サードパーティーCookieはあと2年間使い続けられる予定だが、eコマースの各ブランドはすでに、より多くのファーストパーティーデータを収集することでCookieの使用終了に向けて対策を試みている。
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サードパーティCookieはあと2年間使い続けられる予定だが、eコマースの各ブランドはすでに、より多くのファーストパーティデータを収集することでCookieの使用終了に向けて対策を試みている。
Googleによれば、広く使用されているChromeウェブブラウザは、最初に予定されていた2022年1月に終了するわけではないが、2023年末にはサードパーティCookieを使用できなくなる。2021年の時点でGoogle Chromeはウェブブラウザ市場の65%以上を占めており、結果として全世界のオンライントラフィックにおいても大きな割合を占めることになる。
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サードパーティCookieの廃止は、最近のAppleによる広告主識別子(Identifier for Advertisers、IDFA)導入と相まって、ブランドやeコマースベンダーが、自社独自の顧客データをより多く収集することに関心を持っていることを意味している。これらのデータは、Cookieによるデータ収集ができなくなったときに、広告のリターゲティングに使用される。以下では、eコマースのブランドやマーケティングデータのプロバイダが、終了延期を受けてどのような準備を行っているかをみていく。
顧客の物理的データとデジタルデータの「統合」
フィットネス器具ブランドのバラ(Bala)は、パンデミックのあいだに自宅で運動を行う人が増えたのと時を同じくして、販売が増加した。顧客の流入を受けて、同社は顧客データを収集するより良い方法を考えはじめるようになったと、バラの成長責任者であるサム・ウィルソン氏は語る。
同社は2018年の創設以来、おもにソーシャルメディアにおけるオーガニックなエンゲージメントと口コミで拡大してきたとウィルソン氏は語っている。2020年にコロナウイルスが流行し、小売業者の自宅用フィットネス機器が品切れになったとき、バラのウエイトバングルが売れはじめた。過去18カ月で同社はブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)、ノードストローム(Nordstrom)、アーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)などの小売業者や、アスレタ(Athleta)とディックススポーティンググッズ(Dick’s Sporting Goods)などのスポーツウェア小売業者とのあいだに、いくつかの卸売パートナーシップを締結した。
iOS14によって従来のデジタル広告戦略がすでに変化している状況において、同社はファーストパーティデータを積極的に活用しようと試みているとウィルソン氏は語る。「当社が販売に使用してきたすべてのチャネルを元に、それらを統一して当社独自のデータを取り出し、将来の顧客のターゲティングに使用するつもりだ」と同氏は述べている。現在のところ、バラの販売の半分近くは卸売アカウントからであるため、顧客のデータを直接収集することはさらに困難になっている。
同社のD2C販売を卸売の顧客データと結合するため、バラは6カ月前に小売データプラットフォームのサウンドコマース(SoundCommerce)に登録した。サウンドコマースはバラの既存のバックエンドテクノロジーと連携し、小売店からの注文をバラの顧客データベースと統合する。これには小売業者が同社と共有するあらゆる情報、たとえば小売業者のPOSから送られるセカンドパーティの取引データなども含まれる。サウンドコマースは、パクサン(PacSun)やエディー・バウアー(Eddie Bauer)などの小売業者にも同様のデータマイニングプロセスを提供している。
ウィルソン氏によれば、バラでの体験におけるもう1つの大きな要素はコンテンツで、顧客の維持やインサイトに活用したいと考えている。「顧客の小売業者での体験は、当社のD2Cにおける体験とは大きく異なる。そのため当社は、コミュニティ構築ツールによって顧客を引き込もうとしている」と同氏は述べている。
コンテンツにはソーシャルメディアの投稿や、バラのウェブサイトハブ上のワークアウトハブで公開されている動画も含まれる。同ブランドは、フィットネスインストラクターやインフルエンサーと協力してバラの機器を紹介し、顧客に無料のライブとオンデマンドのバーチャルクラスを提供している。
バラはこの1年間で、新しい小売パートナーシップやブランドアンバサダーなどを使用して、自社の顧客取得チャネルをより多様化しようと試みてきたとウィルソン氏は語っている。「屋外やダイレクトメールのキャンペーンも増やしている」と同氏は付け加えている。
従来型広告の再検討
全自動猫用トイレのリッターロボット(Litter-Robot)を製造するウィスカー(Whisker)でプレジデントを務めるヤコブ・ザッキ氏は、同社が2年前にデジタルに専念するという広告戦略からの転換を決めた理由の1つが、Cookieの使用終了だったと語る。
同社はまず、2019年後半にリニアテレビ広告をテストした。パンデミック初期に地元企業が広告を引き上げたことで広告料金が低下したため、ウィスカーは2020年から今年にかけてテレビのスポット広告に資金を費やし続けた。「当社は、Facebookに巨額の資金を費やしたことはない」とザッキ氏は述べている。「現在は、Facebookやインタスグラムよりもテレビに多くの額を費やしており、これはGoogle検索への予算とほぼ同じになっている」。
