Amazonのサードパーティ出品者の一部は自社でフルフィルメントを行う場合でも フリーリターン (送料無料で返品を受け付ける)に応じることを義務づけられる。Amazonでファッション商品を販売するすべての出品者は10月26日から、フリーリターンを受け付け、さらに返品コストも負担しなければならなくなった。
こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります
Amazonのサードパーティ出品者の一部は、自社でフルフィルメントを行う場合でもフリーリターン(返品の送料無料)に応じることを義務づけられるようになった。
Amazonでファッション商品(衣服、靴類、宝石類を含む)を販売するすべての出品者は10月26日から、顧客からのフリーリターンを受け付け、さらに返品コストも負担しなければならなくないという。
Advertisement
Amazonの社内フルフィルメントプログラムであるFBA(Fulfillment by Amazon)に登録している出品者にとって、フリーリターンは長いあいだデフォルトだった。しかし、自社でフルフィルメントを行っている出品者にとっては、フリーリターンはオプションだった。今回Amazonは、ファッションのカテゴリにおいて、これをビジネスの必須条件に変更した。Amazonのこの方針転換は、返品率と配送コストが急増しているときに行われたもので、Amazonが顧客フレンドリーなポリシーのコストをサードパーティの出品者に負わせ続けるという意味で、大きな影響を及ぼすことになる。
Amazonの狙い
FBAでもFBM(Fulfillment by Merchant/出品者によるフルフィルメント)でも、出品者はポリシーとしてフリーリターンを遵守することを義務づけられたが、これらの返品のコストがもっとも高額になるのは、おそらくFBM出品者になるだろう。AmazonはFBA出品者から少額の手数料を徴収するが、送料を全額請求しているわけではない。これに対してFBM出品者は、往復の送料を負担する必要がある。
代理店エンビジョンホライゾンズ(Envision Horizons)の創設者でCEOでもあるローラ・マイヤー氏は、「FBAの手法は、往復の送料を負担するよりもはるかに安いだろう」と語る。ファッション関連商品でフリーリターンを受け付けるという新たな義務が課せられたことで、出品者の多くは経費を削減するため商品をFBAに移行する可能性がある。おそらくそれが最終的なAmazonの目的かもしれない。「Amazonは、より多くの企業がFBAを使用するよう動機づけるため、さらに多くの施策を展開していくと考えられる」と、氏はAmazonについて述べた。
Amazonの方法が特に注目に値する理由は、同社がさらに多くの商品をフリーリターンのカテゴリに移行する一方で、ほかの小売業者はフリーリターンからしだいに離れつつあるためだ。顧客返品プラットフォームのナーバー(Narvar)の小売戦略担当シニアディレクターであるデヴィッド・モリン氏は次のように述べている。「過去10年間を振り返ってみると、フリーリターンが最良だという考え方は非常に一般的だった。5年前はフリーリターンが広く採用されていたが、今ではこの分野に多少の変化が見られるようになってきた」。
モリン氏は、ナーバープラットフォームのブランドや小売業者のうち、現在でもフリーリターンを受け付けているのは50%にすぎないと語る。氏によれば、顧客は一般的にフリーリターンよりもむしろ、簡単な返品方法を期待しており、ドロップオフ返品、箱なし返品、ピックアップ返品など多くの方法で商品を返送できることを求めている。
出品者たちの利益を圧迫
業者がフリーリターンから離れた理由にはコストの問題もある。ナーバーによれば、2020年の返品率は2019年より70%増加した。ブラケッティングと呼ばれる、顧客が2つの類似商品を注文して1つを返品し、もう1つを手元に残す行為が増加した。2021年には、ナーバーの調査対象となった顧客の58%が過去6カ月に少なくとも1回はブラケッティングを行ったと答えており、これはパンデミック前の40%から増加している。
これらはすべて、オンラインで販売を行う小売業者やブランドの利益を圧迫することになる。返品のコストはカテゴリと会社によって大幅に異なるものの、ほとんどの会社は往復の送料だけで6ドルから8ドル(約680円から900円)を費しているとモリン氏は推定している。この金額には、仕分けや在庫補充の費用は含まれていない。多くの企業にとって、「すべての消費者に対して100%フリーリターンを認めるのを今後も続けることはできない」ということがますます明白になりつつあると、氏は述べている。
一部の会社は、低価格帯の商品を対象に、商品の返品を求めずに商品の代金を返す「返却なしの返金」を試みている。安価な商品の場合、配送コストを考えると返品を受ける方がかえって損失が大きくなる。Amazonはこれを2017年から行っている。
しかし、多くの小売業者が、フリーリターンを約束することはあまりに多くのコストを要すると認めているにもかかわらず、Amazonはその方向に傾きつつある。
現在のところ、フリーリターンの条件はファッション関係の出品者に限定されているが、重要な問題は、Amazonがさらに多くの出品者に対して同じサービスの要求を開始するかということだ。その場合、さらにこれまで以上に多くのAmazon出品者にとって、自社フルフィルメントはあまりにコストの高すぎる方法になる可能性がある。
[原文:Amazon Briefing: The high cost of free returns]
Michael Waters(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Illustration by Ivy Liu