物理的なプレゼンスの拡大を意欲的に進める Apple はこのほど、ロサンゼルスの歴史的劇場を修復し、新たな旗艦店をオープンした。6月24日の公開に際し、同社のリテールおよび人事担当バイスプレジデントを務めるディアドラ・オブライエン氏は、ロイターの取材に対して、「いまこそ、真に再スタートを切る好機だ」と語った。
人々が通常の買い物を再開するなか、Appleは新しい店舗の開設を進めている。
物理的なプレゼンスの拡大を意欲的に進めるAppleは、このほど、ロサンゼルスの歴史的劇場を修復し、新たな旗艦店をオープンさせた。6月24日(現地時間)の公開に際して、同社のリテールおよび人事担当バイスプレジデントを務めるディアドラ・オブライエン氏は、ロイターの取材に対して、「いまこそ、真に再スタートを切る好機だ」と語った。
コロナ禍以前、Appleの小売店舗は、主に製品の販売、修理、サービスを提供するための拠点として機能していた。しかしコロナ禍のさなか、同社はこれら店舗事業の再考を余儀なくされ、一部の店舗体験をオンラインに移行した。消費者が通常の買い物を再開しはじめたいま、Appleをはじめ、多くの小売企業が店舗内とオンラインのサービスをうまく両立させることに注力している。
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実店舗の顧客体験に投資
Appleがカリフォルニア州の本社近くに最初の直営店を開設したのは、いまを遡ること20年前のことだ。現在では、世界各地に500以上の店舗を展開している。Appleの小売戦略は、ほかの企業が追随する、ある種のひな形ともなっている。その洗練された美しい店舗設計は、アパレルのエバーレーン(Everlane)やアイウェアのワービーパーカー(Warby Parker)など、多くのブランドに影響を与えてきたが、ハイテク企業が実店舗の展開に乗り出すきっかけとなった点は特筆に値する。現に、マイクロソフトは長年にわたり、Appleの直営店戦略を真似ようと試みてきたが、コロナ禍の勃発によって全店舗が閉鎖に追い込まれた。一方、Googleは、現地時間の6月17日、ニューヨーク市に初の旗艦店を開設した。
コロナ禍以前、Apple Storeはジーニアスバーで知られていた。顧客がおすすめの新製品や修理について、店員に気軽に相談できる場だ。しかしコロナ禍にあって、顧客と店員がパーティションなしで対面するこのレイアウトは裏目に出た。昨年夏に店舗を再開した際、Appleはジーニアスバーの利用者に事前予約を推奨し、さらに店舗やドライブスルーでの商品受取を強化した。
Appleによると、6月14日(現地時間)現在、すべてのストアを再開しているという。コロナ禍によって、オンラインに移行した製品のチュートリアルやトレーニングなどの店頭イベントも、現地の法令を遵守しつつ、各市場で徐々に再開している。さらに、新店舗の公開に合わせて、「クリエイティブスタジオ(Creative Studios)」という新たなプログラムも開始した。ロサンゼルスと北京を皮切りに、ほかの都市にも順次拡大するという。クリエイティブスタジオでは、Apple製品を使った動画、音楽、写真などの制作を学ぶことができる。また、同社のプレスリリースによると、参加者は、アーティストや非営利のコミュニティパートナー、Appleのスタッフから直接指導を受けることもできるという。
一方で、Appleはコロナ時代のレガシーも一部維持する模様だ。たとえば、同社の人気商品を並べ、顧客がすばやく選んで決済できるエクスプレス形式のショッピングカウンターも、常設化するとしている。オブライエン氏はロイターの取材でこう説明している。「来店した顧客が、欲しい商品をすばやく入手できる店舗体験は維持したい。一方で、店員が顧客と気軽に話ができて、買い忘れなどがないかどうか、確認できる環境も維持する意向だ」。
売上に勝る付加価値
コロナ禍によって、在宅勤務やオンライン授業が増えたことにより、Appleのハイテク製品は売上を伸ばした。直近の四半期決算では、Macの売上高が前年同期比70.1%増の91億ドル(約1兆円)に達した。また、iPadの売上高は前年同期比78.9%増の78億ドル(約8645万円)だった。
Appleは今年の新規出店数を明らかにしていないが、5月下旬には、ローマの中心部に新店舗「Appleヴィア・デル・コルソ(Apple Via del Corso)」をオープンした。
小売コンサルタントのスティーヴン・デニス氏は、米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)の取材で、こう述べている。「コロナ後も実店舗への投資を継続している企業は、いずれも店舗の運営から売上に勝る付加価値を得ている。実際、売上だけならオンラインでも促進できる。さらに、我々の見るところ、ターゲット(Target)、TJマックス(TJMaxx)、Appleらは、みな空き物件をうまく活用している。Appleのような企業にとって、新しい店舗はさらなる成長の可能性を意味している」。
小売企業向けのソリューションプロバイダーであるアプトス(Aptos)で、リテールインダストリーインサイト部門の責任者を務めるデイヴ・ブルーノ氏は、「Appleが実店舗の拡大を進めることは理に適っている」と話す。「実店舗の運営は、パンデミックによって一時的に混乱したが、彼らは、実店舗が顧客との長期的な取引関係を培う最大の機会だと承知している」。
ブルーノ氏は「Appleの店舗は商品を販売する以上の役割を担っている」とも述べている。現に、同社は店舗を活用して、製品の修理やワークショップの開催など、さまざまなサービスを提供しており、そこにはジーニアスバー、チュートリアル、ポップアップイベントなども含まれる。ブルーノ氏が指摘する通り、Appleの店舗は、長年にわたり、単なる集客以上の役割を果たしてきた。
競合他社が店舗展開を縮小するなかで、拡大路線を進めるAppleの戦略について、ブルーノ氏は「コロナ後の買い物客が店舗に求めるものをより深く理解する機会となるだろう」と結論づけた。
[原文:How Apple’s post-pandemic retail strategy is shaping up]
Gabriela Barkho(翻訳:英じゅんこ、編集:戸田美子)
Image via Apple