D2Cバブルは何年にもわたって崩壊の危機に瀕してきた。しかし、不安定な企業には常に救いの手が現れた。たとえば、パンデミックによって誰もがオンラインで買い物をするようになったり、その後の好景気によって資金調達が容易になったりした。
だが、ついに策は尽きつつあり、収益性のない企業は冷酷な現実に直面しはじめている。
「あらゆるカテゴリーで、誰もが売りに出されている」と、あるD2C創設者にして投資家は匿名で語った。「これらの企業は利益を出していないし、利益を出したことなんかなかったのだ」。
この創設者は家庭用品分野で事業を行っているが、いくつかの主要なD2C企業から「破産しかけているので企業を買い取ってほしいと懇願された」と語った。その中には新店舗を多数出店した企業もあった。
こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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D2Cバブルは何年にもわたって崩壊の危機に瀕してきた。しかし、不安定な企業には常に救いの手が現れた。たとえば、パンデミックによって誰もがオンラインで買い物をするようになったり、その後の好景気によって資金調達が容易になったりした。
だが、ついに策は尽きつつあり、収益力のない企業は冷酷な現実に直面しはじめている。
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「あらゆるカテゴリーで、誰もが売りに出されている」と、あるD2C創設者にして投資家は匿名で語った。「これらの企業は利益を出していないし、利益を出したことなんかなかったのだ」。
この創設者は家庭用品分野で事業を行っているが、いくつかの主要なD2C企業から「破産しかけているので企業を買い取ってほしいと懇願された」と語った。その中には新店舗を多数出店した企業もあった。
金利の上昇とインフレ
資金の調達ができない企業、あるいはほかの救済策を見つけられない企業は、厳しい選択を迫られている。たとえば寝具ブランドのルーニャ(Lunya)は6月末、収益の減少と顧客獲得コストの高騰を理由に、連邦倒産法11章を申請した。
この現象はD2Cビジネスに限られたものではないが、D2C企業のほとんどは、資金へのアクセスが困難になった場合、影響を受けやすいという独特の立場にいる。「D2Cだけの問題ではない」とブリッシュ(Bullish)のパートナーのマイケル・ドゥダ氏は述べる。「ビジネス全体、特にテックビジネスは、金利の上昇とインフレによって強烈な打撃を受けている」。
この問題はビジネスモデルに帰結する。「消費者に提示できるものは限られている。現実的なビジネスモデルが存在しないと、ブームが去ったときに業界で地位を維持できない」。
すべてを変えたパンデミック
これには、デジタルマーケティングにおけるひと昔前の話が関係している。D2Cで初期に成功したアウェイ(Away)やワービーパーカー(Warby Parker)などは、スマートでミレニアル世代に愛されるブランディングを創設し、当時は安価だったオンライン広告によって普及したことで、顧客向けのユニコーン企業になった。しかし年月が経つにつれ、顧客獲得のコストは上昇した。その顕著な例は、キャスパー(Casper)の2019年のIPO(新規公開株)で、マーケティングの燃料が枯渇しつつあることが数値で示されたことだ。寝具関連企業である同社は2018年にマーケティングに1億600万ドル(約151億円)を支出し、同年に3億5790万ドル(約508億円)の収益を生み出した。
これは当時、バブル崩壊の前触れのように見えたが、実際には崩壊が起きなかった。それどころか、コロナウイルスのパンデミックがすべてを変えたのだ。先行きがないように思われたブランドに、広告価格の低下と、前例がないほどのeコマース売上の増加によって、売上を伸ばす新たな方法を与えたのだ。
しかし、AppleのiOS14の実装によって再び状況は悪化した。iOS14により、Facebookのようなプラットフォームがこれまでブランドに提供してきたような精緻なターゲティングはほとんど不可能になった。それからの数年間にもモバイル広告が変更されたが、コストは依然として増加し続けている。
収益確保のための多角的な施策
しかし、これらのブランドを苦しめるのはオンラインでの顧客獲得だけではない。ほぼすべてのD2Cは有料広告やeコマース売上への依存を減らし、卸売の契約を模索したり、直営店舗の開設を試みるなどして、多角化をめざしてきた。だが、このような試みもうまく行っていない。たとえばルーニャは、破産を宣言せざるを得なかった理由のひとつとして、多数の小売店舗が毎月13万5000ドル(約1920万円)の損失を出していたことを挙げている。
