アディダス は新しいイニシアチブの一環としてNFTを採用。2021年12月17日、イントゥ・ザ・メタバースと題した最初のNFTドロップで約2200万ドル(約25億1000万円)を売り上げたと報告された。早期アクセスユーザーに対して1つあたり0.2イーサリアム(約9万2800円)で2万9620のNFTを売った。
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アディダス(Adidas)は、ストリートウェアアプリであるコンファームド(Confirmed)に新しい顧客を呼び込むため、デジタルコレクティブルに期待している。
アディダスは新しいイニシアチブの一環として、NFT(非代替性トークン)を採用した最新のブランドだ。NFTとは本質的に、デジタルまたは物理的なアイテムの所有権を表すレシート。NFTは、ビットコインなどの暗号通貨の基礎となっているものと同じブロックチェーンテクノロジーを使用して動作する。ラグジュアリーファッションハウスのルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)から、ファストフードチェーンのタコベル(Taco Bell)まで、さまざまな小売業者がデジタルアートやコレクティブルに関する市場を収益化するためNFTをリリースしてきた。各ブランドは一般的に、アプリやNFTマーケットプレイスの「ドロップ」によりオリジナルのデジタルトークンを入手できるようにし、正確に決められた日時にリリースし、限定数量でミント(NFTを発行・作成すること)する。
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アディダスは2021年12月17日、「イントゥ・ザ・メタバース(Into The Metaverse)」と題した最初のNFTドロップで、約2200万ドル(約25億1000万円)を売り上げたと報告されている。同社は早期アクセスユーザーに対して、1つあたり0.2イーサリアム(約9万2800円)の価格で2万9620のNFTを売り上げた。この選ばれたユーザーのグループには、本番のドロップに先立ってコンファームドアプリのユーザーに提供されたアディダスオリジナルス(Adidas Originals)の特別なトークンをすでに保有している人のほか、NFTインフルエンサーのジーマネー(Gmoney)や、コレクティブルなNTFカートゥーンメーカーのザ・ボアード・エイプ・ヨット・クラブ(The Bored Ape Yacht Club)、NTFと紙のコミックブックを製造しているパンクス(Punks!)などのパートナーが含まれる。
購入者は2022年、ブロックチェーンをベースとするゲームのザ・サンドボックス(The Sandbox)と連動したコンテンツ、たとえばミニゲームや競技、景品などとともに、フィジカルなアパレル限定アイテムにアクセスすることができる。NFTを購入したユーザーは、NFTマーケットプレイスであるオープンシー(Opensea)で売買することもできる。アディダスは、ストリートウェアと暗号通貨の世界を結び付けるための取り組みの一環として、イージー(Yeezy)スニーカーなどの高級ストリートウェアを販売する場所として2020年秋にリリースしたコンファームドアプリを使い、将来のドロップをユーザーに通知することを計画している。
より広範囲な話として、同社はこのリリースがメタバースへの参入を示すものだとしている。メタバースという用語は、人々が今日訪れる静的なウェブページではなく、オープンワールドゲームのように見える未来の合理化されたインターネットを示すために広い意味で使用されている。この概念は90年代のサイエンスフィクションが根源だが、メタバースという用語は近年の技術系や小売系ブランドによって使われるようになり、デジタルとフィジカルの両方で数千億ドルに相当する商品を売り上げる新しい経済を実現すると目されている。
NFTとメタバースへの参入を行っているスニーカーのブランドはアディダスだけではない。2021年12月初めにはナイキ(Nike)が、デジタルスニーカーとNFTのスタジオであるRTFKTを買収したことを発表した。
アディダスのデジタル成長担当シニアディレクターを務めるテレク・ナズラウィ氏は、NFT分野におけるコラボレーターの選択、デジタル商品によってより多くの外部クリエイターと提携する方法、そして、メタバースの収益化の機会に価格を設定するのが困難な理由について、米モダンリテールに語った。以下のインタビュー内容は、明瞭性のため省略を加えたものである。
◆ ◆ ◆
――最初のNFTのリリースはどのようにして成立したのか?
メタバースの機会は、必ずしも当社のデジタル戦略に組み込まれていたわけではない。当社はデジタル戦略を毎年見直し、さらに5年ごとに大きな見直しを行う。しかし、当社は今年はじめに、メタバースで起きていることを調べる必要があると気づいた。第1四半期の終わりだと思うが、NFTマニアが最初にピークに達しようとしていた頃だ。我々は、メタバースに関する自社のポジションを持つべきだと理解し、調査しようとした。
そこで、この分野の調査を実際に開始するため、イノベーションプログラムを立ち上げた。まず、この分野のパイオニア、すなわちこの分野を実際に推進し、コミュニティを作り出している人々が何を行っているのかに耳を傾けた。また、人々が仮想空間でより多くの時間を費やし、仮想世界に多くの金額を費やすようになっていることを確認した。そこで見えてきたのは、自分のクリエイティビティとその価値に対して所有権を持つというアイデアそのものがうまれていたことだった。
このことを発見した我々は、NFTインフルエンサーのジーマネー、コレクティブルなNTFカートゥーンのザ・ボアード・エイプ・ヨット・クラブ、NTFと紙のコミックブックのパンクスなどのコラボレーターと、「イントゥ・ザ・メタバース」におけるNFTについて対話を行った。
このようなパートナーとの協力を選んだのは、この分野について我々に教えてくれる人々とともに仕事をしたかったからだ。同時にこれらの人々は、それらのコミュニティが何を重視しているのか、どうすればその一部になれるのかを学べるような形で、我々をNFTに導いてくれた。
――NFTドロップの背後には、どのような大きな戦略があるのか?
