AIは、Shopify(ショッピファイ)の製品ロードマップにおいて、優先度を増しつつある。
eコマース大手であるShopifyは7月26日水曜日、「Shopify Editions Summer ’23」を開催した。Editions(エディションズ)は、新製品がいくつも発表される半年ごとのイベントである。今回は、マーチャント(加盟店)が管理作業にかかる時間を削減するための人工知能ツールのリリースに焦点が当てられた。
同社はEditionsで、無償で使用できるAI機能を集めたShopify Magic(ショッピファイマジック)を発表した。Shopify Magicは、マーチャントに代わってカスタマイズされたブログ記事を生成したり、顧客からよく聞かれる質問に対して回答のひな形を作成する。また、AI主導のeメールキャンペーンを作成したり、商品の説明文を作成するといった作業を行うことができる。同社のCEOを務めるトビ・ルーク氏は7月初め、Shopify Magicに含まれているツールのひとつであるサイドキック(Sidekick)をプレビューした。これは対話型のツールで、「ホリデーの特売では、どのように割引を設定すればいいのか」「月曜日より売り上げが下がっているのはなぜか」といったマーチャントからの質問に回答してくれる。
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AIは、Shopify(ショッピファイ)の製品ロードマップにおいて、優先度を増しつつある。
eコマース大手であるShopifyは7月26日水曜日、「Shopify Editions Summer ’23」を開催した。Editions(エディションズ)は、新製品がいくつも発表される半年ごとのイベントである。今回は、マーチャント(加盟店)が管理作業にかかる時間を削減するためのAI(人工知能)ツールのリリースに焦点が当てられた。
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同社はEditionsで、無償で使用できるAI機能を集めたShopify Magic(ショッピファイマジック)を発表した。Shopify Magicは、マーチャントに代わってカスタマイズされたブログ記事を生成したり、顧客からよく聞かれる質問に対して回答のひな形を作成する。また、AI主導のeメールキャンペーンを作成したり、商品の説明文を作成するといった作業を行うことができる。同社のCEOを務めるトビ・ルーク氏は7月初め、Shopify Magicに含まれているツールのひとつであるサイドキック(Sidekick)をプレビューした。これは対話型のツールで、「ホリデーの特売では、どのように割引を設定すればいいのか」「月曜日より売り上げが下がっているのはなぜか」といったマーチャントからの質問に回答してくれる。
D2Cマーチャントのニーズに寄り添った新ツール
同社が26日に発表した新ツールには、ほかにもマーケットプレイスコネクト(Marketplace Connect)やShopifyコレクティブ(Shopify Collective)などがあり、いずれもマーチャントが卸売への進出を容易にするためのものだ。また、Shopifyクレジット(Shopify Credit)という新しいビジネス用クレジットカードも公開した。これらの発表を全体的に見ると、同社の提供する製品がD2Cマーチャントのニーズに合わせて進化していることを示している。D2C業者の多くは、不安定な経済の渦中で卸売への拡大や、内部コストの削減を求めているためだ。コンサルタントや開発者によると、Shopifyは小規模マーチャントのビジネスハブになりたいと強く望んでおり、これらのマーチャントがビジネスを行うためにほかのサードパーティー製アプリに依存する傾向を打破し、同時にShopify自身のコスト削減もしたいと考えているという。
Shopifyのプレジデントを務めるハーレイ・フィンクルスタイン氏によると、「テーマの中心はAIだ」。
「完全に自分自身でビジネスを立ち上げ、構築しているという起業家は数多く存在する。そのため、このような起業家にAIという強力なツールを与えること自体が、非常に重要なことだ」と、同氏は米モダンリテールのインタビューに答えた。
Amazonへのコネクターを再開発
同社は2カ月にわたってShopify Magicのベータテストを行ってきた。「我々はShopifyのすべての製品とワークフローにAIを取り入れようとしており、それがビジネスを推進すると考えている」とフィンクルスタイン氏は付け加えた。ShopifyのAIへの取り組みは、小規模のマーチャントのビジネスを迅速に成長させるだけでなく、すでに実績のあるビジネスに対しても、大規模なビジネスを運営する苦労を低減できると同氏は述べた。
これは、今年のEditionsで公開されたほかの多くの製品の焦点でもあった。つまり、現代のeコマースブランドを運営するために必要な多くのタスクをどのように簡素化するかということだ。
たとえば、Shopifyが新たに発表したマーケットプレイスコネクトのアプリを使用すると、ShopifyのマーチャントはAmazonやウォルマート(Walmart)などほかのマーケットプレイスで簡単に販売を行えるようになる。マーチャントは無料で販売を開始できるが、注文回数が50回を超えたところから、Shopifyと同期したリストについて1%の取引手数料、最大で毎月99ドル(約1万4000円)が課金されると同社は述べている。
しかし、eコマース戦略コンサルタントで、RMWコマース・コンサルティング(RMW Commerce Consulting)のCEOを務めるリック・ワトソン氏は、ほとんどのマーチャントは「すでにAmazonで販売を行っている」と指摘する。
