1年間におよぶリブランドを終え、アバクロンビーはデジタル販売とデータ分析に投資している。アバクロンビー&フィッチは過去5年間にわたって、同社のホリスターとアバクロンビーのブランドに独自のアイデンティティを作り上げ、より現代的なスタイルとメッセージングを取り入れようとしてきた。
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1年間におよぶリブランドを終え、アバクロンビー(Abercrombie)はデジタル販売とデータ分析に投資している。
アバクロンビー&フィッチ(Abercrombie & Fitch)は過去5年間にわたって、同社のホリスター(Hollister)とアバクロンビーのブランドに独自のアイデンティティを作り上げ、より現代的なスタイルとメッセージングを取り入れようとしてきた。
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アバクロンビーは今世紀初頭に、シャツを着ていないモデルの画像で飾られたショッピングバッグ、アバクロンビーのロゴが目立つように付けられたポロシャツ、コロンで満たされた店舗で知られていた。このブランドイメージにより同社の売上は促進され、2012年に年間売上は45億ドル(約5180億円)に達した。しかし、前年比で収益の減少が5年続いたあとで、同社は2017年にリブランドを決定した。同ブランドは新しいCEOとしてフラン・ホロウィッツ氏を迎え、ギヤを入れ替えて包含的なサイズ展開により特化し、若いミレニアル世代に向けた現代的なスタイルとシルエットをリリースした。
リバウンドは2019年からはじまった。同年の第4四半期には同等の売上が8%成長し、会計年度2019年末には3%増加した。パンデミックの禍中には売上が短期間停滞したが、2021年に同ブランドはまた成長が回復している。最新の2021年第3四半期の収支報告において、同社の売上は前年比で10%、2019年と比較して5%増加した。
2022年から先も成長を続けるため、同社はデータ分析とデジタル販売に注力している。同ブランドは2021年夏に最高デジタルおよびテクノロジー責任者の役割を新設し、エキノックス(Equinox)の元エグゼクティブであるサミール・デサイ氏を雇用してその任につけた。同ブランドは、テクノロジーチームだけでなくより多くの従業員に対して、顧客の身体に合う服を見つけるのをアシストするためにデータ分析を使用する方法のトレーニングを行い、ブランドのサイトの検索とブラウジング機能を強化して、新しい顧客ベースに対するサービスを改善することをめざしている。
デジタル時代
2021年の第3四半期にアバクロンビーのデジタル売上高は前年比で8%増加し、総売上高の46%を占めるまでになった。これに対して2017年初頭の時点では、デジタル売上は店頭売上に対して、わずか28%でしかなかった。
デサイ氏は次のように述べている。「当社の対象とする顧客は、自分たちの選んだ時間、方法、場所でトランザクションを行えることをとても重視し評価する。このエクスペリエンス全体の促進に役立つようなジャーニーをどのように作り上げればよいだろうか?」
その答えはいくつもの側面に分けられる、と同氏は語る。オンラインで購入し店舗で受け取る機能などを追加する一方で、同ブランドは自社のウェブサイトに「微調整」を加え、顧客が正しい商品を見つけやすくしている。例として、同社の「100以上の」ジーンズの品揃えに言及している。それらとともに、同社はそれぞれの顧客に向け、ウェブページのトップに8〜10のおすすめのジーンズを提示するよう改修中だ。予測型検索や、ユーザーが過去に参照したスタイルを強調表示するなどの機能を実装することで、「ユーザーエクスペリエンスの向上」と「不快感の除去」を目指している。
「スピードは重要だ」とデサイ氏は述べる。「我々は顧客が可能な限り早く目的の商品を見つけられるようにするため、どうすればいいだろう?」
外部に向けたサイトの変更とともに、同氏は内部のデジタルテクノロジーとデータ分析プロセスの更新にも取り組んでいる。たとえば、アバクロンビーは2015年に顧客インサイトチームを追加し、2022年にはそのチームをさらに拡充する予定だ。同氏は次のように述べている。「4、5年前に、このビジネスは直感と本能で運営されていた。今日ではひたすら『顧客は何を求めているか?』ということが重視されている」。
またデサイ氏は、同社が「データアカデミー」と呼ぶものも構築しており、2022年に開始される予定だ。データチームでの集中的な分析のみに留まらず、あらゆる役割の従業員にデータ分析スキルのトレーニングを行うことが目標だと、同氏は説明する。
「組織全体で、テクノロジー、データ、分析以外の部門でも、自分たちの質問に回答し、独自の分析を行えるようトレーニングを行う。現在はデータと分析のチームがすべての質問に対応しなければならず、ボトルネックになっているが、このボトルネックを除去し、すべての従業員が自分たちの質問と回答をほぼリアルタイムで得られるようにする」とデサイ氏は話す。
これらのデータの多くは、顧客が何を望んでいるかに注目している。そして、同社の2000年代初頭の顧客と比べて、そのニーズはより多様化している。
新しいアバクロンビー
アバクロンビーは2013年に、当時のCEOを務めていたマイク・ジェフリーズ氏が2006年にサロン(Salon)の人物紹介で発言したコメントにより非難の的になった。ジェフリーズ氏は、「見た目のよい人々」を雇用していて、それによって「ほかの見た目のよい人々を引きつけることができる」と発言したのだ。
ジェフリーズ氏は次のように発言した。「当社は、態度が良く友だちが多い、真にアメリカ人らしい若者に向けられている。多くの人々は当社の衣服にふさわしくなく、そうなることもできない。当社は排他的だろうか? 当然だ。若者、老人、太った人、やせた人と、すべての人々を対象として求めた会社は困難に陥っている」。
