2020年はドアダッシュ、グラブハブ、ゴーパッフなどの フードデリバリー サービスが急成長したが、ロックダウン解除後もこの成長を維持することは簡単ではなかった。受注からより大きな売上を得るため、これらの会社は広告やプライベートブランドなど各種の新たな戦略を試している。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、小売業の変革の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
フードデリバリー市場が成熟するにつれ、独立系のオペレーターは、自社独自のプライベートブランドのメニューを作り出すことで一歩先を行こうとしている。
2020年は、ドアダッシュ(DoorDash)、グラブハブ(Grubhub)、ゴーパッフ(GoPuff)などのデリバリーサービスが急成長した年だった。ドアダッシュの売上は前年比で267%と急増し、グラブハブの売上は39%増大している。ゴーパッフは売上の実額を公開していないが、今年はすでに20億ドル(約2200億円)を超えている(以前は10億ドルをわずかに下回っていた)。しかし、ロックダウンの解除後もこの成長を維持することは簡単ではなかった。そして、受注からより大きな売上を得るため、これらの会社は広告やプライベートブランドなど各種の新たな戦略を試している。
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ビジネスモデルの課題
この夏、デリバリーサービスのゴーパッフとドアダッシュの2社はそれぞれ、プライベートブランドの食品の展開に向けた準備を開始した。例としてゴーパッフはゴーストキッチン、すなわち客を受け入れる店頭を持たない、調理を行うだけの店舗を設立した。同社はこの店舗で、既存のブランドと独自のプライベートブランドの両方の料理を製造しようと計画している。また、ゴーパッフはプライベートブランドを専門とする商品化計画スペシャリストを雇用しており、コーヒーブランドのバンディット(Bandit)など、いくつかの独自ブランドをすでに買収して蓄積している。一方ドアダッシュは、自社のゴーストキッチンプログラムであるドアダッシュ・キッチン(DoorDash Kitchens)を急速に拡大しており、内製メニューのテストに使用している。ハングリー(HNGRY)によれば、同社は現在、マカロニアンドチーズのブランドのザ・ローカル・マック(The Local Mac)と、フォーとラーメンを扱うヌードルアップ(NoodleUp)を保有しており、ほとんどの工程はチョボティクス(Chowbotics)のフードサービスロボットが行っている(ただしドアダッシュは、米モダンリテールに宛てたメールでこのレポートに異議を呈し、同社は既存のレストランパートナーがメニューをより短時間で準備できるよう支援する目的でロボットを使用しているにすぎないと主張している)。
デリバリーサービスは、簡単なコンセプトから始まった。これら各社はサードパーティの運転者を利用して、食品や家庭用品を顧客に直接届ける。しかし、このモデルでは資金面での問題に直面し、注文を仲介するだけでは維持できない可能性が出てきた。その結果、各社は食料品店が完成させた利益率の高いビジネスモデルを採用し、そのモデルをデリバリー用にカスタマイズしようと試みている。
新しい売上を生む戦略
これら各社のほとんどは、フードデリバリーを利益率の高い事業に転換する方法をいまだ見出していない。たとえばドアダッシュが利益を計上したのは、これまでに2020年第2四半期のただ1回である。同社の最新の収支報告によれば、ドアダッシュは2021年の前半の6カ月において1億9800万ドル(約217億円)の損失を計上している。ウーバーイーツ(Uber Eats)などほかのフードデリバリー会社は、プライベートブランドメニューへの参入について公式な発言を行っていないが、配送に費やされる経費を取り戻すため、同様の苦闘を続けている。たとえば、ウーバーイーツは前四半期に1億6100万ドル(約177億円)の損失を計上している。これら各社は「当社がまだ収益性がないという事実を相殺するため、堅調な売上のストリームを見つけるにはどうすればいいか?」と問いかけていると、市場調査会社IRIでプライベートブランドを追跡している筆頭コンサルタントのメアリーエレン・リンチ氏は語っている。
フードデリバリーの利益率はすでに非常に小さくなっている。ある推定によれば、36ドル(約4000円)の食品の注文があった場合、すべてのコストを差し引くと、ドアダッシュが得られる利益は平均0.90(約99円)ドルでしかない。さらに、多くのデリバリー会社は誤配送に対する補償や、新しい顧客を引き付けるために無償または低料金での配送を行うことにより、多くの損失を計上しているとリンチ氏は語っている。「これら各社は、その損失を相殺する方法を見つける必要がある」と氏は述べている。
このような経費を取り戻すための一般的な戦略のひとつは、広告への出資だ。インスタカート(Instacart)は現在売上の20%を広告から得ており、7月にはゴーパッフが独自の広告プラットフォームを作成していることを公表した。自社アプリのスペースを収益化して、実際の配送での損失を埋め合わせようという発想だ。これにはゴーパッフ・アプリ内の広告表示に加えて、アプリ外のターゲティング広告も含まれる。ウーバーイーツも同様に、広告のテストを行っている。
