エニーカート は、旅行予約サイトの横断検索ができるカヤックの食料雑貨店バージョンといわれ、Amazonやホールフーズ、ヴォンス、セーフウェイ・アルバートソンズなどのネットストアと提携。レシピから直接食材を購入できるショッパブルレシピのプラットフォームを構築し、EC上で衝動買いを誘発する新しい手法を試みている。
Amazonが支援する食料雑貨販売のスタートアップ企業が、ネットショッピングでより多くの商品を購入してもらおうと新しい戦略を提案している。
Amazonは2019年、Alexaアクセラレータプログラムを通じ、新興企業のエニーカート(Anycart)に出資した。エニーカートは、1年間のベータテストを経て、今年の春に正式に発足。旅行予約サイトの横断検索を提供するカヤック(Kayak.com)の食料雑貨店バージョンともいわれ、複数のネットストアと提携して商品を販売している。現在、提携する小売企業には、Amazon、ホールフーズ(Whole Foods)、ヴォンス(Vons)、セーフウェイ・アルバートソンズ(Safeway Albertsons)、ストップ・アンド・ショップ(Stop & Shop)、ジャイアント(Giant)らが名を連ねる。
エニーカートは、いまはまだほんの小さなプレイヤーだが、レシピから直接食材を購入できるショッパブルレシピのプラットフォームを構築し、ネットショッピングで衝動買いを誘発する新しい手法を試みている。実店舗であればしばしば発生する予定外の買い物であるが、この衝動買いをオンラインで再現する有効な手立てを、小売企業も食品ブランドも探しあぐねている。この難題に、エニーカートは潜在的なソリューションを提示した。
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Amazonが出資を行い、アルバートソンズやアホールドデレーズ(Ahold Delhaize)のような流通大手が提携を受け入れる背景には、食料雑貨のオンライン販売が普及する反面、食品や日用品を取り扱うあらゆる業態の小売企業が、ネットショッピングのカートの中身を増やす手立てをいまだ見出せずにいる現状がある。そして出資にしろ提携にしろ、彼ら小売企業としては、食料雑貨の即日配送サービスを運営するインスタカート(Instacart)のように、顧客データを共有してくれない相手は望ましくない。その点、エニーカートは顧客の注文を提携先のストアに取り次ぐだけで、顧客情報を掌握するのは当該の各ストアとなる。
ECは「衝動買い」が少ない
オンラインで食品や日用品を販売するネットストアも、顧客がチェックアウトする際に、追加商品や類似商品を勧めるなどの努力はしている。しかし、分析会社のIRIが最近行った調査では、消費者の51%が「ネットショッピングでは衝動買いが少ない」と答えている。オンラインマーケットプレイスは、顧客があらかじめ必要だと分かっている商品を探し出すことにかけては優秀だが、衝動買いを触発するのには向いていないようだ。
CBインサイツ(CB Insights)の主席アナリスト、ローラ・ケネディ氏は、「オンラインで物を買う消費者は、注文すべき食材を決めてから、商品を検索する傾向にある」と指摘する。そして、食品を販売する小売業者にとって、「顧客が買い物かごに入れる商品をあらかじめ決めていて、余計な品物は追加しないというこの状況は、まったく歓迎できない」という。
たとえば、ケネディ氏によると、Amazonの商品配置は、本来不要な商品をあれこれ買わせるには向いていないという。「Amazonの場合、狙いを定めて獲物を捕るスピアフィッシングのように、買い物客が欲しいものを分かっているなら何の問題もなく、ただ欲しいものをカートに入れて、注文するだけだ」とケネディ氏は話す。同氏によると、問題は、「顧客が衝動買いをする気にならない」ことだという。
レシピ重視で衝動買いを誘発
エニーカートの戦略の要はレシピだ。同社のサイトには、1000点を超えるレシピが掲載されており、カテゴリー別(「時短&簡単」朝食レシピなど)、あるいは旅行やイベントなどのテーマ別(「バーベキューのアイデアレシピ」や「ピクニックのお弁当レシピ」など)に分類されている。各レシピには、材料費の総額が記載されており、すべての食材をワンクリックでカートに入れる機能も付いている。エニーカートの最高ビジネス責任者を務めるシドニー・チャン氏が、米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)に語ったところによると、これらのレシピはすべて専属のシェフがいちから開発し、エニーカートに投稿するという。「レシピの内製化により、量産を可能にした」と、チャン氏は述べている。