多くの人々が、この声明を裏書きするものとして、同社が当時Lサイズより大きい衣服を販売していなかったことに注目し、販売員を圧倒的に白人の男子と女子の学生社交クラブから採用していたことで非難の的になった。しかし、新しいアバクロンビーは決定的なリブランドを行うことを望んでいる。
グローバルブランドプレジデントを務めるクリスティン・スコット氏は、今日では同ブランドにとって「インクルーシブなことが最重要」だと語る。同ブランドは店舗内で、障がい者にとってもインクルーシブなレイアウトを作り出そうとしている。マーケティング資料では、人種とサイズにおいてより多様なモデルが脚光を浴びるように心がけている。商品においては、より広範なサイズを追加し、より広範な体形に合わせるテストを行っている。今日では、同ブランドのパンツは一般にサイズ23から37まであり、スタイルに応じて最大でXLやXXLまでが用意されている。
また同社は、より広範なインフルエンサーたちと提携しており、この戦略はTikTokで実を結びつつあるように見える。TikTokのプラットフォームで#Abercrombieと#abercrombiehaulはそれぞれ1億5830万と1650万回再生されている。ミケイラ“ミック”ザゾン(@mikzazon)氏はオハイオを拠点とするインフルエンサーで、TikTokに160万人近いフォロワーが存在するが、ボディーポジティビティに特化しており、アバクロンビーとのパートナーシップを最近強化した。
ザゾン氏は4月に、グロッシー(Glossy)に次のように語った。「私はこの1年半でアバクロンビーと何回も提携した。それは、同社が率先して過去の過ちから学んだためだ。同社はかつて、この体形で特定のサイズのイケてる子たちだけが当社の服に合うと言っていた。現在私が一緒に作業している会社は、完全に別の経営陣と、完全に異なるモラルを持っており、私から学ぼうとしている」。
実際に、コンサルティング企業のエー・ライン・パートナーズ(A Line Partners)の創設者でCEOを務めるガブリエラ・サンタニエーロ氏は、このリブランドが「成功した」と見なしているが、「長い道のりだった」と述べている。
サンタニエーロ氏は次のように述べている。「同社は各種の体形と、より多くの多様性を取り上げるようになった。これは、ジェネレーションZやミレニアル世代といったより若い層の消費者が求めているものだ」。
同社は新しい顧客に留まらず、新しい美学にも注力している。過去には「ホリスターもアバクロンビーも本質的に同じだった」と前出のグローバルブランドプレジデントを務めるクリスティン・スコット氏は語る。毎月の顧客からのフィードバックセッションと、毎週の店舗訪問を設け、店舗内の同僚からのフィードバックを組み入れたことにより、ブランド間に別々のアイデンティティが現れはじめた。
スコット氏は次のように述べている。「アバクロンビーは最終的に、たとえば25歳といった若いミレニアル世代というアイデアに着地した。当社はすでに高品質とソフトな快適性で知られているが、どうすればより今日的になれるだろうか?」
スコット氏は、若いミレニアル世代が「長い週末休暇を楽しみに生きて」おり、結婚式、旅行、副業、または自宅でのんびりするなど、長い週末休暇に行う活動に適した服が必要というアイデアに焦点が当てられたと付け加えている。マーケティングとプロダクトデザインは、最終的にこの方向に向けられた。さらに、それ以後に各アパレルブランドは、アバクロンビーの先例に倣って、長い週末休暇を念頭に置いたデザインを採用するようになった。たとえばメイドウェル(Madewell)は2020年10月に「週末をもっと長く過ごそう(Make Weekends Longer)」と名付けられたラウンジウェアのラインを発売し、ターゲット(Target)は「ウイークエンドソウル(Weekend Soul)という名前の独自のアパレルのベーシックブランドを保有している。
これらの新しいスタイルを試すため、アバクロンビーはフィットテストへの投資を増やした。たとえば7月に同ブランドは「好きなようにデニムを着よう(Denim Your Way)」という広告キャンペーンとともに、サイズ23から37で、4種類の脚の長さに合わせたジーンズのラインをリリースした。このリリースは、ウエストが開いている、腿がきつすぎるなどの問題点について、顧客からのフィードバックを1年間にわたりテストして組み入れた結果だ。
「当社はさまざまな体形に合う商品を作り出し、カーブラブ(Curve Love)のようなフィットに関するソリューションを提供する」とスコット氏は述べている。
同ブランドは今後も、顧客中心性とデジタルプラットフォームへの注力を続けていくと、スコット氏は語る。これに対してデサイ氏は、ユーザーエクスペリエンスとデジタル販売に特化した要員をさらに雇用し、アバクロンビーがWeb3やメタバースにどのように適合するかを見極め、同社が中古とレンタルの「循環経済」に参入できる方法を見つけることを計画している。
デサイ氏は、同社が引き続きフィットとサイズに関する自信に注力していくにつれ、アバクロンビー&フィッチ(Abercrombie & Fitch)の次のステップは「拡張現実と複合現実のエクスペリエンス」だと付け加えている。
デサイ氏は、「人々がジーンズやTシャツやドレスの3次元表示をより的確に理解できるようにするにはどうすればいいだろうか?」と問いかけている。「商品がどのように見えるのか、より豊富な3次元の表示を得ることができるだろうか? この分野ではさらに多くの進化が起きるだろうと考えている」。
[原文:How Abercrombie is reinventing itself to become a digital retail leader in 2022]
Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:猿渡さとみ)
Image via Abercrombie & Fitch