2010年に全盛期を迎えたサブスク リプションボックスは、毎月予測可能な収益が生まれ、顧客と長期的な関係を築いてきた。しかし、年月が経過するにつれ、このモデルは拡大が難しいことが明らかになってきた。この現象を推進した多くのスタートアップはいま、そのモデルを超えて収益源を多様化させている。
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サブスクリプションボックス(厳選された商品を、開けるまで中身がわからないミステリー形式で毎月届けるサービス)は2010年に全盛期を迎えた。この現象を推進した多くのスタートアップはいま、そのモデルを超えて収益源を多様化させている。
サブスクリプションボックスは、2010年のスタートアップに特有の時代精神のひとつだった。実際、2010年代の最初の3年間にはバーチボックス(Birchbox)、バークボックス(Barkbox)、ファブフィットファン(Fab Fit Fun)、ダラーシェイブクラブ(Dollar Shave Club)、ブルーエプロン(Blue Apron)などもっとも注目すべきサブスクリプションボックス企業のいくつかが誕生した。これらの企業にとって、サブスクリプションボックスにより毎月予測可能な収益が生まれ、顧客と長期的な関係を築くことができる。しかし、年月が経過するにつれ、このモデルは拡大が難しいことが明らかになってきた。
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たとえばバーチボックスは、サブスクリプションだけで顧客の価値を高め、新しい顧客を獲得するのに苦闘した結果、2016年のレイオフに続いて、2020年にも全世界のスタッフの25%をレイオフした。さらに、これらの企業の多くはデジタルの顧客獲得戦略に依存していたが、この方法は年々コストが高くなり、精度も低下していた。iOSの変更によってソーシャル広告、そしてオンラインでの顧客獲得がさらに困難になるにつれ、顧客を見つけるために別の方法、たとえば小売店とのパートナーシップなどがさらに重要となった。その結果、これまで商品ボックスの定期的な配達にのみ頼っていた各新興企業は、ダイレクト販売、小売店とのパートナーシップ、よりパーソナライズされたサブスクリプションなど、収益をあげるための新たな方法に目を向けるようになったのだ。
バークはいかにサブスクの先に進んだか?
犬用おもちゃのD2Cサブスクリプションサービス「バークボックス」として創設されたバーク(Bark)は、同社を16億ドル(約1840億円)と評価したSPACとの合併により、昨年株式を公開した。2012年の設立以来、同社はペットフードやデンタルケアにも業務を拡大し、個別の商品をダイレクト販売し、現在ではターゲット(Target)や、コストコ(Costco)、ペトコ(Petco)など10を超える小売業者を通じて商品を販売している。
CEOを務めるマット・ミーカー氏は、次のように米モダンリテールに語った。「私はサブスクリプションが好きだ。しかし、顧客が存在するのは小売やほかのD2Cや従来型の販売形式で、我々はその方向に移行することになった。すべての人がコミットメントを希望するわけではないし、価格の観点からコミットメントを行えない人々も多い」。
現在のところ、同社の業務のうちサブスクリプションは依然として大きな割合を占めている。2月に行われた会計第3四半期の決算発表で、同社はこの四半期にアクティブな加入者数が37万1000人増え、合計加入者数が230万人に達したことを報告した。しかし、同社の最近の収益では、サブスクリプションから新しい収益手段への移行も明確に示された。
バークが自社サイトに追加したクロスセルやアップセルの機能、たとえば利用者に対して、カートのサブスクリプションに別のおもちゃを追加するように促す機能などは、第3四半期における同社のダイレクト販売の収益1億1810万ドル(約136億円)のうち1030万ドル(約11億8000万円)に相当した。クロスセルとアップセルの収益は、前年同期間と比較して55%も増加した。
「我々が保有している強力なツールのおかげで、適切な顧客と適切な商品を対象に、それらをマッチングさせることができている」とミーカー氏は述べている。
今後について、同氏はバークの各種サブブランドとサービスであるバークイーツ(BarkEats)、バークブライト(BarkBright)、バークボックス(BarkBox)、スーパーチューワー(SuperChewer)、バークショップ(Barkshop)のサイロ化の解消を進めることも望んでいる。
ミーカー氏は次のように述べている。「現在のところ、これらがすべて同じ企業だということは一見わからない。何百万人もの訪問者が毎月バークボックスを訪れている状況において、わかりやすい機会となるのは、それらの訪問者がサイトを見ているときに、ほかの商品を紹介することによって、訪問者のエクスペリエンスを中断することだ」。
すべての顧客がおもちゃ以外の商品を購入するわけではないとしても、同社は顧客に自社の別のバーティカルブランドについて認識してもらうことを望んでいる。たとえば子犬や飼い主が、バークイーツのパーソナライズされたフードサブスクリプションプランに今すぐ完全にコミットできなくても、その犬が将来成長したとき、成犬向けのフードプランに関するターゲット化された情報を、その犬や飼い主に再び提供したいと同社は考えている。
これらのD2Cの変更とともに、バークは小売業者とのパートナーシップも重視している。昨年後半に同社は、オンラインおよび店舗内でのパートナーシップについてアウトドア用品販売のアール・イー・アイ(REI)と提携したことを発表した。今月の決算発表では、さらにウォルマート(Walmart)とのパートナーシップも発表した。
「ウォルマートとのパートナーシップは2800店舗にわたり、ターゲットとの提携より約1000店舗も多く、しかも我々にとって新しい顧客層だ」とミーカー氏は述べている。
オンラインでの顧客獲得コストが上昇している状況で、実店舗の小売業者への展開は、同社にとって新しい層の顧客を低いコストで獲得する手段となる。これに対してミーカー氏は、「予期しない」パートナーシップには特に大きな期待を抱いていると語る。同社の商品は、ウォルマートやターゲットのような大手小売業者と並んで、スバル(Subaru)の特約店やダンキンドーナツ(Dunkin’ Donuts)の店舗でも販売されている。
