DTC ERA

D2C 企業の決算発表は、新たなビジネスの「現実」を示す:「利益を圧迫している」

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こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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記録的な収益増加を受け、今年は多数のD2C新興企業が株式を公開した。しかし、これらの新興企業が長期的に成長を続けられるかどうかは不明瞭なままだ。

パンデミック前に、デジタルマーケティングのコストは増える一方で、D2Cブランドは投資家からの成長の期待に応えるため困難を感じていた。多くの企業にとって、成長のためには有料のマーケティングにますます多くの資金を投資する必要があった。たとえばキャスパー(Casper)は2020年1月に発行したS-1フォームで、2018年は売上原価が1億5780万ドル(約178億円)で、販売・マーケティングの経費に1億2350万ドル(約140億円)を資したと明かしている。

パンデミックの余波で収益が急増

そのあとで、すべてが変化した。パンデミックが世界を覆い、人々はほとんどの商品をオンラインで注文しはじめた。さらに、デジタルマーケティングのコストが急落した。2020年4月のある記録によれば、CPM(クリック1000回ごとのコスト)は約26%減少した。その結果、各ブランドは生命線を与えられ、多くの新興企業が記録的な販売増加を報告した

業界全体にわたるこの収益の急増を受け、またキャスパー(同社は最近株式を非公開にした)やペロトン(Peloton)などいくつかの先駆者の動きにならって、新興企業のいくつかは株式公開を決定した。ワービーパーカー(Warby Parker)、ヒムズ(Hims)、フィグス(Figs)はいずれもパンデミックによる大きな販売増加を報告し、2021年に株式を公開した。

これらの動きは、D2C成長戦略に明確な変化が生じたことを示しているが、これら各社の最新の決算発表は、これまで見られることのなかった裏事情を示している。ほとんどの企業で収益は依然として増加しているが、利益に関してはその限りでない。一方で、すべての創業者は顧客の獲得を口にするが、マーケティングコストは上昇し続けている。これは、ワービーパーカーのような比較的昔からあるブランドの場合、数年前には黒字を計上したにもかかわらず、純損失の計上していることになる。ペロトンのようなほかのブランドは、2020年に高い業績を挙げたあとで損失の蓄積を報告しはじめており、多くの投資家の手を止めている。これらの新興企業のいくつかについて最近の財務業績を掘り下げ、それらがD2Cビジネスモデルにおいて何を意味するか説明する。

数値

ワービーパーカー
収益:1億3770万ドル(約156億円)、前年比32%増
損失:9110万ドル(約103億円)、前年比123%増
アクティブ顧客数:215万、前年比23%増

フィグス
収益:1億270万ドル(約116億円)、前年比34%増
利益:695万ドル(約7億8500万円)、前年比64%減
アクティブ顧客数:170万、前年比58%増

ヒムズ
収益:7420万ドル(約83億8000万円)、前年比79%増
損失:1590万ドル(約18億円)、前年比172%増
顧客(サブスクリプション)数:55万1000、前年比49%増

ペロトン
収益:8億510万ドル(約910億円)、前年比6%増
損失:3億7600万ドル(約425億円)、前年比643%増
顧客(サブスクリプション)数:249万、前年比87%増

キャスパー
収益:1億5650万ドル(約177億円)、前年比27%増
損失:2530万ドル(約28億6000万円)、前年比59%増

データの意味するもの

すべての成長過程のブランドにおいて、初期段階で最優先されるのは顧客の獲得だ。しかしコストが増大するにつれ、収益性により重点が置かれるようになる。今日では、プレイブックはこの両方のあいだで不安定に揺れている。

公開されているD2Cブランドのなかには、設立から10年以上が経過しているものもあるが、いずれも持続可能なペースで顧客を獲得し、維持する方法を依然として模索している。たとえばワービーパーカーは、米国の眼鏡の年間売上額のわずか1%を占めるにすぎない。老舗のデジタルブランドとしてのステータスがあっても、まだ迅速な成長が求められている。「ビジネスの規模が10億ドル(約1130億円)にも達していないなら、まだ顧客の獲得のほうが重要だ」と、フォレスター(Forrester)のアナリストであるスチャリタ・コダリ氏は以前米モダンリテールに語った

