イケア(Ikea)からTJマックス(TJMaxx)までさまざまな小売企業が、小型店フォーマットと、独自の視点でさらに精選された商品ラインナップ、そこにオンラインの特徴である幅広い品揃えを組み合わせた宝探し型小型店舗運営の実験を始めている。
品揃えに重きを置き、ごちゃごちゃ感満載なレイアウトで長らく知られてきた小売各社が、ここのところ発想を転換し、違った切り口での商品提供に取り組んでいる。
イケア(Ikea)からTJマックス(TJMaxx)までさまざまな小売企業が、小型店フォーマットと、独自の視点でさらに精選された商品ラインナップ、そこにオンラインの特徴である幅広い品揃えを組み合わせた宝探し型小型店舗運営の実験を始めている。来店者(ユーザー)体験の内容は小売企業各社によってさまざまだが、本質的には、商品の豊富なバリエーション、その商品のローテーション、来店から会計までに陳列棚をいくつも歩いて巡りたくなるような店舗レイアウト、この3つの組み合わせがポイントになっている。
新型コロナウイルスの感染拡大により実店舗の役割は大きく変わった。消費者はオンラインに走り、利便性が強く求められるようになった。それを受けて、以前は店内をゆっくりと探検するプロセスに注力していた宝探し型小売企業が、今ではオンラインでもオフラインでも、よりモダンで精選された体験の提供に取り組んでいる。
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買い物迷路をやめたイケア
2020年、スウェーデンの家具メーカーの巨人イケアは、都市部に力を入れて、小型店フォーマットの50店舗をオープンする計画を発表した。そして2021年、その計画が実行に移されると、8月にはウィーンと上海でコンパクトな店舗がオープンした。ここの買い物客は、会計前にすべての陳列棚をチェックしなくても済む。
こうした小型店フォーマットの構成はさまざまだ。たとえば再開したばかりの上海店では、何人かでふらっと訪れてくつろぐことができるラウンジがあり、持ち込み修理を受け付けるセクションも新たに設けられた。一方、2019年にニューヨークでオープンした小型店には、複数のショールームがあり、ワンルームのインテリアコーディネートの具体例が展示されている。
イケアのグローバル・デピュティリテールマネージャーを務めるステファン・バンオーベルベーク氏はウォールストリートジャーナル(The Wall Street Journal)のインタビューに、今回の小型店フォーマット試験運用で解を求めようとした重要な質問は、オンラインの方が好まれるこのご時世にあって、「あなたはなぜイケアに行こうと思うのですか?」だったと話している。
2020年、イケアの売上は前年度比(9月~翌8月)で6%減少している。データ分析会社グローバルデータ(GlobalData)のマネージングディレクターのニール・サンダース氏によると、消費者の動向に変化が見られるという。
「大きな倉庫型店舗は、『部屋の内装をすべて変えたい』『ソファやベッドのような高価な家具を手造りしたい』など、家にずっといたい人たちには魅力的だが、新しいキッチンウェアなど家庭用品を少しだけ買いたい人にはそれほど好評ではないことに、イケアも気づいている」とサンダース氏。「そのような人たちが巨大な店内を歩きたがるだろうか。用が済んだらすぐに帰りたいはずだ」。
とはいえ、サンダース氏によると、小型店のフォーマットは、ネットショッピングが盛んな時代にあって、ますます短くなる「消費者の注意持続時間」に小売企業が対応できる方法のひとつにすぎないという。確かに、別の方法でこの問題に取り組んでいる小売業者もいる。
1ドルショップのダラー、上位コンセプトに投資
一方、ダラー・ツリー(Doller Tree)やダラー・ゼネラル(Dollar General)をはじめとするダラー系列の店舗は、精選された店舗ディスプレーなど、設定価格が若干高めのフォーマットに投資を始めている。すでに、ダラー・ツリーの上位ブランド、ダラー・ツリー・プラス(Dollar Tree Plus)は2019年5月、また、ダラー・ゼネラルの上位ブランド、ポップシェルフ(Popshelf)は2020年10月にそれぞれ事業の展開が発表されている。