プライベートブランドはまだはじまったばかりだが、新しい試験場となりつつある。このモデルはすでに、クローガー(Kroger)やコストコ(Costco)のような従来型の小売業者により、数十年にわたって有用性が証明されてきた。スーパーマーケットでのプライベートブランドの販売は、昨年は13.2%増大し、273億ドル(約3兆円)の市場に成長した。
消費者に選ばれ続けるために
フードデリバリー業界に特化したアナリティクス企業エジソントレンド(Edison Trends)の共同創設者であるヘタル・パンディア氏は、特にプライベートブランドのメニューを提供することで、デリバリー会社は一歩先を行くことができるとしている。氏は、「これらの会社は、特定の種類のレストランが存在しない地域で、消費者の希望する料理を提供できる」とし、プライベートブランドの商品を使用することで、「消費者に繰り返し選ばれ続ける」ようになると述べている。
パンディア氏は、独立系のデリバリーサービスが独自の商品を作り出すなら、氏が「伝導性企業」と名付けた企業、すなわち食料品店から音楽のストリーミングサービスまで、ほかの人々のコンテンツやブランドを集めて販売する企業で見られたものと同じ傾向に従うだろうと述べている。たとえば、音楽ストリーミングサービスのSpotify(スポティファイ)は、リスナーをほかのストリーミングサービスから奪うため、自社の独占ポッドキャストコンテンツのリリースを開始した。一方で大手小売業のターゲット(Target)やコストコなどは、自社のプライベートブランドで熱心な顧客を集めてきた。ターゲットは最新の収支報告で、自社のプライベートブランド商品の販売が、ほかのブランドよりも急速に増大していることを公表した。「フードデリバリー会社も同様で、特定の商品を集めて販売している」と氏は述べている。
パンディア氏は、デリバリー会社が既存のレストラン、またはほかの小売やブランドパートナーから完全に離れるとは予測していない。氏は、プライベートブランドがより広く展開されても、これらのデリバリーサービスで提供される商品の一部となるだけだろうと予測している。たとえばコストコの場合、「ジェネリックブランドのカークランド(Kirkland)が利益を生み出しているからといって、コストコがP&Gブランドの販売を止めることはない。むしろ、その混在自体が同社の収益性を押し上げている。それが、これらの会社が進めている戦略だろう」と氏は述べている。
リンチ氏は、フードデリバリーの分野において、プライベートブランドがそれ自身の価値で消費者を引き付けるユニークな食品となるには至らないと予測している。「これらの会社が、ほんとうに独自性が高くほかにないメニューを作り出すとは考えていない」と氏は述べており、むしろ日常的なメニューの利益率を高める手段であるとしている。
もしそのようなプライベートブランドが生み出されてしまったら、デリバリー会社とそのレストランパートナーにとって難しい問題が発生するだろうと、リンチ氏は述べている。「これは極めて興味深いことになるだろう。デリバリー会社は小売店の場合と同様に、ブランドを持つパートナーと競合することになる。それは、相互の関係にどのような影響をもたらすことになるだろうか? これは新たな分野で、まだテストされていない」と氏は述べている。
デリバリー会社がプライベートブランドを採用する方針であると考える理由はほかにもある。パンディア氏は、これらの会社がレストラン市場の状態に関する膨大なデータを使用して、市場の地域的なギャップ、たとえばある町の近くにベトナム料理店が存在しない、などを見いだし、そのギャップを自社のプライベートブランド商品で埋める可能性があると指摘している。これは単なる憶測ではない。グラブハブ(GrubHub)のイノベーション責任者を務めていたコリン・ウォレス氏は、最近ワシントン・ポスト(Washington Post)に対して、ドアダッシュ社が配送を行うレストランから得られたデータに基づいてゴーストキッチンを配置し、メニューを構築していると語っている。「Amazon社はこの部分で苦闘しているが、ドアダッシュはドアダッシュキッチン(DoorDash Kitchens)で同じ試みを行っている」とウォレス氏は述べている。
新たに生まれる競争の火種
しかし、はっきりしていることがある。プライベートブランドがフードデリバリーサービスの将来の戦場となるなら、自社ブランドのメニューで争うのは、ドアダッシュやゴーパッフなどの独立系デリバリーサービスだけではないということだ。リンチ氏は、従来型の食料品店もまたゴーストキッチンに多くの投資を行いつつあると述べ、これらの食料品店も競争に参加すると予測している。クローガーは、テイクアウトメニューについて、ゴーストキッチン運営のキッチンユナイテッド(Kitchen United)との提携を最近発表した(ただし現在のところ、同社はこれらのメニューには既存のローカルブランド名とナショナルブランド名を使用すると表明している)。
食料品店は昨年「レストランビジネスの縮小により、多くの販売機会を獲得した。食料品店は、この売上をできる限り維持することを望んでいる」とリンチ氏は語っている。デリバリーまたはテイクアウトでプライベートブランドのメニューを提供するのは、この勢いを維持するためのひとつの方法だと氏は述べている。「適切に行えば、これらの食料品店はクイックサービスレストランのシェアを奪い取ることができるだろう」。
[原文:For food delivery services, private label is the next battleground]
Michael Waters(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Illustration by Ivy Liu