決済プロバイダのアメリカンエクスプレス(American Express)とクラーナ(Klarna)は、ストリーミング時代のQVCと呼ばれ、eコマースの未来を担うものとして支持されている ライブストリームショッピング を資金面でも支援している。
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決済プロバイダのアメリカンエクスプレス(American Express)とクラーナ(Klarna)は、ライブストリームショッピングを大衆に広めたいと考えている。
この2社は、ストリーミング時代のQVCと呼ばれ、eコマースの未来を担うものとして支持されているライブストリームショッピングを資金面でも支援している。アメリカンエクスプレスベンチャーズ(American Express Ventures)は11月、企業向けにウェブ上でショッピング可能なライブストリームを配信できるサービスを提供するファイアワーク(Firework)に非公開で出資した。一方、後払いサービス会社のクラーナはコスモポリタン(Cosmopolitan)や化粧品ブランドのビューティカウンター(BeautyCounter)と共同で、ライブコマースイベントを主催した。また同社はこの1年のあいだに新興企業のヒーロー(Hero)とアパール(Apprl)を買収し、自社の持つ25万社のブランドパートナーがインフルエンサーの助けを得てソーシャルコンテンツを作成するのを支援している。
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老舗ブランドも参入
クラーナとアメリカンエクスプレスはライブストリームショッピングを採用したもっとも新しい会社の例だが、この方法は決して新しいものではない。Amazonは2019年初頭に、Amazonライブでこのフォーマットに飛びついた。ウォルマート(Walmart)、メイシーズ(Macy’s)、セフォラ(Sephora)などの小売業者も、ここ数カ月でFacebook、TikTok、YouTubeでストリームを配信した。さらにその周辺では、NTWRK、ショップショップス(ShopShops)、ワットノット(Whatnot)など多くのライブビデオコマースの新興企業も、ストリートウェア、高級ファッション、トレーディングカードなどの顧客に向けたストリームを配信している。
多くの視聴方法があるにもかかわらず、米国ではライブストリーム形式のショッピングが依然として定着していない。アメリカンエクスプレスやクラーナはそれぞれ小売店のパートナーと協力し、より若く感受性の強い顧客をターゲットとすることで、この状況を変えようとしている。両社とも、ライブストリームショッピングの導入には、Z世代やミレニアル世代が中心になるだろうと語っている。また両社とも、より多くの企業が自社のeコマース手法にライブビデオを取り入れるにつれ、消費者意識は間違いなく変曲点に達するだろうとしている。
「アルバートソンズ(Albertsons)やハインツ(Heinz)など昔ながらのブランドが、ライブストリームショッピングを採用している」と、アメリカンエクスプレスのベンチャーキャピタル部門であるアメリカンエクスプレスベンチャーズでグローバル責任者を務めるハーシャル・サンギ氏は述べている。「これは、この手法がすでに主流となったことを示している」。
アルバートソンズもハインツも、ファイアワークと提携し、ライブストリームや短い動画コンテンツを自社のウェブサイトで直接配信している。アメリカンエクスプレスの支援により、ファイアワークは大規模や中小規模の企業を含むより多くのブランドや小売業者と結びつきを持つことができるようになる、と両社は語っている。「我々は、ファイアワークの革新的な技術に、より多くの消費者がアクセスできるよう密接に協力していく」とサンギ氏は述べている。
ファーストパーティデータを管理する
スナップ(Snap)とアリババ(Alibaba)の元従業員を雇用しているファイアワークは、ブランドがFacebookやTikTokのような「ウォールドガーデン」ではなく、同社のサービスに魅力を感じているのは、自社のファーストパーティデータを管理したいためだと述べている。しかし、同社のホスティングサービスでは依然として、ストリームを複数のプラットフォームで共有することが認められており、これには同上のソーシャルメディアのアプリも含まれる。また、企業は自社のストリームをパブリッシングパートナーのウェブサイト上でも配信できる。ファイアワークはパートナーの全リストを公開していないが、デモではルック(Luk)が、パブリッシャーであるエル(Elle)のウェブサイトにポップアップで動画を表示していた。
「Cookieが廃止され、Appleがユーザーにアプリのトラッキング禁止を認めるようになったため、ブランドがユーザーの対象層を絞ることが難しくなった」とファイアワークの共同創設者で社長兼COOを務める、マルチスラッシャーのジェリー・ルック氏はインタビューで述べている。「ファイアワークによりブランドはエクスペリエンスを保有し、自社の顧客と直接の関係を確立できるようになる」。
この点においてクラーナは、ライブショッピングを活用して、購入の意思決定がソーシャルメディアに大きく影響される若年層を取り込もうとしている。2月には、コスモポリタンと提携し、ニューヨーク市にあるメイシーズのヘラルド・スクエアの旗艦店でライブストリーミングイベントを開催した。視聴者はショップショップスのアプリで、その模様を見ることができた。また今秋には、化粧品会社のビューティカウンターのウェブサイト上で、ライブストリームのショッピングシリーズを放送した。
クラーナのCMOを務めるデビッド・サンドストローム氏は9月、同社がソーシャルおよびライブストリームのコマースに賭けていることについて、次のようにグロッシー(Glossy)に語った。「当社は、コンテンツクリエイター主導の仮想店舗を作り上げようとしている。これこそが、ライブショッピングの本質であり、我々が欧米で作り上げようとしているものでもある。つまり、オフラインとオンラインのハイブリッドだ」。
注目すべき中国のクリエイター・エコノミー
ライブストリームショッピングを広めるには、クリエイターたちがその鍵を握っていると考える専門家もいる。バカルディ(Bacardi)、ロレアル(L’Oreal)、ユニリーバ(Unilever)などのクライアントを持つeコマースマーケティングプラットフォームのミックマック(MikMak)の創業者でCEOを務めるレイチェル・ティポグラフ氏は、世界最大のライブストリームショッピング市場である中国では、視聴習慣はおもに万人受けするインフルエンサーによって形成されていると述べている。
この動向は、ロックダウンが緩和されて人々が実店舗に戻ってきても続いている。中国のライブストリームインフルエンサーのリー・ジャーキー氏は10月、アリババ(Alibaba)が毎年開催しているショッピングフェスティバルの初日に、AirPodsから化粧品まで、19億ドル(約2166億円)という記録的な額を売り上げた。同社のタオバオライブ(Taobao Live)のプラットフォームは2020年に流通取引総額として617億ドル(約7兆340億円)を報告している。ガートナー(Gartner)によれば、中国では平均で毎月1億人以上の視聴者がオンラインのライブ動画イベントを視聴している。
それに比べて米国のクリエイター・エコノミーは、ソーシャルメディアや若い世代の買い物客、特にZ世代に限られていると、ティポグラフ氏は語っている。決済プロバイダは、消費者金融やモバイル決済に関する問題点に対しては支援できるが、成熟したクリエイター・エコノミーは、最終的にライブストリームショッピングへのエンゲージメントを引き起こすだろうと、同氏は説明している。
「中国で見られている現象は、ホストがオーディエンスを魅了し、楽しませ、価値を提供する能力が非常に高く、買い手は自分が何を買うべきかさえわからないまま、商品のおすすめを教えてもらうために、そのチャンネルにやってくるということだ」とティポグラフ氏は述べている。
[原文: Why payment providers are investing in livestream shopping]
Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)