ダラー・ツリーは年初来累計でダラー・ツリー・プラスを340店舗オープンしており、年末までには合計500店を目指す。一方のダラー・ゼネラルはポップシェルフの年初来累計が16店舗で、年末までには独立店舗合計50店、店舗内店舗合計25店の出店を計画している。
ダラー・ゼネラルとポップシェルフで何よりも大きく違うのは、価格と品揃えだ。ダラー・ゼネラルではほとんどのアイテムが1ドル(約110円)だが、ポップシェルフでは5ドル(約550円)が目安になる。ダラー・ゼネラルの経営陣は以前のインタビューで、ポップシェルフでは、一般的なダラー・ゼネラルの店舗よりも、雑貨やインテリア、美容・健康商品の品揃えに力を入れる予定だと答えている。また、シーズンごとに商品を入れ替えるので、豊富な品揃えにあぐらをかいているよりも、来客の促進につながり、来店頻度の増加が期待できると話した。
ダラー・ゼネラルCOOのジェフ・オーウェン氏は8月26日の収支報告で、ポップシェルフについて「手頃に楽しめて、ほかのところでは体験できない宝探し」と称した。「時期尚早ではあるものの、ポップシェルフの結果に極めて満足していることに変わりはない。売上も粗利も、継続的に予測を超えている」。
TJXのホーム・グッズ、宝探しをオンラインで実現か
宝探しの体験をオンラインで再現し、実店舗でのショッピングとオンライン体験を融合させて、実店舗の補完を図ろうとする小売業者もいる。
8月18日、TJXカンパニーズ(TJX Companies)CEOのアーニー・ハーマン氏は、Homegoods.comの事業計画に関する情報を明らかにした。Homegoods.comはTJXで家具や雑貨を扱う人気ホームストアのeコマース部門で、2020年11月から準備が進められており、ローンチは第3四半期のいずれかの時期になるという。
新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、ホームグッズの店舗売上はTJXのマーマックス(Marmaxx。TJ MaxxとMarshall’sを組み合わせた名称)の店舗売上を終始上回っている。開店中の同一既存店で第2四半期の数字を比較すると、マーマックスは前年比18%増だが、ホームグッズは36%増を記録した。
ホームグッズは、店舗ごとに品揃えが違うのはもちろんのこと、親会社のどの小売企業よりも商品の回転率が高い傾向にあるとハーマン氏は説明する。これは「宝探し」というバリュー・プロポジションを行なう上で当然のことなのだが、その一方で、ハーマン氏によれば、同じ商品をいくつも欲しい買い物客や家具をフルセットで探している買い物客にとっては不都合な状況ともいえる。そこで、こうした問題を部分的にでも解決してくれるのがHomegoods.comである。
「実店舗での買い物をオンラインで補えば、お客様は好きなように部屋を飾りつけられるし、統一感も出せる」とハーマン氏。
グローバルデータのサンダー氏いわく、成功の鍵はこのオンライン部分への投資と、実店舗でのショッピング体験のバランスのとり方にある。Homegoods.comなら、トレンドページを用意したり、実店舗で行なわれていることをオンラインで紹介したりして、店内で味わえる宝探しの体験を取り込むことも可能だとサンダース氏は話す。
「山ほどある商品を検索しておもしろそうなものを見つけ出すのは非常に骨が折れるので、宝探しそのものをオンラインでまるまる再現するのはかなりハードルが高い」とサンダース氏。「そうは言っても、効率的で目的がはっきりした体験を望んでいる人、たとえば特定の商品を買いたい人にとって、オンラインが魅力であることは間違いない。『宝探し(ディスカバリー)』という要素をオンラインにもいくらか残し、ブランドとしてのまとまりを維持することが重要になるだろう」。
[原文:Treasure hunt retailers are testing out new store concepts]
Maile McCann(翻訳:SI Japan、編集:長田真)