eコマースプラットフォームであるShopify(ショッピファイ)は、さらに多くの無償ツールを加盟店向けにリリースすることをめざしており、そのために現在、アプリのエコシステムに微妙なバランス調整を行っているが、これらのツールはいくつかのサードパーティー開発者と直接競合するものだ。
たとえば、Shopify Collective(ショッピファイコレクティブ)は、Shopifyにより7月にリリースし、それまでに数カ月にわたってベータテストが行われていた新しいクロスセルツールだ。Shopifyの販売者はこのツールを使って、ほかのShopify加盟店の商品を自分のウェブサイトで、ドロップシップ方式で販売できる。
しかし、Shopifyの加盟店が商品をドロップシップ方式で販売するために、すでにカロ(Carro)やコンビクショナル(Convictional)というクロスセルツールがある。これら3社の経営幹部は、Shopify Collectiveは無償であるのに対して、カロやコンビクショナルは有料のソリューションだと注釈している。また、これら3つのソリューションの機能が同じというわけでもない。
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
eコマースプラットフォームであるShopify(ショッピファイ)は、さらに多くの無償ツールを加盟店向けにリリースすることをめざしており、そのために現在、アプリのエコシステムに微妙なバランス調整を行っているが、これらのツールはいくつかのサードパーティー開発者と直接競合するものだ。
たとえば、Shopify Collective(ショッピファイコレクティブ)は、Shopifyにより7月にリリースし、それまでに数カ月にわたってベータテストが行われていた新しいクロスセルツールだ。Shopifyの販売者はこのツールを使って、ほかのShopify加盟店の商品を自分のウェブサイトで、ドロップシップ方式で販売できる。
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しかし、Shopifyの加盟店が商品をドロップシップ方式で販売するために、すでにカロ(Carro)やコンビクショナル(Convictional)というクロスセルツールがある。これら3社の経営幹部は、Shopify Collectiveは無償であるのに対して、カロやコンビクショナルは有料のソリューションだと注釈している。また、これら3つのソリューションの機能が同じというわけでもない。
サードパーティー製ツールの領域を侵食
しかし、これはShopifyが加盟店に対してさらに多くのツールを提供することをめざすなか、同社のサードパーティーアプリストアでソリューションを作成してきたいくつかの開発者の領域を侵食し始めているという最新の例である。Shopifyのエコシステムにすでに存在するいくつかの有料アプリについて、機能縮小版の競合製品とみなせる無料ツールをShopifyがリリースするというのは、これまで何度も繰り返されてきたことだ。
Shopify側は、ほかのサードパーティー製ツールを使用している加盟店を特にターゲットとしているわけではなく、どのような製品が受け入れられるかをテストしているだけだとしている。具体例として、Shopify Collectiveは、Shopifyの販売者が、Shopifyのほかの有力ブランドの新しい商品を、在庫に投資する必要なく、自社のストアに追加できるようにするためにリリースされたものだと、米モダンリテールに語った。
Shopifyの商品管理ディレクターを務めるアマンダ・エンゲルマン氏は、メールの応答で次のように語っている。「これによって加盟店は、高品質の商品を米国から直接顧客に発送するという、志を同じくする小売業者と協力できるようになる。当社はエコシステム内のほかのアプリとともにCollectiveを使用している加盟店から、肯定的なフィードバックを受け取っており、加盟店からのShopify Collectiveに対する要求を満たすため、今後数カ月のあいだに機能と利用可能なサービスを拡大していく」。
「Shopifyの中核的な目的に役立つものではない」
Shopifyのこの最新の動きは、同社がロジスティクス事業を分離してから数カ月後のものであり、CEOのトビ・ルーク氏によると、Shopifyが「本来の目的」に集中できるよう設計されたものだ。同氏はメモの中で、同社のロジスティクスは「副業」であり、「コマースをより単純で、簡単で、民主化され、参加型で、一般的なものにする」ことが本来の目的だと決定したと述べている。
しかし、eコマース開発代理店のネタリココマース(Netalico Commerce)の創設者であるマーク・ウィリアム・ルイス氏は、Collectiveのようなツールのリリースは、「ブランドによるオンラインストア構築を支援する」というShopifyの中核的な目的に役立つものではないと感じている。
Shopifyがこれまでにリリースした数多くのアプリやツールは、既存のサードパーティー製ソリューションと比べて、加盟店から好意的なレビューを受けていないと語る。「Shopifyのアプリストアで、Shopifyが開発したアプリを調べたところ、38のアプリがあるが、平均レーティングは3.7だとわかる。加盟店は、評価がだいたい4.5を下回るアプリを使用するのはためらうだろう」と、同氏は述べている。
クロスセルの競合
Shopifyがアプリストアを最初に立ち上げたのは2009年のことだ。同社がアプリストアを開設すると決定した理由は、eコマースの小売業者がオンラインビジネスを運営するために必要なすべてのツールを社内で開発するのは不可能だということだった。そのため、Shopifyはその作業をサードパーティーの開発者に委託し、その多くはShopifyの加盟店向けのツールを開発することで有利なビジネスを築くことができた。実際のところ、同社は2021年にShopifyアプリを立ち上げる開発者を増やすためのインセンティブとして、開発者の収益が100万ドル(約1億4600万円)に達するまで、アプリストア(App Store)の手数料を0%にすると発表した。
Shopifyの加盟店が成長し、ニーズが進化するにつれ、アプリストアで開発者が立ち上げるツールもより個別化されるようになった。
そこで登場したのがカロとコンビクショナルだ。どちらも基本的に、加盟店が自社の商品だけではなく、他社の商品を自社のウェブサイトで販売するためのプラットフォームだ。カロは2015年に創設され、コンビクショナルは2017年に立ち上げられた。