「ShopifyはAmazonへのコネクターを数年前にシャットダウンした。それに代わる製品はしばらくなかった。Shopifyがこれを再度作り上げるのは、Amazonの重要性を認めたということで、興味深い。ShopifyはAmazonの重要性についてあまり語ってこなかったからだ」と、同氏は述べている。
小規模マーチャント支援のためのプロダクト
しかし、ワトソン氏によると、Shopify Magicからマーケットプレイスコネクトに至るまで、小規模なマーチャントが誰よりも重要視するツールだ。それ以外に、Shopifyはチェックアウトを拡張する作業を進めており、チェックアウトエディターを使用して、ピックアップ場所や配達日を追加するなど、新しいカスタマイズ機能を追加している。
たとえば、Shopify Creditは、従来型の銀行から多くの融資を得られないかもしれない若い新興企業のオーナーのために設計されている。このツールは、マーチャントのクレジットスコアではなく、ビジネスの実績に基づいて、使用の可否を判断する。Shopifyは、マーチャントはこの全額払いのビジネス用クレジットカードを申請する必要があると述べている。
「大規模なマーチャントに有益なものはほとんどない。全体的にみると、前回の『Editions』のリリースは膨大なものだったが、今回はやや小規模で、同社がこの半年で取り組んできた製品が取り上げられているようだ」とワトソン氏は付け加えた。
マーチャントの卸売進出を支援
Editionsにおいて、ShopifyはShopifyコレクティブも開始した。これは、マーチャントが集まって、ほかのShopifyの売り手から調達した補助的な商品をマーケットプレイスで販売するためのツールだ。「既存のShopifyの売り手の商品カタログを、ほかのマーチャントが卸売商品に変えることができる取り組みだ」と、フィンクルシュタイン氏は述べている。
Shopifyコレクティブを使用することで、マーチャントは自社サイトを通じて関連商品が売れた場合、手数料を得ることができるが、Shopifyはその手数料の具体的な金額については明らかにしていない。すべてのブランドが顧客に直接商品を発送するため、マーチャントは在庫を買い足す必要はない。
Shopifyは7月初め、カナダ出身のラッパー、ドレイクの商品を販売している公式ウェブサイト「ドレイクリレーテッド(Drake Related)」が、Shopifyコレクティブ・コマースツールを使用したと明かした。ドレイクリレーテッドは7月6日、ファンボーイ(Funboy)、エルダーステイツマン(Elder Statesman)、クリンク(Krink)など、Shopifyのほかのブランドとコラボレーションし、5つの商品を発売した。Shopifyによると、この新商品コラボレーションの売上の72%は、初回購入者からのものだったという。
AI機能のROI
ワトソン氏は、ここで重視されているのは、Shopifyの従来のビジネスが、小規模なデジタルネイティブの新興企業ブランドの規模拡大を支援することだと述べている。
ShopifyがAIを中心とするツールを推し進めていることについて、ワトソン氏は、「平均的な小規模ビジネスのオーナーにとって、これらのAI機能のROI(投資回収率)はどの程度なのか」という疑問を投げかけている。この機能はShopifyにとって、顧客サポートチームや従業員のコスト低減に役立つ可能性がある。しかし、AIは非常に新しい分野であるため、マーチャントがAIツールを使用することで、ビジネスをどれだけ早く成長させることができるかを測定するための確立された指標がほとんどない。「これによって売上を倍増できる、という感覚は得られない」と同氏は付け加えた。
eコマース開発および設計企業のネタリコ(Netalico)の創設者で、最高技術責任者を務めているマーク・ウィリアム・ルイス氏も同意する。Shopify Magicを使用してきた同氏のクライアントは、これが「ChatGPT(チャットジーピーティー)と似ている」と感じたという。このツールは役に立ちそうなものの、「状況を一変させるゲームチェンジャーにはなりそうもないが、あるに越したことはない、といった程度だ」と述べている。
ライブチャット機能も
サイドキックはShopifyのライブチャット機能を目標にしたもので、マーチャントに追加サポートを提供し、スタッフを増やすことなく待ち時間を短縮することを目指したとルイス氏は語る。「Shopifyには100万を超えるマーチャントがいるため、サポートチームのスタッフを増やすのは大きなコストになる」。
全体として、ShopifyのAIツールはShopifyの管理者データを活用する可能性を秘めているが、問題は、「Shopifyは、Googleなどの競合他社が提供する外部ツールが提供するものと比較して、異なるものになるようにプログラムできるのか」であるとルイス氏は述べた。
ShopifyはShopifyでビジネスを開始した小規模なマーチャントのためのビジネスハブになろうとしているというのが、ワトソン氏の見立てだ。「Shopifyクレジットはそうした意味でできたものだ」と、同氏は付け加えた。
結局のところShopifyは、小規模なマーチャントが時間と資金を節約するためにAIを活用することで、自らを売り込もうとしているのだ。「今回の発表は、より低価格帯の商品を取り扱うマーチャント向けのもので、彼らにアピールするものだ」と、ルイス氏は述べている。
[原文:Shopify’s latest product updates focus on AI tools to entice smaller merchants]
Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Shopify