メールチンプ(Mailchimp)は、ショッピファイ(Shopify)と公の場でけんか別れしてから2年以上が経過した今、再度ショッピファイとの統合を開始しようとしている。これにより、ショッピファイの出品者は自社の購入とメールのマーケティング情報を組み合わせて、ターゲットとする顧客を決定できるという。
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メールチンプ(Mailchimp)は、ショッピファイ(Shopify)と公の場でけんか別れしてから2年以上が経過した今、再度ショッピファイとの統合を開始しようとしている。
この新しいソフトウェアにより、ショッピファイの出品者は自社の購入とメールのマーケティング情報を組み合わせて、ターゲットとする顧客を決定できるという。それらの事業者はメールチンプのアプリを使用し、顧客の購買傾向に基づいてプロモーションのメールを自動的に発送でき、顧客を行動に基づいてグループに分割できる。
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両社の提携は、ショッピファイにとってソフトウェア統合がいかに重要かを明確に示している。これらのサードパーティ製ツールはeコマースに不可欠の部分で、出品者が自分のストアフロントに機能を追加するため使用される。具体的には、メールチンプのようなバックエンドのサービスによりビジネスは顧客に取引や注文の破棄などについてのメールを送ることで、競合上の優位を得ることが可能だ。ショッピファイはここ数年、ビジネスの売上を伸ばすための成熟したアプリのエコシステムを育てるため投資してきた。メールチンプにとってこの取引は、同社が顧客ベースの大部分を占める小規模から中規模の出品者をさらに重視していることを反映するものだ。
両社が顧客データに関する意見の相違から2019年に決別して以来、オンラインで商品を販売するためショッピファイを使用していた出品者は、メールチンプのサービスにアクセスするため、サードパーティ製のソフトウェアを使うことを余儀なくされた。10月26日、メールチンプは自社の新しいアプリを強化するため、そのような統合ソフトウェアのひとつであるショップシンク(ShopSync)を取得したことを公表する。同社は、この取引の財務的な詳細を公開していない。その結果、ショップシンクのアプリは即日使用廃止となる。このニュースは、金融サービス会社のインテュイット(Intuit)がメールチンプを約120億ドル(約1兆3700億円)で買収することに合意してから、わずか1週間後に発表された。同社はこの取引が「小規模ビジネス成長の中心になる」ため役立つとしている。
メールチンプの戦略パートナーシップ担当バイスプレジデントであるジョニー・デウス氏は次のように語っている。「ショップシンクはメールチンプのブランドになるだろう。ショップシンクは2年間にわたってこの統合を管理しており、当社が(このアプリを)ユーザーに供給するため大きな助力を行ってきた」。
デウス氏によれば、この買収によりメールチンプとショッピファイは新しいデータ処理契約を結び、両者の過去の相違点は解決された。新しいアプリをインストールすることを選んだ出品者は、一定範囲の顧客データの共有に合意する必要があり、これにはショッピファイストアの商品情報、メールチンプの外で入手したマーケティングデータ、対象層、連絡先、メールアドレス、タグ、連絡先プロフィールのアクティビティ、および統合機能の特定のリストが含まれる。
2019年における「決別」の背景
この2社は2019年に、メールチンプのアプリをショッピファイのストアから削除することについて、互いに矛盾する声明を発表し、実質的に互いを非難することになった。メールチンプは、ショッピファイがあまりに多くのデータを、アプリがインストールされる前の顧客情報まで含めて遡及的に引き渡しを求めていると主張した。これに対してショッピファイは、メールチンプがメールのオプトアウト設定と出品者のオンラインストアでキャプチャされた顧客情報の同期を拒んでおり、実質的に同社の更新されたポリシーに大きく違反していると主張した。
デウス氏は次のように語っている。「我々はデータについて根本から意思が統一されていなかった。現在ではユーザーが、そのデータを接続するかどうかを選択できるようになり、我々の双方にとって重要なのはその点だった」。
しかし、この断絶には公式に発表された以外の要因があったことは想像に難くない。eコマースソフトウェアの専門家であるマーク・ウィリアム・ルイス氏によれば、両社が決裂した時点で、ショッピファイがメールチンプに対して、重複する顧客について売上の一部を渡すことを求めているという噂があった。両社が最終的に交渉を打ち切った理由はこれで説明できると、氏は述べている。
