学生アスリートが自分の名前、画像、肖像(NIL)を出して利益を得ることが認められたのは最近のことだが、各ブランドやマーケターは、ここから利益を上げようと殺到するようになった。各ブランドは規制がより複雑になり、リスクが大きくなる前に、大学のアスリートとさらに多くの契約を結ぶだろうと予想されている。
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米国の学生アスリートが自分の名前、画像、肖像(names, images and likenesses:NIL)から利益を得ることが認められたのは最近のことだが、各ブランドやマーケターは、不確定な分野での営業にもかかわらず、ここから利益を上げようと殺到するようになった。
学生アスリートに投資する各社
アディダス(Adidas)は3月の第4週、新しいNILネットワークを発表し、5000人を超える学生アスリートが、支払いを受けるアフィリエイトブランドアンバサダーになれるようにした。オハイオ州立大学の新入生クォーターバックであるクイン・エワーズ選手は8月に、GTスポーツマーケティング(GT Sports Marketing)と140万ドル(約1億7400万円)のNIL契約を締結した。一方でカリフォルニア州立大学フレズノ校のバスケットボールチームに所属するヘイリー・カビンダー選手とハンナ・カビンダー選手は、TikTokでの約400万人のフォロワーを活用して、携帯電話プロバイダのブーストモバイル(Boost Mobile)およびサプリメントブランドのシックススタープロヌートリション(Six Star Pro Nutrition)と契約した。
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新しい州法と、7月に発効したNCAAのポリシー変更により、学生が州法と大学のガイドラインを遵守していれば、このような契約が可能になった。州によってNIL規則は大きく異なる場合があり、大学も自校のブランド契約に反するNIL活動を制限、または全面的に禁止することがある。このため、この分野はブランドと学生アスリートの両方にとって未知の領域だ。専門家たちは、各ブランドが、規制がより複雑になり、リスクが大きくなる前に、大学のアスリートとさらに多くの契約を結ぶだろうと、米モダンリテールに語った。
フロントオフィススポーツ(Front Office Sports)によれば、困難が生じる可能性があるにもかかわらず、各ブランドは最初の1年間だけでNILに最高で5億7900万ドル(約718億円)を投じると予測されている。2021年にリリースされたインマーインテリジェンス(Inmar Intelligence)のデータによれば、従来型のインフルエンサーと比べて、学生アスリートを使用すると、企業の認知度が上がりやすいと、マーケターの61%が回答している。
インフルエンサーマーケティングプラットフォームの#ペイド(#Paid)の企業コミュニケーション責任者であるハンナ・キャメロン氏は次のように述べている。「修正や変更が行われる前の今のうちに、全力で契約を推し進めると良いと思う。近いうちにルール、ソリューションが必要な問題、規制がさらに増え、契約が今ほど有利ではなくなるだろう」。
学生アスリートと提携するための課題
NILの懸念に対処するため、学校側は各種のポリシーを作成してきた。これらのポリシーにより各ブランドが学生アスリートと有利な契約を結べなくなる可能性があると、専門家たちは語っている。
キャメロン氏は次のように述べている。「学校が限度を超え、制約と制限をいろいろと課すようになれば、学校は学生がブランド契約を結ぶ機会を妨害することになるだけだ。解決が必要な障害が多くなるほど、巨大ブランドが契約を望む可能性が低くなることは明らかだ」。
バースツールスポーツ(Barstool Sports)の創設者であるデビッド・ポートノイ氏は、NCAAマーケティング企業を創設することを、7月にTwitterで発表した。それ以来、同社の公式大学アスリートプログラムであるバースツールアスレチック(Barstool Athletics)と協力する学生アスリートの数は増加した。しかし、いくつかの学校は同社との特定のNIL活動を推奨しておらず、アスリートがバースツールと提携することを全面的に禁止している学校もある。
ルイビル大学は学生に、バースツールスポーツと関わらないよう指示した。同社がケンタッキー州知事の行政命令に基づく特定の基準を遵守していないのが理由だ。ボーズマンデイリークロニクル(Bozeman Daily Chronicle)によれば、モンタナ州立大学(Montana State University)の学生は、ギャンブルやアルコールに関わるいかなるコンテンツとも結び付けられない限りは、バースツールスポーツと提携できる。
