Amazon の広告プレイブックにより業界が再成形されたことを示す明確な証拠がある。業界全体の大手小売業者がAmazonの方法を模倣しつつあるのだ。ここ数年、クローガーやウォルグリーンなどの大手小売業者は独自の広告ネットワークを構築し、スポンサー枠をブランドに販売することを発表している。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、小売業の変革の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
Amazonの広告プレイブックにより業界が再成形されたことを示す明確な証拠がある。業界全体の大手小売業者がAmazonの方法を模倣しつつあるのだ。
ここ数年、クローガー(Kroger)やウォルグリーン(Walgreens)などの大手小売業者は独自の広告ネットワークを構築し、スポンサー枠をブランドに販売することを発表している。特にこの1年は、両社とも自社サイトでの広告ユニット数の拡充を開始した。
Advertisement
検索広告の販売に躍起になる小売業者たち
eコマース成長代理店のプロフィテロ(Profitero)のデータによれば、あらゆるタイプの小売業者が過去1年間で、検索結果に多くの広告を追加した。実店舗型小売業者の最大手であるウォルマート(Walmart)はその先陣を切り、検索結果の1ページ目に掲載される広告の平均数を2020年10月の1.9から、2021年8月には4.0に増やした。この数字は、2021年8月にスポンサー付き検索結果の枠が平均8.5個だったアマゾンをまだ大きく下回っている。Amazonはこの広告で大きな成功を収め、現在では各小売業者がこの成功を再現しようと躍起になっており、どれだけ多くの検索広告を販売しても大丈夫かという限界を試している。
ウェブサイトのトラフィックがそれほど多くないホーム・デポ(The Home Depot)、CVS、ロウズ(Lowe’s)などの小売業者も検索広告ビジネスを成長させてきた。ロウズは2021年5月の時点では検索広告を一切表示しなかったが、2021年8月にはページごとに平均0.1の広告を表示するようになった。またホーム・デポは2021年2月の時点で最初のページにおける広告を0.3から、2021年8月には1.9に増やした。
より多くの広告検索を構築するのは良い結果ばかりとは限らない。平均的な買い物客にとって、Amazonの検索結果は広告で埋まっており、どの項目が広告費が払われたもので、どれが広告費が払われていないものなのかを一目で見分けることがますます困難になってきている。実際にAmazonは、2020年12月にページごとの広告数が9.4の最大値に達したあと、この数カ月で検索広告の数を減らしている。しかしプロフィテロ(Profitero)のデータから、検索広告が買い物の操作を困難にするとしても、あらゆるカテゴリの小売業者が検索広告を採用しつつあることが示されており、Amazonの買い物環境はもうすぐ業界全体で模倣されるかもしれない。
データおよびグラフ提供:プロフィテロ
Amazonの広告モデルが証明したもの
製品検索広告の増加は、Amazonから引き起こされたことは明らかだ。Amazonが2010年代半ばに自社プラットフォームに検索連動型広告の枠を設けるまで、検索連動型広告を大量に販売しているサイトはほとんどなかった。マーケティングデータプラットフォームのスカイ(Skai)でマーケティング調査のシニアディレクターを務めているクリス・コステロ氏は次のように語っている。「Amazonは間違いなく、この方法を大規模に行った最初の会社だ。同社がこの方法を開始したことで、多くの人々がその可能性を見出すようになった」。
Amazonは、このモデルが多額の収益を生み出すことを10年しないうちに証明した。昨年の同社の広告ビジネス215億ドル(約2兆4500億円)の収益を上げた。Amazonは現在、検索を越えたさらに新しいビジネスとして、自社のファーストパーティデータをプラットフォーム外の広告用に販売することにも多額の投資を行っている。一方で、実店舗型の小売業者は依然としてスポンサードサーチ枠を軌道に乗せようとしている。