これにより、新たに株式を公開したD2C新興企業にとっては厳しい現実が生み出された。これらの企業はマーケティングやほかの経費(特に、サプライチェーンの危機によって)に多くの資金を費やし、結果として損失が拡大しつつある。たとえばワービーパーカーは11月初めの四半期決算発表で、損失が増え続けており、前年の4160万ドル(約47億円)から9110万ドル(約103億円)に達したことを明らかにした。これは同社にとって継続的な問題で、2017年にEBITDA基準で収益性を実現したことを公表したにもかかわらず、この点についていまだ確固とした基盤を確立していない。

損失の拡大がもたらすもの

この話は、ほかのD2Cブランドにも同様にあてはまる。ペロトンは損失が大幅に増加したため、株価は35%も下落し、現在は43ドル(約4860円)と少しで、今年になってからの最低値をつけている。今年1月には株価が167ドル(約1万8900円)を超えていた。

最悪のシナリオでは、積み重なる損失のため、これらのブランドは株式を再度非公開に戻すことを迫られるだろう。これは実際にキャスパーに起きたことだ。ビジネスインサイダー(Business Insider)は今月初めに、同社は収益の増加にもかかわらず、積み重なる損失を補填するためさらに資金を調達する必要があったと報告した。結果として、キャスパーは自社をデュレーショナルキャピタルマネジメント(Durational Capital Management)に、最新の公開市場評価額の94%の金額で売却する契約を締結した。

この四半期決算を別の角度から見ると、もっともいい業績を挙げた上場企業は、自社ブランドの位置づけとロイヤルティをしっかりとコントロールした企業だということだ。イーマーケター(eMarketer)の筆頭アナリストを務めるアンドリュー・リプスマン氏は次のように述べている。「非常に強力なブランドを保有するD2Cブランドが、いい業績を挙げているようだ。D2Cの部分よりも、ブランドの部分の方が重要だ」。同氏によれば、最も苦戦している企業は「払込金に強く依存している企業」である。その結果、「これらの企業は決算を圧迫している」。同氏は、代表的な例としてキャスパーに加え、前四半期に前年比19%の収益減少を報告したウェイフェア(Wayfair)のような上場企業も挙げている。

逆に、フィグスやワービーパーカーのようなブランドはブランド名が強く、過去1年にわたってそのブランドを活用できた。

長期成長を支えるのは顧客ベースの拡大

しかし、もっとも強いブランドでも、行うべきことはまだ多い。実際、ワービーパーカーの共同CEOを務めるネイル・ブルメンタール氏は、最新の決算発表において次のように述べている。「今後を見据え、当社はアクティブな顧客ベースを増やし、小売への進出を拡大して、革新的な商品とサービスを提供する成長戦略を実行するため、依然としてすべての労力を注いでいる」。

利益を報告したフィグスも、事態は変化する可能性があると警告している。同社は決算資料に次のように記載している。「当社の成功は、医療専門家に商品が広く採用されることに大きく依存している。新しい顧客を引きつけ、顧客ベースの継続的な拡大を図るため、製品に共感する医療専門家にアピールし、引き入れる必要がある」。また、これに成功しなければ、将来的に「売上と収益性を維持または向上できない可能性がある」と述べている。

これらの背景には、もうひとつのさらに重要な要素、すなわち成長予測のリセットが隠れている可能性がある。「稀な例外はあるが、それらはテクノロジー企業ではない」とリプスマン氏は述べる。「テクノロジー企業の倍数に値しない」。これは利益率の問題だ。消費財の販売は、テクノロジー企業によるコードラインの販売よりも多くのコストがかかる。

そしてその問題は、パンデミックのあとでますます深刻になっていく。リプスマン氏は次のように述べている。「これらのデジタル広告のコストが前年比で20%や30%も上昇するなら、これらの企業は苦境に立たされるだろう」。

[原文:‘Squeezing their bottom line’: DTC earnings present a new business reality]

Cale Guthrie Weissman(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)