ルイス氏は、「メールチンプは顧客データの共有を望まなかったと噂されていた。同社は、ショッピファイのアプリから登録さえしていない顧客について売上の一部を支払うのは正当ではないと考えたのだろう」と述べている。氏は、ショッピファイの出品者が自分のオンラインストアを設立して最適化することを支援する、ネタリココマース(Netalico Commerce)というeコマース開発代理店を設立している。
フレンドリーになったショッピファイ
両社の離別後に、ショッピファイは飛躍的な成長を達成した。eコマースプラットフォームの出品者数は180万近くに増加し、その多くは小規模および中規模ビジネスだと考えられている。さらにショッピファイのエコシステムに含まれるアプリの数は2019年末から倍近くに増え、7月の時点で約7000に達した。
一方でメールチンプは1400万人の顧客を持ち、毎日1万4000人の新しいユーザーが加入している。ショップシンクの取得により、同社は毎月さらに数万人多くのユーザーにアクセスできるようになると、デウス氏は述べている。同社の顧客ベース全体の40%がコマースに関与していることから、オンライン小売の分野はメールチンプにとって重要なターゲットとなった。同社のサービスはすでに250種類を超えるアプリとプラットフォームでうまく機能しており、そのなかにはショッピファイのライバルであるビッグコマース(BigCommerce)やウーコマース(WooCommerce)なども含まれている。メールチンプはこれらの種類のプラットフォームパートナーから200万を超えるeコマースの注文を受けていると、デウス氏は語る。
ショッピファイは最近、自社の出品者の域を超えたビジネスにとって優れたパートナーであろうとしている。今年はじめに、同社はアプリにより生み出される年間売上から最初の100万ドル(約1億1400万円)を、小規模開発者向けのインセンティブとして手数料の対象外にした。ショッピファイのパートナーや代理店はこれまで、この動きはアプリストアのエコシステムの長期的な成長を固めるのに役立つと述べてきた。インテュイットとショッピファイとのあいだにも関係がすでに存在する。同社のクイックブックス(QuickBooks)会計ソフトウェアは、2015年からショッピファイのアプリストアで利用可能である。
ルイス氏は、「ショッピファイは、プラットフォームそのものよりも周囲のSaaSエコシステムにさらに多くの価値があるということを理解した。そのため、この1年間でパートナーや開発者に対してはるかにフレンドリーになった」と述べている。また氏は、同社が後払い企業のアファーム(Affirm)とグローバルE(Global-e)に行っている投資を同社の戦略的な転換の証拠としている。これらの企業は国境を超えるトランザクション向けにeコマースのローカライゼーション機能を提供している。
メールチンプとの和解の裏側
メールチンプの和解の裏には、ショッピファイの膨大な中小ビジネスのベースにアクセス可能であるということ以外の要因も考えられる。具体的には、競合他社からの脅威だ。サードパーティのメールチンプの統合とともに、ショッピファイの出品者はライバルのメールマーケティングプラットフォームにもアクセス可能になる。たとえばクラビヨ(Klaviyo)は、メールチンプの以前の顧客1万が、過去2年間に同社のサービスに乗り換えたと主張している。ショッピファイは2019年に、より高度なメールマーケティングの要件を持つユーザーに対して、メールチンプの代わりにクラビヨを推奨した。
一方でメールチンプは4月に、新しい「ウェブサイト&コマース」サブスクリプションプランの一部として、ビジネスに対して独自のデジタルストアフロントを作成するオプションを提供し、ショッピファイの領域に踏み込みはじめた。デウス氏によると、メールチンプのユーザーに対してeコマースソフトウェアツールについて柔軟な選択肢を与えることが目標だという。「顧客は、メールチンプと競合しているツールも含め、各種のツールに接続できる。当社はeコマース専業の会社を目指してはいないが、当社(独自)のツールの構築を続けていく」と氏は注釈している。
[原文:Mailchimp and Shopify are reconciling after a messy break-up]
Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:長田真)