アメリカではイベントの復活やオフィスの再開に伴い、消費者が高級アクセサリーのレンタルサービスをこぞって利用している――これはブランド各社も注目の動きだ。 このパンデミックで、ファッション業界が受けた打撃は大きかったが、ア […]
アメリカではイベントの復活やオフィスの再開に伴い、消費者が高級アクセサリーのレンタルサービスをこぞって利用している――これはブランド各社も注目の動きだ。
このパンデミックで、ファッション業界が受けた打撃は大きかったが、アクセサリー部門への打撃はさらに深刻だ。ステイホームを余儀なくされた消費者は、ハンドバッグには目もくれず、スウェットパンツ選びに予算と時間を充てた。リテール調査会社NPDグループ(NPD Group)の調査では、ドレスシューズの売上は2019年から2020年で50%減少している。また、同じく調査会社ユーロモニター(Euromonitor)によると、高級ハンドバッグの売上も前年比で19%下落した。
消費者がレンタルアクセサリーに戻ってきた
また、米DIGIDAYの姉妹メディア、モダンリテール(Modern Retail)が複数のレンタルサービスブランドに取材したところ、高級アクセサリーはリセールよりもレンタルの方がはるかに苦戦していることがわかった。それに呼応するように、各ブランドはビジネスモデルの主軸をZoom映えするスタイルやステイホーム向けのカジュアルなシルエットに切り変えている。しかし、2021年に入ると、パンデミック中に人気を博したカジュアルスタイルはそのまま人気を維持しているものの、消費者がレンタルアクセサリーに戻ってきたという。さらに、売上が厳しかったこの1年を経て、若年層へのリーチの可能性が明らかになり、ラグジュアリーブランドはアクセサリーレンタルのビジネスモデルを開拓している。
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高級ジュエリーのレンタルサービス、スウィッチ(Switch)の共同創業者兼CEO、アドリエル・ダルビッシュ氏によると、パンデミックで売上の伸びは鈍化したが、低迷は「想像していたほど」ではなく、従業員の一時解雇や一時帰休も実施せずに済んだという。
「2019年(の売上)が4倍に伸びていた関係で、2020年の数字は2019年よりも間違いなく低い」とダルビッシュ氏は話す。「2021年は当初引き続き動きが鈍かったが、この数カ月で突然売上が拡大し、これからが実に楽しみだ」。
ロサンゼルスに本社を構えるスウィッチは会員制で長期レンタル事業を展開しているが、今回のパンデミックではサービスの内容やライナップを変えた。会員は、ネックレスやイヤリングのようなリモート会議で目につくアイテムをレンタルし、在宅でドレスアップしてからSNSの投稿でアイテムを紹介する――SNSでは、スウィッチのオーガニック投稿がありとあらゆるチャネルに登場した。しかし今やまた、このサービスはパンデミック前の2019年と同じように利用されはじめている。つまり顧客は、「イベント」や「コロナ収束後の通常生活」に戻るためのアイテムを借りているのだ。
「イベントは間違いなく通常生活の一部だ」とダルビッシュ氏は話す。「ウェディングが増え、交流会が戻ってきた……それに新型コロナのパンデミックに関しては、都市の状況と、その都市ではどの程度店舗がオープンしているのか、どの程度成長が見られるのかにも直接相関関係がある」。
リセール事業に乗り出す企業も
パンデミック中には、ほかにも転向せざるを得ないラグジュアリーアイテムのレンタルサービス業者があった。英国を拠点とする高級アクセサリーやドレス等の衣類を扱うレンタルリテーラー、フロントロー(Front Row)は、レンタルに加えてリセール事業を開始したと創業者のシカ・ボダーニ氏は話す。この新事業は今後もそのまま継続させる計画だという。
一方、サンフランシスコのジュエリーレンタルリテーラーのロックスボックス(Rocksbox)は、2020年の1年間、新しいトレンドに乗り遅れまいと懸命に取り組んだ。創業者でプレジデントのミーガン・ローズ氏によると、たとえば、マスクチェーンや、マスクにかからないフープイヤリングは売上が伸びる一方、画面に映らないロングネックレスは人気が落ちたという。