レシピ重視の狙いは、顧客の買い物かごの中身を増やすことにほかならない。チャン氏によると、エニーカートの顧客の平均注文額は、ほかのネットストアで買い物をするときよりも、49%多いという。
ショッパブルレシピをテコに、オンラインでの食材購入を促進できるのではないか。この考え方は、ほかの小売企業にも静かに浸透しつつある。たとえば、ウォルマート(Walmart)も昨年から自社のプラットフォームで継続的に料理動画を配信している。有名人をホストに起用して、レシピの調理を実演させ、動画の終了前に、当該のレシピに必要な食材をすべてショッピングカートに入れるよう勧める構成となっている。一方、食品メーカー大手ゼネラルミルズ(General Mills)は、食料品を販売する他社のプラットフォーム向けに、料理動画を制作している。どのレシピにも、ゼネラルミルズが製造販売する食材が含まれており、もともとは買うつもりのなかった同社製品の購入を促す狙いがある。
チャン氏は、レシピのほかに、エニーカートの「パーソナルアイル(personal aisle)」機能にも言及した。この「自分専用通路」とは、ユーザーの閲覧履歴に基づいておすすめの食品や日用品をドロップダウンで表示する機能だ。ユーザーによる商品検索を先回りして、購入意欲を刺激するための仕掛けという。
Amazonが投資を行う理由とは
この10年で、食料雑貨のオンライン販売は広く普及した。それに伴い、特に菓子メーカーを中心に、顧客の注文金額を増やすためのさまざまな試みが行われてきた。たとえば、アルバートソンズは自社のホームページにデジタル商品棚を設置して、目玉商品や「お住まいの地域のベストセラー商品」などを販売している。チョコレートメーカー大手のハーシーズ(Hershey’s)も、レジ横での衝動買いが売上に大きく貢献しているブランドだが、2017年にオンライン食品雑貨販売のピーポッド(Peapod)と提携して、顧客が注文した商品を店内ロッカーで受け取る際に、その場でハーシーズの商品を購入できるようにした。一方、同じく菓子ブランドのマース(Mars)は、中国eコマース大手のアリババ(阿里巴巴)と契約を結び、顧客の注文金額が送料無料の最低金額にわずかに届かない場合、チェックアウト時にマースの製品がポップアップ表示されるようにした。コロナ禍以前に行われたある調査によって、ネットショッピングでの衝動買いの28%が「送料無料のために追加購入が必要だった」場合に発生していることが判明しており、このようなアプローチの妥当性を裏付けている。
それにしても、Amazonのような資金力のある企業が、衝動買いを誘発するための機能を自社サイトに構築する代わりに、複数のネットストアを集約するサードパーティのプラットフォームに投資するのはなぜなのか。CBインサイツのケネディ氏は、レシピの活用を含め、ネットショッピングで買い物カゴの中身を増やす戦略の有効性について、何らかの知見を得ることが目的ではないかと推察する。チャン氏は、エニーカートの魅力のひとつとして、同社がフルフィルメントを担当せず、顧客の注文情報を提携先の小売企業に取り次ぐだけであること、よって顧客データはすべて小売企業が保持できることを挙げている。インスタカートをはじめ、食料雑貨を扱う大手のマーケットプレイスが、小売企業側に顧客データをほとんど提供しないのとは対照的だ。
「eコマース一般について言えば、一個人または一企業が、すべての人にすべての物を提供することは難しい」と、チャン氏は話す。また、大手のネットストアでさえ、顧客がサードパーティのアプリを使って食品を注文することを認めざるを得ない。他社との違いを説明するなかで、チャン氏は、「エニーカートは小売企業の味方だ」と語った。
[原文:Why Amazon is investing in unplanned grocery purchases with Anycart]
Michael Waters(翻訳:英じゅんこ、編集:戸田美子)