英国発の激安服の小売業者、 プライマーク はパンデミックによるロックダウンにおいて約390の店舗の大部分を営業停止にしたが、親会社であるアソシエイテッド・ブリティッシュ・フーズによれば、そこから抜け出した同社は「ビジネスの中に新しいデジタル機能を作り上げる」ために「デジタルプラットフォーム」を構築中である。
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英国発の激安服の小売業者、プライマーク(Primark)は新しいデジタル戦略を準備しつつあり、eコマースへの移行を噂されている。同社はコスト削減のため、長年にわたってこの分野を見送ってきた。
プライマークはパンデミックによるロックダウンにおいて約390の店舗の大部分を営業停止にした。だが、親会社であるアソシエイテッド・ブリティッシュ・フーズ(Associated British Foods)によれば、そこから抜け出した同社は「ビジネスのなかに新しいデジタル機能を作り上げる」ために「デジタルプラットフォーム」を構築中であるという。新しい顧客向けウェブサイトは来年開設され、商品と店舗ごとの在庫状況などが公開される予定だ。ただし同社は、このウェブサイトの機能について、そのほかの詳細をほとんど明かしていない。それでも、これはプライマークの現在のウェブサイトと比べれば大きな改良である。現在の同社のサイトには数千の商品が掲載されているが、サイズの情報、おすすめ、顧客が商品を配達してもらう機能などが欠けている。
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デジタル施策に慎重な姿勢
プライマークはeコマースへの急激な移行は行わず、まずは新しいウェブサイトでクリック&コレクト(Click&Collect:ECサイトで商品を購入し、リアル店舗や宅配ボックス、ドライブスルーなどの自宅以外の場所で商品を受け取るようにするショッピングスタイルおよびその仕組み)サービスを始めるだろうと、アナリストは述べている。最初は対象を一部の店舗のみに制限し、このような運用に必要な物流の整備に取り組むだろう。プライマークはコメントを控えている。
欧州の独立系金融サービス会社であるケプラー・チューブルークス(Kepler Cheuvreux)社の欧州消費者エクイティーズ責任者であるジョン・コックス氏は次のように述べている。「私は、この新しいプラットフォームにより、同社が将来的にクリック&コレクトを開始する可能性はあると考えている。しかし、プライマークの低コストのビジネスモデルの経済性を考えれば、オンライン配送への移行は予測していない」。
英国に拠点を置く独立系投資銀行であるリベルム(Liberum)で消費者エクイティーズ調査を行うアヌバーブ・マルホトラ氏は次のように述べている。「プライマークは今後限定的なクリック&コレクトのサービスをテストし、スタッフの要件、在庫計画、商品の価格、サービス料金、返品ポリシーなどの点でサービスの詳細を実験できるだろう」。
この意味で、プライマークの慎重なデジタル戦略は、米国のディスカウントや格安小売業者が段階的にデジタルやeコマースのサービスを採用し、さまざまな成功を収めている傾向を反映している。TJX(T.J.マックス[TJ Maxx]、マーシャルズ[Marshalls]、ホームグッズ[HomeGoods]の運営会社)、ロス・ストアーズ(Ross Stores)、バーリントン(Burlington)などは、近年オンラインショッピングを導入したり、ロックダウン後の戦略として店舗での販売に集中するため放棄したりしている。
ZARAやH&Mを凌ぐ店舗面積
これらの小売業者と同様に、プライマークは昨年におけるeコマース注文の急増を受け、オンラインの重要性の特定を試みている。
具体的には、同社は低コストの商品をオンラインで販売することで利益を得られるのかというジレンマを恒久的に抱えている。決算報告書によれば、同社はパンデミック中に取引が完全に停止したにもかかわらず、オンライン販売は現実的でないと引き続き考えている。店舗が何回も営業停止になったことで、会計年度2020年に売上は20億ポンド(約3000億円)低下し、営業利益は前年比で60%減少して3億6200万ポンド(約550億円)になった。
店舗の再開から6月19日までの16週間には小売の販売額が16億ポンド(約2400億円)に回復したが、コロナウイルスのパンデミックは引き続き、同社の営業に不確定性をもたらしている。月曜日の取引最新情報で、親会社のアソシエイテッド・ブリティッシュ・フーズは、プライマークは業界全体にわたるサプライチェーンの問題と、自己隔離を強いられている人々の増加に起因する販売の弱さに苦闘していると語っている。
英国の同種の売上は、6月半ばからの4週間について前年より24%低下しているが、8月に自己隔離の規則が緩和されてから部分的に回復している。
プライマークは、eコマースサービスが自社の巨大な物理的床面積に与える可能性がある損害と戦う必要があるだろう。プライマークは欧州と米国の13カ国にわたり、合計1650万平方フィート(約153平方メートル)の売場面積を運営しており、店舗の大きさではZARA(ザラ)やH&Mなどの競合他社を凌駕している。
マルホトラ氏は、「オンラインでのサービスは店舗での売上を奪ってしまい、利益が上がらなくなるだろう」と述べている。
「プライマークの顧客ベースの巨大さ、そしてそれらの顧客が服をオンラインで購入することにどれだけ慣れるかを考えれば、単なるクリック&コレクトサービスでも店舗のかなりの部分を諦めざるを得なくなるだろう」と氏は付け加えている。
調査では、プライマークの顧客と、オンライン展開しているファストファッションの競合他社の顧客は重複していることが示されている。調査会社のグローバルデータ(GlobalData)社の調査では、ファストファッションブランド大手のエイソス(Asos)やブーフー(Boohoo)を頻繁に利用する消費者は、ほかのオンラインや店舗ベースの小売業者よりもプライマークでショッピングをする可能性が高いことが示されている。
コックス氏は次のように述べている。「私はプライマークの立場を理解しているが、大通りでのショッピングからの構造的な移行により、オンラインの衣服小売業者は継続的にシェアを拡大し、プライマークは不利な立場に置かれる可能性があるだろうと考えている」。
ソーシャルメディアでの存在感
この本質的な問題は、プライマークが手の内を明かしていない理由になるだろう。
同社はすでに、ひとつの分野で確固としたデジタルの存在感を示している。プライマークはソーシャルメディアでのプレゼンスを確立し、これはパンデミックにもかかわらず成長し続けている。同社のフォロワー数は2020年に前年比で10%も増加した。同社は現在、インスタグラム、Facebook、ピンタレスト(Pinterest)、TikTokなどのソーシャルメディアで約2450万人のフォロワーを抱えている。
短期的には、同社は新しいデジタル店舗でより多くの商品を展示することに注力するだろう。現在のところ、消費者は近くのプライマークの店舗に電話して、欲しい商品の在庫があるかどうかを確認する必要がある。
競争相手の多いファストファッション市場において、「目標は、消費者がショッピングをはじめるときに、その消費者を捉えることだ」とマルホトラ氏は語っている。
[原文:Why bargain clothing retailer Primark is finally investing in digital]
Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Primark