中国発激安ファッション通販サイト、 シーイン (Shein)はモバイル・ファストファッション戦争で優位に立つためソーシャルメディアの有料キャンペーンに投資している。分析プラットフォームのブランドトータルは同ブランドが競合より多くの額を有料広告に投資し多数のインプレッションを獲得していることを発見した。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、小売業の変革の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
中国発の激安ファッション通販サイト、シーイン(Shein)は、モバイル・ファストファッション戦争で優位に立つため、ソーシャルメディアの有料キャンペーンに投資している。
アナリティクスプラットフォームのブランドトータル(BrandTotal)は、シーインが競合のプリンセスポリー(Princess Polly)、プリティリトルシング(Pretty Little Things)、ブーフー(Boohoo)、ザフル(Zaful)、ファッションノバ(Fashion Nova)よりも多くの金額を有料広告キャンペーンに投資し、それによって多数のインプレッションを獲得していることを発見した。
Advertisement
シーインはオンライン専業のファストファッションを象徴する存在であり、今年5月にはアメリカでもっともダウンロードされたショッピングアプリとしてAmazonを超えた。しかし、ブラッシュマーク(Blushmark)、プリティリトルシング、ファッションノバなど同業他社も、パンデミックによるeコマースへの支出の流れに乗って、過去2年間に知名度が増大してきた。競合のなかで優位に立つため、シーインはオーガニック(非広告)メディアやZ世代を中心としたキャンペーンから、堅実な有料メディアキャンペーンに移行し、同業他社よりも多くのソーシャルメディア広告を展開し、より幅広い世代に向けキャンペーンを拡大しようとしている。シーインは米モダンリテールに対してコメントを拒否した。
SNS広告掲載は他社の6倍
ブランドトータルは、各ブランドから提供されたデータと、各ブランドから購入したデータを組み合わせて使用し、厳選されたブランドパネルの中から、ソーシャルメディアプラットフォームのLinkedIn、Facebook、YouTube、インスタグラムにおける広告クリエイティブを収集している。
ブランドトータルによれば、シーインは2021年の現在までにおいて、プリンセスポリーや、プリティリトルシング、ブーフー、ザフル、ファッションノバと比較し、平均6倍のソーシャルメディア広告が掲載されている。さらに同社は過去3カ月において、同期間中のブランド全体で合計598のキャンペーンに対し、ソーシャルメディアインプレッションのうち94%のSOV(スポンサー付きインプレッションの割合で定義)を獲得した。
ブランドトータルのCEOで共同創設者のアロン・レイボビッチ氏は、同ブランドの広告は一般的に、欲望に訴える内容よりも具体的な行動を促すものが多いという。これには一般的なライフスタイルのコンテンツやブログではなく、特定のセールや商品、クーポンへのリンクが含まれる。
レイボビッチ氏は次のようにも述べている。「この戦略は、『今すぐ行動しよう』というメッセージを単純明快に伝える。当社のウェブサイトをご覧ください、クーポンをご覧ください、クーポンをダウンロードしてくださいと、企業は顧客に向かって明確に告げているわけだ」。
購買力のある世代にアプローチ
シーインがソーシャルメディアで行っているターゲット広告を集計した結果、同社が競合他社よりもはるかに年齢層の高い世代に注目しており、18歳から24歳までを対象としている広告は44%にすぎないことを発見した。これに対してプリティリトルシング、ブーフー、プリンセスポリーは、広告の85%から94%でこの層を対象としていた。
レイボビッチ氏は次のように述べている。「シーインは、お金に余裕のあるほかの層に働きかけている。エンゲージメントやシェアを獲得し、人々の注目を集めたいのなら、18歳から24歳は理想的な対象層だが、継続的な購買力を求めるなら、もう少し上の年齢層を狙うべきだ」。
これらの有料キャンペーンは、同ブランドのもうひとつの大きな有料メディアへの投資である、スポンサー付きのインフルエンサー投稿と連動している。同ブランドには、2種類のアフィリエイトリンクプログラム、マイクロインフルエンサー用のブロガープログラム、美容製品に特化したインフルエンサープログラム、およびアディソン・レイ氏やヘイリー・ビーバー氏などのスターを使用した有料セレブリティプレースメントへの出資など、複数のインフルエンサーコンテンツモデルが存在する。
ユーチューバーの@justriciaことトリシア・パンラキー氏はYouTubeでの衣服試着コーナーで、定期的にシーインのために働いている。パンラキー氏はアフィリエイト売上ではなく、動画ごとに一律の金額を受け取っており、このプロセスを「簡単な体験」と説明している。
パンラキー氏は次のように語っている。「私が服を選び、シーインがそれを発送し、私が動画を作り、支払いを受け取る、というサイクルを繰り返している。シーインには厳しい独占契約がないため、非常に仕事がやりやすい」。
加熱する競合
メディア嫌いで有名なシーインは2021年5月の時点で、密かに評価額が150億ドル(約1兆7100億円)に達し、Google PlayやiOSアプリストアでも最上位を占めた。同社のアプリのダウンロード数とサイトの訪問数は2020年と2021年に急増した。これは、流行を生み出すZ世代と、スポンサー付きのインフルエンサーがYouTubeやTikTokに試着動画を投稿し、数十万回も再生されたことによるものだ。
アプリアナリティクス企業のセンサータワー(SensorTower)のアナリストであるステファニー・チャン氏は、以前米モダンリテールに次のように語っていた。「シーインはCovid-19から利益を得たと考える。アプリのインストール数は昨年の4月と5月に増加しはじめ、依然として増え続けている。米国では、このアプリの月間インストール数は2020年5月に200万を超えたところでピークに達した」。
シーインは最初に、エイチ・アンド・エム(H&M)や、ザラ(Zara)、フォーエバー21(Forever21)などの伝統的なファストファッション小売業者に対して独自のやり方を示した。シーインはより速く、毎日数千もの商品をドロップする。これに対して、たとえば保守的なファストファッション小売業者のトップショップ(Topshop)は最盛期でも週に500SKUしかリリースしていない。シーインはより安価で、シーインのベルベット製ブレザーは11ドル(約1250円)で販売されている。同じものがザラでは150ドル(約1万7100円)である。
しかし今では、ほかのオンライン専業の競合他社も同じようなポイントで差別化を行うようになってきた。プリンセスポリーはシーインと同様に、50ドル(約5700円)を超える注文については標準の送料が無料で、大幅な割引を行い、新しいスタイルを毎日提供している。ブーフーもシーインと類似したアフィリエイトプログラムを提供し、同様にソーシャルメディアで成果を挙げている。同ブランドのタグは現時点においてTikTok上で3億4830万回表示されている。ザフルも同様に激安価格を設定しており、キャミソール、ジュエリー、トートバッグ、サングラスの幅広い商品がすべて5ドル(約570円)以下で販売されている。
競合の激化から、シーインは自社ブランドの認知を広める必要に迫られつつある。
レイボビッチ氏は次のように述べている。「オーガニックだけでは成長できない。このカテゴリで急成長し、競合他社を追い抜くには、有料のメディア広告が必要だ」。
[原文: How Shein is taking over social media advertising ]
Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)