アディダスの立場から見て、我々の高級ストリートウェアの消費者は、メタバースへの適切なアクセスポイントを提供すると考えている。このような顧客の要求を満たす方法のひとつが、コンファームドアプリによるものだ。基本的に、もっともプレミアムであり、切望されている商品を揃えている場所だ。
NFTとストリートウェアの世界を並べて比較すると、この2つの世界における多くの行動が、実はよく似ていることに気づいた。内情をより理解し知る人ぞ知る存在であること、ゲットしてトレーディングする方法を見つけること、そして、収集を行い自分の保有するものを見せびらかすことが重視されている。一種の希少性ゲームのようなものだ。
また、デジタルファッションが地位を固めつつあることも発見した。人々はビデオゲームでスキンを着用し、気分に応じて30分ごとに姿を変えている。これはTwitterで人々が自分のプロフィール画像にNFTを使用し、仮想世界における自分の姿を象徴化することにも見られる。これを、ゲーム環境に費やす時間が増加していることと併せて考えると、仮想世界において自己表現するというアイデアは、現実的なものであることがわかるだろう。
そこで考えたのは、我々はこのNFT空間で行われる行動と多くの点で共通する行動を示すような消費者グループを保有しているのではないかということだった。だからゲートを開けてみた。これが、ストリートウェアの消費者にサービスを提供する場所であるコンファームドアプリで、まさに「イントゥ・ザ・メタバース」する、つまりメタバースへの進入路を実際に開くと決定した理由のひとつだ。
――NFTはどのようにメインストリーム層にアピールできると考えているか?
誰かにNFTを最初に見せてもらったときや、最初のNFTを入手したときは特別だ。これは、誰かがゲームのハックを見せてくれたときや、ゲームの一番格好いいロビーに入ったときと似ている。秘密のルートを発見したような感覚がある。よく知っている部分もあるが、何かが違い、そしてワクワクできるようなことだ。
当社はまず、コンファームドのメンバーに「このトークンと交換できますよ」というプッシュ通知を送ることからはじめた。これは参加プロトコルトークンと呼ばれ、要するにNFTだ。そして、多くのユーザーが実際にリンクをクリックして移動し、結果として自分の最初のNFTを入手した。
当社は、NFT空間をはじめて使用する人々が、自分の信頼している誰かを通してその空間を発見し、その誰かというのが、アディダスとそのパートナーとともに作り上げたチームであるというアイデアに興奮している。
――メタバースはアディダスにとってより大きな商機を秘めているか?
我々がこのような取り組みをするとき、その背後にある理由として、ひたすら学び、調査し、アディダスにとってふさわしい立場になるにはどうしたらいいかを実際に試行錯誤しながらに見つけ出したいということがある。
当社はメタバースでの収益について、今後2年間に何百万ドル、何億ドルになるといった予測は行っていない。実際のところ、もしそうであったとしても、その計算をすること自体が時間の無駄だろう。現在は状況が非常に激しく変化しているためだ。
大企業がそのペースについていくのは困難なことだ。このため当社は、メタバースにおいて当社が何を行うかを明確にするため、社外の多くの人々を巻き込むことができるような方法でステージを設定しようとしている。
もちろん、収益化の機会がまったく存在しなければ、それは企業にとって興味を持てるものではない。しかし当社は、価値創出の機会がどのようなものであるかを見極めるという考えを抱いてメタバースに踏みこんだ。
ブロックチェーン、メタバース、仮想世界の背後にある基本的で革新的なアイデアは、人々がインターネット上で不動産やスニーカー、アパレルなどのデジタル資産を所有できるというものだ。ゲームで使用するゲーム内アイテムをすべて所有でき、今自分がいるプラットフォームに縛られることなく、別のプラットフォームにも持っていくことができる。このようなことが利点として約束されている。
人々が自らの創作物の価値を所有できるようになるということは、つまり、はるかに多くの創造性、そしてそれらの創作物とアイテムが属するすべてのネットワークを解放でき、それらのプラットフォームを構築・作成する人々も同様に、価値の創出に関わるようになるだろう。
我々が成功すれば、当社のブランドだけでなく、パートナーや消費者も含め、ネットワークに関わるすべての人々が成長することになるだろう。
Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Adidas