Web3が次の大きなテクノロジームーブメントだと、多くの人が考えている。その中核にあるのは、ブロックチェーン技術を基礎とする分散型インターネットインフラだ。その意味で、これは既存の暗号資産の名前を変えたものだ。しかし、Twitterやディスコードで、この言葉を調べると、何か新しく魅力的なものに見える。
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Web3という言葉がビジネスの界隈で語られており、多くの人がこれが次の大きなテクノロジームーブメントだと考えている。Web3の中核にあるのは、ブロックチェーン技術を基礎とする分散型インターネットインフラだ。その意味で、これはすでに10年以上使われてきたもの、すなわち暗号資産の名前を変えたものだ。しかし、Twitter、ディスコード(Discord)、テレグラム(Telegram)で調べると、何か新しく魅力的なものに見える。
この変化は、支持者の構成にもっとも劇的に示されている。1年ほど前、暗号資産の熱狂的な信奉者はいくつかの種類に分けられ、確かに十分な資金を持ち、一般的に投資家かハッカーだった。しかし今日では、特にTwitterのようなチャネルで、より幅広い層がブロックチェーンを信奉しはじめている。ただ、そのほとんどが豊富な資金を保有していることは従来と同じだ。そして、これはWeb3の再ブランド化と同時に起きた。これらの人々の多くは、消費者向けのもっとも大きな新興企業の投資家や、創設者、宣伝担当者でもあった。
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Web3に傾注する投資家や創設者たち
いくつかのアバターを見るだけで、その変化は明らかだ。プライベートエクイティ会社フォーカスブランズ(Focus Brands)の元COOであるカット・コール氏、デオドラント・ブランドのシュミッツナチュラル(Schmidt’s Natural)の元CMOであるクリス・カンティーノ氏、消費者向け投資家のマグデレナ・カーラ氏などの投資家や創設者たちは、自分のTwitterにアニメーション付きの画像を使い、ブロックチェーン上でこれらのデジタル画像(NFT)を購入したことを暗示している(おそらくは最低でも数千ドル[数十万円]で)。これに対して、ワービーパーカー(Warby Parker)やウーバー(Uber)などに投資しているクリス・ディクソン氏などのVCは、自らの時間の多くを、オンラインでWeb3を広めるために使いはじめた。カンティーノ氏など多くの人は、ブロックチェーンについて長いTwitterスレッドを書きあげた。
カンティーノ氏は、2021年11月のある午後に「1/友だちや家族を圧倒することなく、その目を暗号資産、NFT、Web3に向けさせる方法」と書きはじめた。そのあとに続いたのは21のツイートのスレッドで、記事へのリンクや、フォローすべきほかのユーザーのおすすめも含まれていた。同氏の変化は象徴的なものだ。カンティーノ氏のTwitterがほとんどD2Cビジネスの話題で占められていたころから、まだ1年も経っていない。その頃のツイートも同様に説教じみたものだった。2020年のあるツイートは「100万ドル規模のD2Cブランドを数千万から数億ドルに成長させる方法……オムニチャネルで販売せよ」だった。
カンティーノ氏の過去のD2Cビジネスであるシュミッツナチュラルは2017年、報告によれば数億ドルでユニリーバ(Unilever)に売却された。同氏によれば、同氏の暗号資産への転向は、消費者向けブランドへの投資の分野は飽和状態だという総体的な認識がきっかけではじまったという。「初期段階の消費者向け新興企業は、完全なレッドオーシャンとなった」と同氏は述べている。「消費者向け市場は参入の障壁が非常に低く、誰でも商品をキッチンで手早く作れるし、数秒もあればショッピファイ(Shopify)で店をはじめることができる」と同氏は述べる。このため、CPG(一般消費財)ブランドに投資することは従来よりもリスクが大きいのだ(同氏はまた、Web3が「私の心を揺さぶった」瞬間は、「アーティストがグローバル市場にアクセスしている」ことを知った瞬間だったとも付け加えている)。
D2Cが直面する課題
カンティーノ氏にとって、Web3の世界はCPGと比べて多少未知の部分が多く、競合も少ない。さらに良い点として、SaaSにデジタルの要素を加えたような暗号資産のスタートアップの利益率は、海外生産の重産物や、あるいは軽産物よりもはるかに魅力的だ。一方で、多くの暗号資産のスタートアップはまだ最小限の製品しか持っておらず、ましてや簡単に概念化できるユースケースがない。
