオドゥオ(Pinduoduo)の親会社PDDホールディングス(PDD Holdings)が所有するティームーは7月、ボストン連邦裁判所(Boston federal court)で、シーインに対して米国の独占禁止法違反を申し立てる訴訟を起こした。この訴訟で、シーインは中国の衣料品メーカーがティームーとの提携するのを阻止するため、独占サプライヤー契約を結ぶよう強要したと告発されている。一方、シーインは2022年12月、ティームーに対し、ティームーがソーシャルメディアのインフルエンサーを募集し、ソーシャルチャネル、特にTikTokでシーインを誹謗したとして訴訟を起こした。
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小売の専門家によると、シーインとティームーはどちらも国際市場での覇権を争っており、それぞれ独自のマーケットプレイスを構築することでそれを実現しようとしているという。こうした現在進行中の訴訟事件は、どちらの企業も、自社の低価格製品にかなりの需要があるeコマース市場を実際に見つけたことを示している。しかし、両社ともこの分野の競争が食うか食われるの世界だと明らかに理解しており、相手より優位に立つためのあらゆる戦略を駆使しようとしている。
ともに急成長を遂げたシーインとティームー
ティームーは昨年9月に米国でサービスを開始した。同社は2月12日のスーパーボウル(Super Bowl)で、米国内で初のスポット広告を放映した後、ダウンロード数と1日あたりのアクティブユーザー数が爆発的に伸びた。2023年2月には、ティームーのダウンロード数がターゲット(Target)などの米国小売大手企業をも超えたことは、米モダンリテールが以前に報じた。ティームーを利用することで、中国のベンダーは、米国の倉庫に商品を保管することなく、買い物客に販売し、直接配送することができる。
ティームーは、多くのカテゴリーで大幅割引の商品を提供するブランドとして自社を位置づけており、より多くのアメリカ人が自社のウェブサイトを訪問してアプリをダウンロードするよう、米国で積極的なマーケティングを進めている。この戦略はうまく働いているようで、米モダンリテールが確認したコムスコア(Comscore)のデータによると、ティームーが2023年1月に月間ユニークユーザーがターゲットを上回り、米国での月間アクティブユーザー数を着実に伸ばし続け、2023年5月の時点でターゲットより優位に立っていることが示されている。また、コムスコアのデータでは、ティームーは2022年10月にシーインの米国におけるトラフィック数を超え、2023年5月時点でもリードを維持している。
一方、評価額が約1000億ドル(約14兆円)に達するシーインは、2021年に米国店舗からのショッピングアプリのダウンロード数でAmazonを超えた。シーインは、米国におけるプレゼンスを強化するため、5月に立ち上げた新しいマーケットプレイスに重点を移している。また同社は、ファッションと美容品以外の商品にも事業を拡大し、人々にマーケットプレイスで衣料品以外の商品も購入してもらいたいと考えている。
ティームーは当初から幅広い品揃えでスタートしたが、ファストファッションを主な戦場とみなしていることは訴訟から明らかだとインサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)で小売およびeコマースのシニアアナリストを務めるスカイ・キャナバス氏は語る。「これは、米国の小売eコマースにおいて、アパレルが最大のカテゴリーであるためだ」と、同氏は付け加えている。
アパレルを重視している理由
ティームーは訴状のなかで、シーインは「脅迫、威嚇、虚偽の主張、根拠のない懲罰的な罰金を課そうとする活動を行っており、衣料品の製造業者に対して独占的契約を強要した」と申し立てた。ティームーの訴状によると、シーインはティームーが米国に参入したことを「ウルトラファストファッションにおけるシーインの安易な市場独占を打ち破るもの」で、自社の事業の存続にとっての脅威とみなしているという。「米国市場は、この争いにおける最大の舞台だ」とティームーは訴状で述べている。シーインは7月、この訴訟が「無益なものであり、我々は利益を守るために総力で取り組む」と、ロイター(Reuters)に語った。
インサイダーインテリジェンスの予測では、今年、米国におけるeコマースの売上は2140億9000万ドル(約30兆円)で、その18.8%はアパレルやアクセサリーのカテゴリーだ。そして、アパレルとアクセサリーのカテゴリーは2027年に3214億6000万ドル(約45兆円)まで成長すると予測されている。
ティームーは訴訟において、アパレルがシーインの売上の90%以上を占め、ティームーはそのカテゴリーで10~40%の割引価格で販売していると述べている。
キャナバス氏は、これが両社の「消費者にアピールする核心部分」であり、両社が提供する超低価格の商品やファストファッションをめぐる戦いであると述べている。
「そして、両社は相手の秘密を暴露したり、不適切な事実で相手を非難する機会を得た。だがそれは、消費者がその会社をどう思うかに影響を与えるかもしれない」。
シーインもティームーを訴える
しかし、訴訟を起こしているのはティームーだけではない。2023年5月には、ティームーが自社のプロモーションをする際、ソーシャルメディアのインフルエンサーに「虚偽で欺瞞的な発言」を記したものを渡したとして、シーインがそれを非難する訴訟をイリノイ北部管区の米連邦地方裁判所で起こしたとロイターが報じた。その訴状によると、ティームーはインフルエンサーにソーシャルメディアガイドラインという文書を渡し、その文書には、「安い衣料品の選択肢は、シーインだけじゃない! Temu.comをチェックしてみて。もっと安くて品質は抜群」、「シーインより良くて、リボルブ(Revolve)より安い服が欲しいなら、Temu.comをチェックして」といった、投稿で使用するための発言が含まれていた。その当時、ティームーの広報担当者は、同社が「すべての申し立てを強く断固として否定し、自社の権利を守るために総力で取り組む」とロイターに述べた。
ピュブリシスグループ(Publicis Group)の最高コマース戦略責任者を務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏は、この訴訟を「両社が米国市場のシェアをどれだけ激しく奪い合っているか、そして、そのためにあらゆる方法を駆使しようとしていることを示す」とみなしている。
キャナバス氏は、ティームーの代理人が、米国で最大かつもっとも成功している訴訟会社のひとつであるボイス・シラー・フレクスナー(Boies Schiller Flexner)であることを指摘した。「これは、ティームーがこの一件にどれだけの力を注いでいるかを表すものだ」。
長くて醜い訴訟合戦のはじまり
結局のところ、これはティームーとシーインのあいだで行われるであろう長くて醜い訴訟合戦のはじまりにすぎないと、キャナバス氏は述べる。「これは、米国だけではなく世界のほかの地域でも、両社のあいだで今後行われるであろう多くの法廷闘争の単なるはじまりでしかないと思う。泥沼の争いになるだろう。この市場は非常に競合が激しいからだ」。
キャナバス氏は、シーインがサードパーティーのマーケットプレイスを構築し、ティームーが自社の商品により利益率の高い商品を加えてアップグレードすることで、「最終的には、ティームーとシーインはカテゴリーと幅広い戦略をより重視するようになっていくだろう」と述べている。
[原文:Why the U.S. fast-fashion market is at the heart of Temu and Shein’s lawsuits]
Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via SHEIN/Youtube