オハイオ州立大学のNILガイドラインでは、アスリートはオハイオ州立大学のブランド契約に反するNIL契約を締結することが禁止されている。たとえば、アスリートは練習、試合、チーム移動などの「チーム活動のあいだに、ナイキ(Nike)の競合他社商品の着用を要求される」場合、NIL契約を締結できない。また、オハイオ州立大学のアスリートは、「大学キャンパスでコカ・コーラ(Coca-Cola)と競合する飲料」のプロモートを禁止される。同大学はナイキおよびコカ・コーラと、2033年まで15年間の契約を結んでいるためだ。
末日聖徒イエスキリスト教会(Church of Jesus Christ of Latter-day Saints)がスポンサーのブリガムヤング大学では、アスリートが学校の倫理規定に反する特定の商品をプロモートすることが許可されない。これにはタバコ、アダルトエンターテイメント、さらにはコーヒーも含まれる。
サフォーク大学のソーヤービジネススクールの教授であるスキップ・パーハム氏は次のように述べている。「組織と公式のパートナーシップを結んでいるブランドがあり、そのブランドの競合他社が選手と、競合する可能性がある契約を結んだ場合、面倒なことになる。これはさまざまなレベルで各ブランドにとって困難な問題になる可能性があり、重大な問題のひとつは、すでに行った投資を保護することだろう」。
マイクロインフルエンサーと同様に
マイクロインフルエンサーと同様に、大学のアスリートは、ブランドアンバサダーとして、たとえばプロのアスリートよりもはるかに安価で使用でき、ブランドがニッチなコミュニティに訴求するためにも役立つと、コンサルティング企業ザ・ソーシャル・リーダー(The Social Leader)の創設者でCEOを務めるロバート・スターン氏は語る。
「大学レベルのニッチな支持者を、それがほかの学生、卒業生、その地域の住民のどれであろうと獲得しようとするなら、これらの大学のアスリートをブランドアンバサダーとして使用するのが、現在は望ましいだろう」と同氏は述べている。
何人かの大学のアスリートはすでに熱心な支持者を抱えている。アラバマクリムゾンタイドでディフェンシブバックを務めるジャクインシー・マッキンストリー選手はインスタグラムに8万2000人以上のフォロワーを抱えており、「クールエイド(Kool-Aid)」と呼ばれ、そのニックネームの元になった飲料企業、すなわちクールエイドと提携した。また、セイントピーターのバスケットボールチームに所属するタグ・エデルト選手は最近、同氏が何十ものバッファローワイルドウイングス(Buffalo Wild Wings)を食べている光景をスポンサー付きインスタグラム投稿として、14万9000人のフォロワー向けに投稿した。
小規模や地元の企業も、NIL契約を結ぼうとしている。ネブラスカ州リンカーンにあるタコスレストランのムンチャコス(Muchachos)は、自社ビジネスをプロモートするためネブラスカ大学のフットボールチームに所属するケード・ミューラー選手や、バレーボールチームに所属するニクリン・ヘイムズ選手などの大学のアスリートに代金を支払っている。
リングコミュニケーションズ(Ring Communications)の創設者で、サフォーク大学の教授であるキンバリー・リング・アレン氏は次のように述べている。「多くのブランド、特に小規模な企業や、ある種のニッチ業界で操業している企業は、誰に注目が集まっているかよりも、自社の顧客が共感するのは誰かを重視する傾向がある」。
#ペイドのキャメロン氏は、学生アスリートを対象として、アディダスのものと同様のアフィリエイトブランドアンバサダープログラムや、クリエイターファンドプログラムをリリースするブランドはさらに増えるだろうとしている。スポーツ以外の多くのブランドも、これらの学生と結び付きを持とうとするようになるだろう。
「さらに多くの家庭用品、小さな商品、従来のスポーツ広告の枠に収まらない企業が、アスリートと協力するようになるだろう」と同氏は述べている。各ブランドは、大学のアスリートの「教室での勉強から、練習のあとの行動まで、生活の全体に」足を踏み入れはじめている。
[原文:‘Go heavy now’: Brands rush to tap student-athletes before regulations get trickier]
Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:黒田千聖)
Image via Adidas