CPGの分野についてのカンティーノ氏の考えは間違っていない。D2Cの資金は過去数年間に激増している。2021年の第1四半期の統計では13億ドル(約1510億円)で、2019年の第1四半期の9億8300万ドル(約1140億円)から増加している。一方で、成熟した消費者向け製品の企業はスケールの面で困難に直面してきた。10億ドル(約1160億円)を超える非公開評価額を受けて株式を公開した、キャスパー(Casper)、オールバーズ(Allbirds)、ヒムズ(Hims)などのもっとも人気のあるD2Cブランドの多くは、ウォール街での業績が悪かったためにIPO価格を下回るか、株式を非公開に戻した。これらのブランドの多くについて、非公開評価額は「完全にインフレだった」と同氏は述べている。
この評価額のインフレから、Web3への移行について多少の見識が得られる。デジタルネイティブなブランドの勃興は、もともとは高品質な商品と、より大きな利ざやという約束に基づいたものだった。D2C商品は中間業者を取り除く、少なくともそういう話になっていた。しかし、D2Cブランドを実際に成長させ、VCの眼に魅力的に映ったのは、本質的にはマーケティングのトリックだった。これらのブランドは低価格なデジタル広告を活用してウェブサーファーをウェブサイトに引き寄せ、それによって当然売上が増大した。イノベーションは、これらのブランドが販売している商品のビジネスモデルではなく、顧客を見つける方法に存在していた。これは、D2Cブランドが成長するためには、卸売のパートナーシップを締結するか独自の店舗を開設することしか方法がないという実情を知ることにより証明される。これらふたつは、以前にはこれらのビジネスの中核において忌み嫌われてきた戦略だ。
Web3の技術に資金をつぎ込む信奉者
Web3の信奉者、特に消費者向け商品の背景を持つ人々と話をすると、彼らはしばしばコミュニティが主な魅力のひとつであると指摘する。アルパカVC(Alpaca VC)のゼネラルパートナーであるオーブリー・パガノ氏は、「ブロックチェーンは、消費者がブランドとプロセスにおいて連携する可能性を開くものだ」と述べている。同氏はさらに「ブランドが実行できるもっとも明確なステップは、自社は物理的な商品を作成しているが、今後はデジタル商品を作成することになると告知することだ」と続けている。それにより、「ブランドはNFTとブロックチェーンを、ロイヤルティとメンバーシップのすばらしいメカニズムとして使用できるようになる」と同氏は述べる。また、これらのブランドはこの暗号による買い取りを商品開発の支援に役立てることもできると同氏は付け加えている。
すなわちWeb3には、その技術に資金をつぎ込む信奉者が存在する。そして、ブランドも同じように信奉者を集めることができる。これらのブランドは暗号資産と引き換えにデジタル商品を販売できすることができる。ブランド信奉者のコミュニティを形成し、買い取りを要求できる。これにより、そのブランドには商品について極めて深い関心を持つ人々が存在することが保証される。
これらの使用法は、本質的にマーケティングの延長だ。eコマースのコンサルティング企業であるコモンスレッド・コレクティブ(Common Thread Collective)のCOOを務めるオーキッド・バーテルソン氏は次のように述べている。「コミュニティの構築というアイデアについて語るとき、それはそのブランドの商品を信じる人々、そしてコミュニティを改善し、フィードバックを行い、販売する商品のプロモーションを行ってくれる人々のことだ」。
この種類のコミュニティ構築戦略は、ブランドの価値、神秘性、独占性の雰囲気を育てるために使用され、「マーケティングには常につきものだった」と同氏は述べている。
その意味で、Web3の背後にある文化は、D2Cが数年にわたって行ってきた活動の延長だといえる。ペロトン(Peloton)やオールバーズなどのブランドには美学と文化が存在する。対象とする顧客層は常にミレニアル世代の将来有望な都会人だ。そしてこれらの企業は、プレステージに見えることを念頭に自社ブランドを成長させようと試みてきた。価格は高くなるが、商品の品質も高くなるだろうという想定があった。または単純に、その資金を持っていることを示す機会を顧客に与えるということだったのかもしれない。
コミュニティもまた、長年にわたりD2Cブランドの勃興の大きな部分を担ってきた。グロシエ(Glossier)などの企業が成長したのは、忠実なデジタルの支持者が存在したためで、これらの支持者は同社がデジタル資産から美容品の大手企業に成長するのを助けた。信奉者はオンラインチャネルを使用してピカピカの新しい物を宣伝し、ハイプサイクルを生み出して、最終的には数百万ドル規模の企業に成長した。Web3も同様な枠組みを提示しているが、いくつかの異なるガバナンスが付け加えられるとともに、テクノロジースタックが更新されている。
