数量限定で商品を発売するドロップモデルはファッション分野などで一般的に採用されている。しかしラストクラムやD2Cクッキーブランドのファット&ウィアードなどCPG(消費財)の新興企業は、 ドロップモデル への挑戦を始めたばかり。数量限定で商品を販売し、ブランド立ち上げの初期段階でフォロワーを集めることができる。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、小売業の変革の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
5月に販売を開始した高級クッキーブランドのラストクラムは、数量限定の生産を行うことで、数千の顧客を購入希望者リストに登録させることに成功した。
このリストは毎週の抽選に使用される。ラストクラムはブランドの初期の宣伝にこの抽選を利用してきた。毎週の販売分は、平均して1分以内に売り切れてしまうのが常だ。
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この数量限定のリリースモデルはファッションやストリートウェアで一般的なものとなり、ナイキ(Nike)やシュプリーム(Supreme)、SNKRSアプリ(SNKRS App)まで、あらゆるブランドに採用されるようになった。しかし、ラストクラムからD2Cのクッキーブランドであるファット&ウィアード(Fat & Weird)にまで及ぶCPG(消費財)の新興企業は、ドロップモデルへの挑戦を始めたばかりだ。数量限定で商品を販売することにより、これらのブランドは立ち上げの初期段階でフォロワーを集めることができる。顧客はメールサービスに登録するか、ソーシャルメディアでそのブランドをフォローして、新商品が発売されたときに通知を受け取る。また、ドロップモデルは、商品の価格が高くても納得してもらえる理由にもなる。たとえばラストクラムのクッキーは1個12ドル(約1300円)で、12個入りボックスの小売価格は約150ドル(約1万6500円)だ。
フォーブス(Forbes)によれば、ラストクラムは9月第2週、需要を満たすために操業を拡大し、工場を移転するため、100万ドル(約1億1000万円)以上の資金を調達した。エンゼル投資家ラウンドは、トラッフホットソース(Truff hot sauce)の創設者、EDM DJゼッド(EDM DJ Zedd)や、レニー&ラリーズ・コンプリートクッキー(Lenny & Larry’s Complete Cookies)の共同創設者であるバリー・ターナーなどが、ある程度リードした。
同ブランドは現在、コアコレクションとして、誕生日ケーキの「50セント(50 Cent)」やレモンバーの「ホエン・ライフ・ギブス・ユー・レモン(When Life Gives You Lemons)」といったフレーバーが入った12種類のクッキーを販売している。また、72種類の未発表のクッキーフレーバーを用意しており、今後の発売に向けてテストを行っている。
「希少性」でファンを呼び込む
ラストクラムのCEOであるマシュー・ユング氏は、毎週誰でもボックスを入手できる公平なチャンスがある「ドロップ」モデルがファンのあいだで希少性を生み出したと、米モダンリテール(Modern Retail)に語った。ユング氏は次のように述べている。「当初は、初期の生産能力と検査能力を鑑みて、週ごとに販売することにした」。しかし、ソーシャルメディアでの反応が広まり、初期の販売数が売り切れたことから、同社はこのモデルを継続することにした。同ブランドのTikTokページには、これまでに24万以上の「いいね!」が付いている。この数週間は、俳優で歌手のベン・プラットの最新アルバムのリリースでクッキーの箱が取り上げられている。これは、ラストクラムがセレブやインフルエンサー専用に作成して送った郵送用のボックスだ。
ベーカリーチェーンのクランブル(Crumbl)も同様の方針で、限定販売のクッキーを週替わりでリリースしている。同社の方式では、毎週日曜日に、次の週に購入できる4つの新しいフレーバーが発表される。
ユング氏は、切迫感が「販売の大きな要素だ」と述べている。さらに氏は、自社が有料の広告なしに待ち行列に並ぶ顧客を獲得することに成功したとも述べている。「当社がインフルエンサーに大量の商品サンプルを送ることはない。自分で商品を購入した顧客が評判を広げている」。
同ブランドの購入希望者リストは毎週10%の割合で増え続けていると、ユング氏は認めている。ラストクラムは現在、インスタグラムのフォロワーが2万8000人近くいるが、投稿のほとんどは商品の最新情報である。ただし、購入に関するアラートを受けるには、メールの購入希望者リストに登録する必要がある。同ブランドは高価なため、顧客の年齢層は高いと、ユング氏は語っている。「また、ふたつ目のボックスの入手も簡単ではないため、再度ボックスを購入できるのを待ち続けている顧客も増え続けている」と氏は述べている。
高価で希少性があることから、ほとんどの人は購入した商品を友人や家族と分け合う傾向がある。氏は次のように語っている。「私たちは、箱を開けるという体験自体がオーガニックな顧客の獲得に繋がっていることを理解している」。ソーシャルメディアで生み出されているコンテンツによれば、多くの顧客は商品を受け取ってから「味見」会を開いている。さらに同社は、マーケティングのため、不運な顧客にスポットライトを当て始めた。「フォーモ(FOMO:取り残される不安)」を強調するため、ソーシャルチームは、抽選で選ばれなかった顧客から寄せられた苦情を投稿し、皆がどれほど商品を欲しがっているかを見せている。
リアルな購入体験をeコマースでも
CPGおよびD2Cフードブランドのマーケティング戦略担当者であるケンドル・デッキーソン氏は、時間限定のリリースモデルがファッションから食品に移行しつつあり、特にグルメ・デザートはドロップモデルを採用しつつあると述べている。
デッキーソン氏は「このようなブランドは、商品発売が毎週、毎月、または四半期ごとのどれであっても、希少性を持たせる方法で消費者を引き付けている」と述べ、この販売形式により「多くの顧客はこの追いかけっこを楽しんでおり、箱を開けるところをオンラインで見せたがっている」ことが証明されたとしている。
食品業界は、リアルな購入体験をeコマースの体験へと拡大したとも言える。以前は、マグノリアベーカリー(Magnolia’s Bakery)のカップケーキや、ドミニク・アンセル(Dominique Ansel)のクロナッツを買うために行列に並んだ。今は、憧れの最新のデザートを購入し、自宅まで届けてもらうことができる。
ユング氏は、ラストクラムが今後も毎週商品発売を続けるか、よりスケーラブルな受注生産モデルに切り替えるかはまだ決定していないとしている。肝心なのは、クッキーの、手づくりによる時間のかかる生産プロセスを維持しつつ、生産量を増やして待ち時間を短縮することだと氏は述べている。将来の計画として、既存の顧客向けの「VIP購入希望者リスト」も検討されているとのことである。
「提携や拡大の誘いは多いが、現在のところ当社は、購入希望者リストへの対応を最優先に考えている」。
[原文:Last Crumb is the latest CPG startup to embrace the drop model]
Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Last Crumb