この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。 中国は、今年初めにゼロコロナ政策による制限を解除した。これにより、小売業にとって厳しい環境のなか、ラグジュアリーブランドへの需要がせき […]
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
中国は、今年初めにゼロコロナ政策による制限を解除した。これにより、小売業にとって厳しい環境のなか、ラグジュアリーブランドへの需要がせきを切ったようにあふれた。
ラルフローレン(Ralph Lauren)の北米事業は、第2四半期に10%もの落ち込みを見せたが、中国での売上は50%も増加した。同様に、バーバリー(Burberry)のこの期間の中国における既存店売上高は、前年同期に比べて46%も増加し、エルメス(Hermès)はアジアで「旧正月が非常に良好だったことにより」売上が23%増加した。
Advertisement
中国のゼロコロナ政策は、同国のウイルス撲滅への強い決意を明らかにしたものだが、ラグジュアリーブランドには重くのしかかった。政府はほとんどの海外旅行に対して国境を閉鎖したため、中国の買い物客は海外でラグジュアリー商品を購入することができず、高級ショッピングセンターは厳しいロックダウンによって空っぽになることが多かった。制限が解除されたことで、中国の買い物客はハイエンドの商品に散財するようになり、今年の需要を20%押し上げられるだろうと、モルガンスタンレー(Morgan Stanley)は予測している。
リシュモンはアジア太平洋地域での売上が40%回復
「中国の消費者は、ロックダウンから解放されたことで需要が高まっている。また、市場の規模が巨大なことから、サステナビリティなどに注目しており、そのための追加料金を支払うことを厭わない新しい顧客が生まれている」と、調査企業ガートナー(Gartner)のディレクターアナリストを務めるカッシー・ソチャ氏は述べる。中国の買い物客は「過去数年間にラグジュアリー商品を消費できなかったため、購買意欲がほかよりも少し高い」。
各ブランドはこの四半期、ラグジュアリー商品への購買意欲の高まりを目の当たりにしている。ロエベ(Loewe)や、ルイヴィトン(Louis Vuitton)、フェンディ(Fendi)などのブランドを保有するLVMHは、この四半期におけるアジアでの売り上げの大半は中国からのものだと発表した。クロエ(Chloé)や、カルティエ(Cartier)、バンクリーフ・アンド・アーベル(Van Cleef & Arpels)を保有するリシュモン(Richemont)は、コロナによる制限の緩和と、中国本土の国境が再開されたことにより、アジア太平洋地域での売上が40%回復したと報告した。
LVMHの財務ディレクターを務めるジャン・ジャック・ギオニ氏はジャーナリストたちに対し、「中国の顧客は、2019年よりも大幅に重要性を増している」と語った。
中国での出店が加速
パンデミックの前、中国本土の住民は、海外での旅行時にラグジュアリー商品を購入することが多かったと専門家は語る。現在はまだ中国本土から海外への旅行が回復していないため、ラグジュアリーの買い物は中国国内が行われることが多い。そこでラグジュアリーブランドは、中国へのリーチを広げるために多額の投資を行ってきた。
バーキン(Birkin)を作るエルメス(Hermès)は近年、中国に新店舗をオープンしている。中国の買い物客の復帰を促進するため、エルメスは1月に南京市に大型の新店舗を開設した。また2022年には武漢市にも大型店舗を開設し、鄭州市にも初出店した。プラダ(Prada)も最近、FIFA女子ワールドカップ(FIFA Women’s World Cup)で中国の女子サッカーチームと提携した。
北米での需要が低迷
西欧諸国、特に北米では、ラグジュアリーへの支出はそれほど多くなかった。バーバリーは中国での売上が46%増加したのに対して、米国での既存店売上高は8%減少した。グッチ(Gucci)とバレンシアガ(Balenciaga)を所有しているケリング(Kering)は、北米地域での収益が18%減少したと報告している。
「ラグジュアリーブランドは、北米での中核的な消費者と戦略について、いくつかの大きな課題に直面している。北米では特にラグジュアリー商品の売れ行きが低迷しており、ラグジュアリー商品を購入してきた買い物客の51%は、インフレの圧力を受けて、より安価な衣服、シューズ、アクセサリーブランドに切り替えたと回答している」とソチャ氏は述べた。
中国政府は国内の免税販売を支援
インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)の小売およびeコマース担当シニアアナリストのスカイ・キャナバス氏は、中国の現地政府による旅行の制限と政策により、中国本土の住人は、これからも自国内で買い物をし続けることになるだろうと語る。たとえば、ラグジュアリーブランドは政府の傘下にある小売業者と提携するのではなく、2025年までに独自の免税店を運用しはじめるのも手だと、同氏は述べる。
「これまでは、中国国内よりも、海外の方がラグジュアリー商品をはるかに安価に購入できたため、消費者は海外に旅行する機会があるまで購入を控えていた。また、政府も、特に海南省など国内での免税販売を強力に支援するようになったため、中国の消費者はラグジュアリーを地元で購入する恩恵を受けられるようになった」と、キャナバス氏は述べる。
「この水準の売上増加は持続しない」
中国経済は、潜在的な可能性があるものの、依然としてパンデミック後の回復の途上にある。小売販売額は5月に12.7%増加したが、6月には3.1%と鈍化した。中国本土の買い物客の海外旅行が再び増加すれば、欧州のようなファッションのメッカは、多額の消費の恩恵を受けられる可能性がある。結果として、この水準の売上増加は持続しない可能性があると専門家は述べている。
「2023年は中国のラグジュアリー小売販売額が大幅に伸びており、前年比の成長率は25%近い。しかし来年以降は中国におけるラグジュアリーの売上の増加は急速に減速し、11%程度に落ち込むだろう」とキャナバス氏は述べた。
[原文:Luxury brands are poised to benefit from China’s reopening]
Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Ralph Lauren