成り行きを見守る人たち
カンティーノ氏は、コミュニティを育成しながら資金調達する能力を、ブランドの好ましいユースケースとして指摘している。プールスイート(Poolsuite)という会社は以前に日焼け止めブランドのバケーション(Vacation)を立ち上げたが、昨年後半にデジタルの「エグゼクティブメンバーカード(Executive Member Cards)」としてNFTをポップごとに約800ドル(約9万2800円)で販売し、同社が合計で200万ドル(約2億3200万円)を調達するために役立った。カード保有者には、将来の商品ドロップへの早期アクセス権や、今後のイベントへのアクセス権などのデジタル特権が与えられた。NFTの販売は、いくつかの点でシードラウンド、すなわちTwitterなどのソーシャルネットワークを使用して人々を盛り上げ、熱心な支持者を育てるため使用されるものだった。Web3の信奉者にとって、これはその可能性を示す完全な実例だった。会社は普通の利害関係者を見つけ、デジタル商品に投資してもらうことで、ブランドの成長に役立てることができる。しかし一方で、これはD2C文化の拡大版と見ることもできる。少数だが声が大きく、消費できる収入を持つ個人のグループが自分たち自身の周囲に壁を作り、金融のセーフティネットを持つエコーチャンバーとなっているわけだ。
一部の人々はTwitterの囲いの向こうでまだ成り行きを見守っている。プリッシュ(Bullish)のマネージングパートナーであるマイク・ドゥダ氏は次のように述べている。「まさに可能性を秘めたピカピカの新しいおもちゃだ。しかし、発展にはしばらく期間が必要だろう。今の状態で全面的に支持する気にはなれない」。今起きているのは、声を上げる少数派の人々が次第に増えていることだと同氏は語る。「私たちは周辺や境界を称賛することもあるが、それは宇宙の中心ではない。ゲイリー・ビー氏の世界では、あるものは自らを大々的に宣伝して大きな成功を収めることもあるが、多くはそうではないかもしれない」と同氏は述べている。
Twitterには多くのつぶやきがあるが、同業者全員がすべて同意しているわけではないと、ドゥダ氏は付け加えている。「消費者向け投資家として、私は浅いレベルのB2C消費者の混乱を見ていない」。そして、Twitterには多くの発信を行うD2Cの個人が大勢存在しているが、本当のVCリーダーはアンドリーセン・ホロウィッツ氏やベインキャピタル(Bain Capital)など、多くの人たちが期待するような人たちだ。
企業の進出も
それでも、慎重に足を踏み入れようとする企業もいる。オールバーズやエバーレーン(Everlane)などの企業に投資しているマベロン(Maveron)は、この分野に注目している。しかし、現在のところ、明確なD2Cブランドにとってのチャンスはないと、同社の投資家であるジェリー・ルー氏は述べている。「Web2企業がNFTを組み入れる方法を探しているのに対して、Web3のネイティブアプリケーションにより注目している」と同氏は述べる。現在のこの熱気の多くを引き起こしているのは、単に機会を取り逃すことへの懸念でしかない。「出資者は機会を取り逃がすことを望まない」。
しかし、従来のブランドは暗号資産への投資に対して、マーケティングに関する見返りを予期していると、同氏は付け加えている。たとえばVisaは2021年8月、クリプトパンクNFT(CryptoPunk NFT)を約15万ドル(約1740万円)で買収した。決済業の大手企業であるVisaは、この買収は将来のコマースと暗号資産を的確に理解するためのものだったが、Web3信奉者に対して同社の評価を高める効果もあったと語っている。ルー氏は次のように述べている。「マーケティングの費用を従来型の方法で消費するなら、それはコストセンターだ。暗号資産に投資するなら、プロフィットセンターになる。これはすべてブランドとマーケティングかと聞かれたら、『おそらく』というのが答えだ」。
現在のところ、マーケティングと信奉者の活動とを組み合わせることで、最初から参加していたといえる機会が残されている。カンティーノ氏は次のように述べている。「我々はWeb3にこの機会を見いだした。この分野では、消費者向け商品と暗号資産との交点に強いソートリーダーシップが存在しない」。そこで、同氏はツイートを発信し、リツイートされることを期待している。
それより先にあるのは、このテクノロジーが今後も定着することへの期待だ。
[原文:Why DTC Twitter pivoted to Web3]
Cale Guthrie Weissman(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)