今日では、大手の小売業者のウェブサイトを訪問すれば、ほとんどの検索結果にスポンサー枠が表示される。プロフィテロのCMOであるマイク・ブラック氏は次のように述べている。「すべての小売業者が、自社のビジネスの将来が広告を販売する能力にかかっていると理解していることは明らかだ。「我々は、すべての小売業者がドミノ倒しのようにいっせいに並び、独自の広告ビジネスを始めているのを目の当たりにしている」と述べている。
大手小売業者にとって広告が重要なのは、自社ウェブサイトの「不動産」を収益化することが可能になるためだ。検索結果に広告枠を設けるのに多くのコストは必要ない。その分、小売業者は、たとえばより迅速な配送など、eコマースにおける収益性の低いほかの側面に資金を回すことができる。小売業者はAmazonと競合するため配送時間の短縮に多くの投資を行う一方で、別の場所で収益を得るために広告を使用する。コステロ氏は次のように述べている。「Amazonは明らかに、この種類の広告で多くの成功を収めており、その成功が模倣されるのはある意味必然だった」。
プロフィテロのデータは、小売業者がどれほど検索結果により多くの広告単位を投入しているかを示しているだけでなく、ウォルマートやAmazonが広告とどれだけ緊密に結び付けられているかも示している。プロフィテロが追跡した小売業者の中で、検索結果の最初の1ページ目に平均で2つを超える広告を表示していたのはウォルマートとAmazonのみだった。
この理由のひとつは、ウォルマートとAmazonがどちらも大規模なサードパーティのマーケットプレイスを抱えており、広告を熱望する売り手が数多く存在するためだ。ブラック氏は次のように述べている。「マーケットプレイスはAmazonの広告ビジネスを動かす動輪の1つだ。すべてのキーワードが数百、数千、あるいは数十万の売り手の競り合いの対象になる。最終的に、広告ビジネスを構築する最良の方法は競合を促進することだ」。
これは、広告ビジネスの成功にはマーケットプレイスが必要だという意味ではない。しかし少なくとも、企業が消費者に提供する検索結果が複雑になり、場合によっては不満を引き起こしてもやむを得ないという理由づけにはなる。
ブームはどこまで続く?
このような小売サイトでの検索広告のブームがいつまで続くのかは明確でない。コステロ氏は個人の意見として、このような種類の広告はまだはじまったばかりで、ブランドや特定の小売業者にとってどれだけの成功を収めることができるのかを明確に測定することは困難だとしている。Amazonの広告を除けば、「広告の効果を、直接的な広告費用対効果という観点から見たところ、小規模な業者が受ける効果の大きさには非常に広い幅がある」と氏は述べている。
また一部の小売業者は、自社の検索結果に多くの広告が表示されてしまい、その結果として消費者を遠ざけてしまう可能性を危惧するかもしれない。ほとんどの小売業者は消費者に表示する検索広告の数を増やしてきているが、広告単位の数を比較的一定に保っている業者もある。ターゲット(Target)の広告の数は、2020年9月には1.8で、2021年8月には1.9だった。ウォルグリーン(Walgreens)の広告数は同じ期間に1.08から1.18に変化した。
ブラック氏は、スポンサードサーチの検索結果の数が停滞している事例はあまり重視していないと述べる。「ある小売業者が多少停滞しているとしても、その業者が意図的に在庫をコントロールしているのが理由かもしれないし、あるいはビジネスを立ち上げるのに多少長い時間を要しているだけかもしれない」と氏は語る。
小売業者は依然として、広告ユニットをさらに増やす前に、自社のモデルを完成させ、ROI(投資利益率)を証明するための作業を行っており、これには時間が必要となる。ブラック氏は、小売業者がさらに多くの広告を導入するのは「時間の問題で、次々と発生するだろう」としている。この転換について氏は「時間を要するだろうが、それは意図した結果だろう」と述べている。
[原文:Amazon Briefing: Retailers are copying Amazon search advertising]
Michael Waters(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)