従来のテレビ広告のコストは高価だが、同ブランドはペット向けケアの分野ではこのメディアが適切に機能することを発見したと、ザッキ氏は語る。「技術的なトイレ掃除の映像を作成する必要があるため、ユーモラスなコマーシャルは当社の商品にぴったりだ」。
同社では、「テレビのスポット広告が放送されたあとに、5分間のアトリビューションウィンドウをサイト上に設定することで、顧客獲得数を測定した」とザッキ氏は語っている。
実店舗の側では、顧客データを測定するために、同社はより地域的に対象を絞った方法を使用している。最近では、現地のペットショップチェーンであるペットピープル(Pet People)の35店舗に店舗内ストアを開設する契約を結んだ。「当社ウェブサイトに半径5マイルの位置情報フェンスを設置して、訪問者を追跡している」とザッキ氏は述べている。
またウィスカーは2021年に、ファーストパーティデータの収集に投資し、顧客のメールアドレスやSMS番号のリストを構築しはじめた。2021年3月には、プロバイダのアテンティブ(Attentive)と共同でSMSマーケティングを開始した。「我々は割引コードを使用しないため、バンドルを提供することで、メールアドレスやSMSの登録を集めることができた」とザッキ氏は述べる。さらにウィスカーはエクスポネア(Exponea)をプロバイダとする契約を締結し、ファーストパーティデータ収集のための基盤を築こうとしている。「目標は、広告や毎週のブログ投稿、動画コンテンツなど方法を問わず、トップファネルのトラフィックを増加やし続けることだ」。
ベンダーはブラウジング体験を再考
一部のベンダーによれば、Cookieなしで消費者のインサイトを測定することはすでに当たり前のことになりつつある。
AIベースのリコメンデーションを提供するクロッシングマインズ(Crossing Minds)のCEOを務めるアレクサンダー・ロビケット氏は、Cookieの使用終了が近づくにつれ、さらに多くのデジタルブランドが、同社がeコマースの「コールドスタート」に興味を抱くようになってきているとする。この手法は、ペンギンランダムハウス(Penguin Random House)や、タトゥーシールのD2Cのブランドであるインクボックス(Inkbox)などをクライアントとして持つクロッシングマインズが、ウェブサイトの訪問者に対してCookieを使用せずにリアルタイムで商品のおすすめを作り出すというプロセスだ。「それぞれの訪問者のプロフィールは、カートに入れた商品と購入内容に基づいて確立され、構築される」とロビケット氏は述べている。同時にこのプラットフォームは、顧客のメールアドレスやSMSサインアップも小売業者のトラフィックデータベースに統合することができる。
同社は2018年の設立以来これらのサービスを提供してきたが、この1年間でクライアントが急激に増加した。「当社は、プライバシーへの懸念はこのような状況を引き起こすということを察知していた。結果としてCookieの使用終了により当社のeコマース設計手法が適切であることが再確認された」とロビケット氏は述べている。
一方で、eコマース分析プラットフォームのダーシティ(Daasity)のCEOであるダン・ルブラン氏は、Cookieの使用終了が近づいていることにより、メールによるマーケティングやロイヤルティプログラムなど、よりファーストパーティのソーシングが増えていると語っている。「当社は販売店のバックエンドからすべてのデータを抽出し、それを販売店のマーケティングチャネルにフィードバックするサービスを提供している」と同氏は語る。同氏によれば、そのサービスへの需要により、同社は2020年と比較して300%の成長を実現した。
一方、eコマース分析プラットフォーム「ダーシティ」のCEOであるダン・ルブラン氏は、Cookieの死は、eメールマーケティングやロイヤルティプログラムなど、より多くのファーストパーティソースにつながると述べている。「ダーシティ社は、販売店のバックエンドからすべてのデータを抽出し、それを販売店のマーケティングチャネルにフィードバックするサービスを提供している」。ルブラン氏によると、そのサービスへの需要により、2020年には前年比300%の成長が見込まれているという。
Cookieなしでゼロからネット上に進出する
まもなく創設されるホームウェアブランドのルミュー・エ・シー(Lemieux Et Cie)の創設者であるクリスチーヌ・ルミュー氏は、自分の計画が「Cookieなしのウェブサイトを構築し、ブランドのストーリーをオーガニックに伝えられるようにする」ことだと述べる。
同ブランドは現在、米国およびカナダ全域の180店舗のブティックと、アンソロポロジー(Anthropologie)のウェブサイトで販売されている。「絶え間ない広告費用で頭を悩ませるのではなく、小売業者とのあいだで相互に利益のある提携を行うことを計画している」とルミュー氏は語る。
ルミュー・エ・シーのD2Cウェブサイトは今後数週間に公開される予定で、「もし2年前に作っていたらできたであろうものとはまったく異なるもの」とルミュー氏は述べる。たとえば、デスクトップとモバイルの両方のバージョンで、TikTokにヒントを得た無限スクロールを使用する。「今日の消費者にとっては、商品を探すのにこの方法のほうが自然だ」とルミュー氏は述べている。
デジタルマーケティングに関するほかの小さな問題と同様に、GoogleのサードパーティCookieの問題を解決する方法も限られていると、ウィスカーのザッキ氏は語る。
「サードパーティCookieの使用終了は我々のコントロールできない新たな要因だというのが、私の見解だ。このことをあまり重視せず、それに応じた対応を行うことにしている」と同氏は結論している。
[原文: E-commerce brands prep for the death of the third-party cookie ]
Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)