カロはウェブサイトで「Shopifyとほかのeコマースとの橋渡し」と自称している。これは、カロがShopifyだけでなくビッグコマース(BigCommerce)、セールスフォースコマースクラウド(Salesforce Commerce Cloud)、そのほかのコマースソリューションとも統合できるためだ。もうひとつの利点は、顧客に本格的な販売・顧客サポートチームを提供できることだ。
同様に、コンビクショナルもウェブサイトで多面的な取り組みを行っている。自社のソリューションをさまざまなタイプの企業に理想的なものとし、「エンタープライズ(大規模な)小売業者、ディストリビューター、マーケットプレイスで信頼されている」とウェブサイトで主張している。
カロとコンビクショナルのどちらも、販売ごとに5%の手数料を受け取ることで利益を生み出している。ほかのソフトウェア企業と同様に、クライアントの規模に応じてさまざまなプランを用意しており、企業はさまざまなタイプの月額または年額の料金を支払って追加機能を使用できる。
小規模ブランド適したCollective
一方、Shopify Collectiveは、加盟店がShopifyファミリーに留まるように設計されている。Shopify Collectiveでは、加盟店がマーケットプレイスで、ほかのShopify出品者から調達した補助的な商品を集めて販売できる。加盟店はCollectiveを利用することで、自社のサイトで販売する関連商品の売上から手数料を受け取ることができる。
Shopifyは、カナダ出身のラッパー、ドレイクスの商品を扱う公式ウェブサイトであるドレイクリレーテッド(Drake Related)がCollectiveのコマースツールを使用したと、7月に明かした。ドレイクリレーテッドは7月6日、ファンボーイ(Funboy)、エルダーステイツマン(Elder Statesman)、クリンク(Krink)など、Shopifyのほかのブランドとのコラボレーションで、5つの商品を発売した。この新しい商品コラボーレーションの売上の72%は新規顧客によるものだと、Shopifyは述べている。
ルイス氏は、全体的に「Collectiveは小規模の運営に適しているようだ」と述べる。
カロの収益担当バイスプレジデントを務めるヒラリー・アン氏は、「全体として、eコマース取引における双方の顧客を支援し、さらに双方のパートナーシップを共に管理するのは、思っているより難しい」と語る。
同氏は、「Shopifyがここに参入することで、この分野が認められたように感じる。このアプリについては心配していない。むしろ、正直なところすごく楽しみだ」と付け加えた。カロのウェブサイトにはすでに、Shopify Collectiveとの詳しい比較を示すセクションが存在している。
ンビクショナルを離れた顧客はいない
コンビクショナルの共同創設者でCOOを務めるクリス・グローチー氏は、自社のツールはよりエンタープライズ企業向けに設計されているのに対し、「Collectiveの主要なマーチャンダイジングの活用事例は、販売の規模を拡大する前に、一握りのSKU(在庫管理単位)でクロスセルをテストすること」だと考える。
カロのアン氏は、Shopify Collectiveには使用資格の厳しい制限もあると指摘する。このツールを使用できるのは過去12カ月に最低5万ドル(約730万円)を売り上げ、米国を拠点とし、Shopify Payments(ショッピファイペイメント)がアクティブなブランドのみだ。「これらの条件により、少なくとも最初のうちは、商品カタログ全体のサイズがやや限られたものになるだろう」と、同氏は述べている。
さらにグローチー氏は、Collectiveが加盟店の既存のカタログと同期しているため、ベンダーやサプライヤーが特定の価格を設定できないことだ。それによって、期間限定のプロモーションや割引を設定するのが難しいとも指摘している。「これらのドロップシップ商品を受け取った小売業者は、アイテムの価格を変更できないため、プロモーションや割引をコントロールできない」と、同氏は述べている。
これまでのところ、ベータ版でCollectiveをテストしたカロのクライアントは、「我々が提供するサポートの水準を考慮して、カロを利用すると決定した」と、アン氏は述べる。グローチー氏もアン氏の意見に同意している。「Collectiveは、コンビクショナルとShopifyとで重複しているすべての顧客に対して個別に公開されたが、Collectiveを使用するためにコンビクショナルを離れた顧客はおらず、Collectiveを無料で使用するよりも、当社に使用料を払うことを選んだ顧客がいくつも存在する」と、同氏は付け加えている。
グローチー氏、結論として、「Collectiveによってドロップシップの市場は成長すると思う。そして、加盟店が自社のプログラムを拡大するときには、我々が支援したい」とは述べている。
テストと学習の一環
しかし、Shopifyが無料でインストールできるツールをさらにリリースすることで、同社と外部の開発者とのあいだの緊張が激化する可能性は残っている。たとえばShopifyは今春、ダブテール(Dovetale)というインフルエンサーマーケティング新興企業を買収し、Shopify Collabs(ショッピファイコラボ)というブランド名に変更したが、このブランドはグリン(Grin)など、ほかの有料ツールと競合するものだ。
結局のところ、Collectiveのリリースは、Shopifyのテストと学習という戦略の一環だとルイス氏は述べる。しかし、これらのツールのすべてが長期的に利益を生み出したわけではない。
「Shopifyは何年にもわたって、このような試みを多く行ってきた。フルフィルメントネットワークなどの新しいものを試して、うまく機能するかどうかを見てきた。そして、うまく機能するならそのまま続け、うまくいかないなら売却するか、ユーザーを別のアプリに移行させてきた」と、ルイス氏は述べている。
[原文:Shopify’s new tools are encroaching upon the business of existing vendors]
Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Illustration by Ivy Liu