Amazonのセラーに対し新たな入荷制限が課せられ、パンデミックに突入してから1年半たった今も、Amazonのフルフィルメント体制に根強く残る課題が浮き彫りになっている。消費者需要が物流倉庫と人員の拡充を上回る勢いで急速に伸びるなか、Amazon がどれほどスペースの逼迫に悩まされているのかがわかる。
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Amazonの販売業者は、新たな在庫制限の影響を受けている。パンデミックが始まって1年半が経過した今も、Amazonのフルフィルメントシステムが抱えている課題は解消されていないようだ。
Amazonの物流倉庫への入荷に対して最初に制限が課せられたのは2020年7月。効果的な在庫管理実績を持つセラーも対象となっていて、パンデミックによるパニック買いの第1波が去ったあとも制限は残った。それがセラーに与え続けている影響を見れば、消費者需要が物流倉庫と人員の拡充を上回る勢いで急速に伸びるなか、Amazonがどれほどスペースの逼迫に悩まされているのかがわかる。
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セラーへの厳しい在庫抑制
ECエージェンシーのアミファイ(Amify)のCEOであるイーサン・マカフィー氏は「当社の取引先のほとんどで入荷制限の上限が引き下げられている」と話す。
あるセラーは9月第1週、大型商品(寸法、重量、または保管スペースに基づいて定義される)の入荷制限が4月には在庫数量3万9076個だったのが8月には6605個に急激に縮小されたとTwitterに投稿した。同様の話は数多い。別のセラーも、売上が伸びているにもかかわらず、7月中旬から大型商品の入荷上限が60%縮小されたとTwitterに投稿している。
顧客注文への迅速な対応をAmazonの物流倉庫に頼るセラーにとっては、さらなる在庫抑制を余儀なくされるこの状況はかなり厳しい。
(Amazonは公の発表で「セラーの取り揃えの拡大に対応するため、フルフィルメント・物流ネットワークを50%拡充し、米国内のAmazon本体に対する発注に制限をかけている」と述べ、「平均すると、セラーはAmazonの物流ネットワーク内に3カ月分の在庫を持っている」とも補足している。)
年末商戦に向けて再び制限が
今年のプライムデーに先立ち、一部のセラーのあいだでは入荷と在庫の制限を懸念する声もあったが、Amazonのセラーでありエージェンシーでもあるサッピーキック(SuppyKick)のブランドマネジメント担当ディレクターを務めるエイミー・シェイ氏は、プライムデー後に制限がすぐに元に戻り、「当社のプロセスが事業として特に影響を受けない状態になった」と話す。
だが約1カ月前、状況は再び変わり始める。もっとも考えられるのは、Amazonがブラックフライデーと年末商戦に向けて準備を進めているからだろう。シェイ氏は「ある朝出勤したら大型商品の保管スペースが大きく縮小されていた」といい、「翌週の出荷能力が限られてしまうほどだった」と付け加えた。
こうした制限は、商品のすべての種類に一様に課せられるわけではない。特に大型商品はほかの小さめの商品より制限が厳しいようだ。逼迫した倉庫で占めるスペースが大きいためだと思われる。シェイ氏は、サッピーキックで入庫制限のかけられた商品の「90%」が大型商品に集中していると推測する。ただし、Amazonが大型としているものは、一般に大型と呼ばれるものとは少々違う。たとえばAmazonではヨガマットも大型商品に分類される。
セラーの大多数がAmazonの物流倉庫に依存
このような状況はすべて、Amazonの根強い課題を指し示すものだ。現在、マーケットプレイスはAmazonの売上においてますます大きな割合を占めるようになっているが、そのセラーの大多数が在庫の保管をAmazonの物流倉庫に頼っている。少なくとも一部の注文で物流倉庫を利用しているセラーは91%、すべての注文で利用しているセラーは57%に上る。一方、Amazonではその対応に苦戦している。
Amazonにとってこれは新しい問題ではない。Amazonはことあるごとに倉庫を借り、ついには産業用不動産の最大の借り手となっている。ここ1年半を見ても、Amazonは新規産業用不動産リース全体の約7%を占め、ほかのどの企業より多い。とはいえ、フルフィルメントセンターをフル稼働にまで持って行くには時間がかかる。入荷制限は、Amazonが遅れを取っていることを示唆している。マカフィー氏は「商品に対する需要が大きすぎて、物流倉庫の用意が追い付かない」と話す。
これが実際にどれほど大きな問題かは、尋ねる相手による。マカフィー氏は、どちらかといえばAmazonが長期在庫の滞留を防ごうとしているのではないかと見る。「Amazonはセラーに対し、倉庫は商品を置いたままにするための場所ではない、商品はどんどん売ってほしい、といいたいのだと思う」。
マカフィー氏は、ほとんどの場合は制限によってセラーがピンチに陥ることはないはずだというが、一部の例外はあるそうだ。たとえば、販売実績のない新製品や季節ものの商品の場合は、Amazonの在庫制限が足かせとなってしまう可能性がある。
「Amazon以外」の選択も厳しく
その一方でAmazonは、入荷制限に不満を持つセラーがフルフィルメントについてほかの選択肢を選ぶことを難しくしている。Amazonの物流倉庫を経ずに自らフルフィルメント業務を行うセラーでも、「マケプレプライム(SFP)」というプログラムを通して、「プライム対象商品」という極めて重要な称号を得ることができるが、Amazonは今年、週末出荷への対応や、特定地域のみに対するプライム配送の廃止(今後は全国的にプライム配送に対応するか、プライム対象を外れるかの二択となる)など、マケプレプライムに対し一連の新規条件を追加した。これには、セラーにAmazonのフルフィルメント網の利用を促す目的もあった。
さらに、問題を抱えているのはAmazonだけではない。シェイ氏はセラーが出品者出荷に切り替えるのは「簡単ではない」と語る。それというのも、フェデックス(FedEx)やUPSをはじめとする配送業者がAmazon同様「かつてないほど繁忙を極めている」からである。
結局、Amazonの物流倉庫に頼ることが難しくなっても、代替手段の確保も難しいのが現状だ。マカフィー氏は「Amazonの主なメッセージは、倉庫スペースを単に不動在庫を置いておく場所としてではなく、売れる在庫を置く場所として活用してほしいということだ」というが、厳しさを増す制限はAmazonの事業拡大に伴う苦労を物語る。
増え続ける出荷とスペースの逼迫にどう応えるか
Amazonは米国の小売業者として、また、増え続ける何百万ものセラーの出荷とフルフィルメントを扱う業者として、どちらも両立させ、利用者にもセラーにもすべてを提供しようと、ある意味できること以上のことを約束してしまったのかもしれない。
「これが一時的な混乱だと思うのは甘いだろう」とシェイ氏は述べた。「サプライチェーンが追いついてパンデミック前の状況に戻るにはかなりの時間がかかるだろうし、実際戻れる日がくるのかすらもわからない」といいながら、予測するとするならば「Amazonはこれらの方針を当面続けるだろう」と話した。
[原文:Amazon Briefing: Tightening inventory limits continue to make sellers nervous]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:戸田美子)