また、英国の高級ハンドバッグの会員制レンタルサービス、コクーン(Cocoon)では、会員のレンタル期間が長くなった(以前はバッグを次々と交換していた)とコクーンの共同創業者でCEOのセアン・フェルナンデス=ワン氏は話す。このコクーンも、フロントロー同様リセール事業に乗り出した。
ビジネスはどのように変わったのか
2021年はパンデミック前の行動に戻る1年になるが、世の中は完全には元に戻らない。多くの顧客は依然として、ロックダウン中に人気が高まった「カジュアルスタイル」に関心を示している。たとえばスウィッチでは、アスレジャーのウェアに組み合わせるジュエリーの需要が高まりを見せ、コクーンでは小ぶりで斜めがけのバッグが人気アイテムになっている。
「ロックダウン中は、当然ながら、パーティ用のバッグや仕事用のトートバッグに対する要望は少なかった。それよりも、ラグジュアリーで小さめなカジュアルスタイルで、実用性も兼ね備えたものが注目された」と話すのは、コクーンのフェルナンデス=ワン氏だ。「引き続き、カジュアルな斜めがけバッグの需要が高い……それに、プラダ(Prada)の主力スタイル、たとえば熱狂的なファンを持つクレオなど、ステートメントショルダーバッグは相変わらず好調だ」。
さらに、レンタルリテール業者のなかには、パンデミックで冷え込んだ消費が、ある意味、業界の追い風になっていると話す者もいる。「最近の需要急増から、循環型ビジネスモデルがどれほど強く求められているのかがよくわかる。特に今は顧客側に、『無駄のない適切な買い物を実践するには何をすべきか』をじっくり考える時間がたっぷりあったからだ」とフェルナンデス=ワン氏は語った。
ラグジュアリーブランドも参戦
以前はレンタルや直営店以外での販売を毛嫌いしていたラグジュアリーブランドも、ようやくこのビジネスモデルに関心を示し始めた。2020年、ラグジュアリー分野の売上は、中国人観光客の訪米・訪欧減少と実店舗に対するロックダウンの影響で大打撃を受けた。これに対して、ブランド各社はデジタル化を進めるとともに、独自でレンタルサービスを展開したり、ラグジュアリー専門レンタル業社との提携に投資するなどして、路線開発に乗り出している。たとえばラルフローレン(Ralph Lauren)はブランド独自のレンタルサービスを開始している。一方、グッチ(Gucci)やサンローラン(Saint Laurent)をはじめ、名だたるラグジュアリーブランドを擁するケリング(Kering)がコクーンに出資。これを受けてフェルナンデス=ワン氏も、「ケリンググループ内のブランドとの橋渡し役」を担っていると自信を見せる。
「確実に、変化が起こっているという感覚がある。ついにラグジュアリーブランド各社が戦略を再検討し、レンタルと販売、両方のビジネスに取り組もうとしている」と話すのはスウィッチのダルビッシュ氏だ。「ビッグネームのデザイナーブランドが何社か名乗りをあげている。2、3年前に『あのブランドがスウィッチとパートナーシップを結ぶと思うか』と尋ねられていれば、『それはありえない』と即答していたようなブランドだ。でも、今やその彼らが関心を示している」。
アクセサリーのレンタルサービス各社は、アパレルのレンタルリテーラーほどブランドのパートナーシップに依存していない。つまり、アクセサリーレンタルサービス業者は、規模も商品もさまざまな複数のブランドとの提携に投資するよりも、卸業者からアイテムを購入するのが一般的だ。しかし、ラグジュアリーブランドと提携すれば、レンタルリテーラーは、需要の高い新たなスタイルをより早く提供できるようになり、ブランドにしてみても、新たな若年層のオーディエンスにアクセスできる。これは、売上減少を経験した2020年の直後にあって、極めて重要なポイントだ。
「弊社の会員は大半が、デザイナーアイテムを身につけるのが唯一の夢で、何とかしたいと思っていても、それまでは予算の関係で選択肢にさえ入れられなかった人たちだ」とダルビッシュ氏は話す。「スウィッチなら、若年層は通常よりも少し早めにラグジュアリーな世界に足を踏み入れられる。また、ブランド側は早めに若者を集めて逃さないことが可能で、リーチの拡大が期待できる」。
[原文:How luxury accessory rental services are plotting their post-pandemic futures]
Maile McCann(翻訳:SI Japan、編集:戸田美子)