そして、ブランドは顧客を安価に獲得できなければ、投資家に素晴らしい成長指標を見せることができない。そのため、取引フローは今年急激に減速し、創設者は選択の余地がほとんどない状況に置かれている。借金で資金を調達するか、ほかの資金調達方法を見つけるかだ。しかし金利はこれまでにないほど高くなっている。eコマース事業の資金調達を支援するクリアコ(ClearCo)のサービスでは、ブランドが融資枠を得るためにビジネス指標を提出する必要がある。実際、ルーニャの場合、クリアコは主な債権者のひとつだった。
そのため、業界では、創設者が事業を存続させるために行っている苦肉の策の数々について噂がささやかれている。「今年になって当社への問い合わせが増えた」と、D2Cホールディング企業のパターンブランズ(Pattern Brands)の共同創設者でCEOを務めるニコラス・リング氏は述べる。しかし、これらの多くのブランドが抱える問題は、パターンの興味を引くにはすでに収益性を実現している必要があるということだ。
「一部のブランドはベンチャー資金に依存しすぎている。そこから抜け出すのは容易ではない」とリング氏は述べる。そして、これは現在、特に厳しい現実になりつつある。「さらに難しい状況に直面している企業もある」と、同氏は述べる。
「生き残っているだけで成功だ」
創設者とVC(ベンチャーキャピタル)はみんな、今では単に存続し続けているだけで成功しているということだと考えている。リング氏は、フレッド・ウィルソン氏が最近出した文書から「生き残っているだけで成功だ」という言葉を引用している。
「水面下で息をひそめている創設者や起業家が数多く存在すると常に考えている」とドゥダ氏は語った。
明るい材料がないわけではない。まず、存続し続けている企業の財務内容がしっかりしていることだ。オルタナティブ融資プラットフォームのアンプラ(Ampla)のデータによると、同社が提携している企業の収益は、前四半期と比べてほぼ横ばい(2%増加)だったが、前年同期と比べると17%増とかなりの伸びを示した。ただし、同社のマーケティング担当バイスプレジデントを務めるマイク・グリロ氏は、「実際の注文数量は前年比で減少した」と指摘した。
その理由は明らかで、ブランドは新規顧客の獲得に固執することを止め、代わりに、事業を存続できるような利益率のプロファイルやビジネスモデルを見つけようとしているのだ。「ブランドは注文数量を追い求めることなく、粗利益率と収益性を非常に重視している」と、グリロ氏は述べている。
ただし、これらの数値は、アムプラが提携に同意した企業のものだ。すなわち、これらの企業は非公開の数値を共有し、アムプラはその企業が融資枠を設定するに値すると判断したということだ。そのため、エコシステム全体を代表しているわけではない。少なくともアンプラによると、同プラットフォームが今年の第2四半期に受け取った申請の数は前年比で89%増加している。つまり、従来よりもより多くの企業が資金を求めて奔走しているということだ。
D2C業界の問題が顕在化するとき
どのようなビジネスサイクルでもそうだが、これもひっそりと終わる可能性が高い。すでに、これまで弱気だった市場が活性化するいくつかのきざしが見えている。ファストカジュアルレストランのカバ(Cava)はほとんど活動のなかったIPO期間の後、数週間前に上場を果たし、今でも公開価格を大きく上回っている。ドゥダ氏は、空席のエグゼクティブ職位の募集は6カ月近くにわたって停止されていたが、6月になってその職位の補充を探すエグゼクティブリクルーターが急増したのを見たという。
ドゥダ氏によれば、何カ月も煮え切らなかったディールメーカーが、楽観的になっている可能性があるという。「現在、投資を考えている人は増えているようだ」とドゥダ氏は語る。ただし、高金利によって資金調達が困難になっているため、VCの取引フローが再度増加するまでにはまだ時間がかかりそうだと同氏は付け加えた。「それでも、従来と異なる方法による資金へのアクセスは可能だ」と、同氏は述べている。
一方、この1年間のダメージが明らかになるのは、まだ先のことになりそうだ。「ルーニャのような事例や、ソフトランディングとロールアップはさらに多くなると思う。企業のゆっくりとした消滅があるだろうが、記事になることはないだろう。このような企業は、『廃業した』という標識を立てたりはしないからだ」と、ドゥダ氏は述べている。
創設者や投資家によれば、これはD2C業界の何年にもわたる問題がついに顕在化しつつあることを示している。「我々はカテゴリー全体として、キャスパーやオールバーズ(Allbirds)から教訓を学ばなかった」。
[原文:DTC Briefing: The DTC bottom is finally falling out]
Cale Guthrie Weissman(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)