サブスクを開拓したほかの業者も追随
バークと同様、かつてミステリー形式のサブスクリプションボックスを提供していたさまざまな企業が、その後、ほかの方向に進出している。
たとえば衣料品ボックスのスティッチフィックス(Stitch Fix)は、2020年以降、顧客向けに単発購入オプションを徐々に追加してきた。
2020年夏には英国で「購入前にプレビューできる」サービスを、2021年3月には米国で「カテゴリーごとのショッピング」機能を、2021年6月には買い切り型の直販オプションを試験的に導入した。これらの新しいサービスを開始してから、同社は9月にスティッチフィックスフリースタイル(Stitch Fix Freestyle)を立ち上げ、全面的にダイレクト販売を重視するようになった。消費者はボックスの代わりに、各自の好みに合わせてキュレーションしたアイテムをオンラインのスティッチフィックスストアから個別に購入できるようになった。
スティッチフィックスのCEOを務めるエリザベス・スポールディング氏はメールで次のように述べた。「我々はクライアントから、フィックスのスタイルカードで見た服や当社のソーシャルチャンネルで見たオンライン上のコーディネートを直接購入したいという申し出を頻繁に受けてきた。独自にパーソナライズされたショッピング体験を体験するために、新しい方法を提供するということは、完全に理にかなっていた」。
一方で、美容製品のサブスクリプションボックスサービスを行っているバーチボックスも、D2Cとサブスクリプションボックスの混在モデルへと転向した。バーチボックスは昨年後半、4500万ドル(約51億8000万円)でフェムテックヘルス(FemTech Health)に買収されたが、これは同社に注ぎ込まれたVC資金の半分未満で、以前の5億ドル(約575億円)近い評価額よりも大幅に低い。
バーチボックスは新しい親会社のもとで、ボックスと同様に個別の美容製品をD2Cで販売するようになった。同社は、通常のビューティーボックス(すべての加入者に共通で送られる、あらかじめ選ばれた美容製品のセット)とともに、スキンラボ(Skin Lab)という新しいボックスも販売している。消費者が、肌のタイプや水分量などの特性テストを受けて返送すると、加入者それぞれの肌の状態に合わせてカスタマイズされたボックスが送られるシステムだ。
サブスクボックスはさらに進化する
バーチボックスのスキンラボは、サブスクリプションボックスモデル自体がどのように変化したかを明らかにしている。消費者は毎月完全にランダムな商品が送られるボックスを選ばなくなったかもしれないが、よりカスタマイズされたサブスクリプションモデルを受け入れるだろうということに各社は期待している。
顧客が望むサブスクリプションも、商品のタイプによって異なる。サブスクリプションコマースプラットフォームのオーダーグルーブ(Ordergroove)によれば、もっとも大きく成長したカテゴリーはペット用品と美容品のふたつのサブスクリプションで、2021年と比べてそれぞれ94%と97%も増加した。
オーダーグルーブのクライアントサービス担当ディレクターを務めるキャシー・バート氏は次のように述べている。「私の観点から見ると、このモデルは我々がどちらかというと発見モデルと呼ぶものから、補充サブスクリプションと呼ぶものに進化してきた。日常生活の範疇内で、自分に合ったカレンダーと時間枠に従ったサブスクリプションが求められている」。
これに対して、サブスクリプションボックスを提供している各企業は、ボックスをさらにパーソナライズする方法を模索している。バークのバークイーツは犬の食習慣とアレルギーに応じてカスタマイズされる。サブスクリプションの美容製品会社であるイプシー(Ipsy)では、顧客が自分宛てのミステリーボックスに含める商品を1つだけ選択できる。スティッチフィックスではボックスを1回限り、2週間ごと、毎月、2カ月ごと、3カ月ごとに受け取ることができる。
バークのミーカー氏は次のように述べている。「すべての利用者が当社商品のすべてのサブスクリプションに加入するか、毎月定期的に受け取るなら、この上なく望ましいことだ。しかし、それは現実的ではない。それぞれの利用者に対してカスタマイズが必要だ」。
一方で各ブランドは、よりカスタマイズされたこのサブスクリプション方法と、D2Cや小売業者とのパートナーシップとを組み合わせることを検討している。カスタマイズされたボックスは広範な範囲の顧客にアピールし、顧客を長く引き留めることができる一方で、D2Cははじめての顧客に対するエントリポイントとして機能できる。
たとえば、キッズ向けサイエンスおよびアート活動ボックスの新興企業であるキウィコ(KiwiCo)は、さまざまな年齢グループと活動に向けた9種類のサブスクリプションタイプと、直販店舗との混在モデルを提供している。キウィコは2011年に創設され、当時のサブスクリプションボックスはひとつだけだったが、2017年にキーウィクレート(Kiwi Crate)からキウィコに社名を変更し、同時に商品のラインナップを拡大した。
創設者でCEOを務めるサンドラ・オー・リン氏は、この混在モデルはサブスクリプションによる顧客との長期的な関係の利点と、ダイレクト販売により新しい顧客が簡単に加入できる利点を組み合わせたものだと語る。
リン氏は次のように述べている。「自社のビジネスモデルにサブスクリプションモデルと個別販売を含めることの利点は、顧客それぞれの購買ニーズに応じて差別化されたアプローチができるということだ。しかし、サブスクリプションでは十分に細かい対応が行えないことがあるため、それを補うために店舗を使用している」。
[原文:‘It’s just not practical’: Why early subscription box pioneers have moved beyond the model]
Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Birchbox