Amazon のベンダーやサービスは、M&Aの対象として注目される分野となっている。この動きはeコマースの代理店がAmazonでのサービスを強化しようと躍起であることを象徴しているだけでなく、あらゆるブランドにとってマーケットプレイスのサービスが不可欠になってきたことが業界全体で認知されてきたことを示している。
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Amazonのベンダーやサービスは、M&Aの対象としてますます注目される分野となっている。
もっとも新しい例はボブスレーマーケティング(Bobsled Marketing)で、3月1日にアカディア(Acadia)に買収されることを公表した。ボブスレーマーケティングはAmazonに特化した代理店で、50人ほどの従業員を抱え、約110の中規模ブランドと取引している。
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この動きは、eコマースの代理店がAmazonでのサービスを強化しようと躍起になっていることを象徴しているだけでなく、あらゆる規模のブランドにとってマーケットプレイスのサービスが不可欠になりつつあることが業界全体で認知されてきたことを示している。アグリゲーターがベンチャーキャピタルから数千万ドルを調達し、ウォルマート(Walmart)や、ターゲット(Target)、インスタカート(Instacart)、ゴーパフ(GoPuff)といった小売業者が独自の小売メディアビジネスを構築する傾向が拡大しつつあることから、Amazonやサードパーティのマーケットプレイスの世界は買収の対象として人気が高まっている。
プラットフォーム向けの代理店がますます支持されている
ボブスレーの創設者でCEOを務めるキリ・マスターズ氏によると、この1年余り、買収を検討している他社から関心を示されることが着実に増えてきた。「手を差し伸べてくれる人がいるというのは、とても嬉しいことだ」と同氏は述べている。同氏は買収の詳細を明らかにしていないが、2020年から2021年のあいだにボブスレーの収益が70%増加したと語っている。
アカディアの共同創設者でCEOを務めるジャリッド・ベルスキー氏が語るように、より包括的なサービスへの需要が増加しつつある。これは特に、小売メディア部門を有するeコマースプラットフォームが増えているためだ。「この業界の多くは、Amazonや、インスタカート、ウォルマートをありふれた広告ツールと考えているが、それは間違いだ」と同氏は述べる。これらのプラットフォームで成功するにはさらに多くの作業が必要となる。特に人気が出て複雑になった場合に顕著だ。「レビューや美しい店頭のキュレーション、在庫の把握などが重要となる」とベルスキー氏は述べている。
「小売メディアに目を向けると、非常に複雑な状態になっている」と、マスターズ氏は付け加えている。
小売業者とeコマースプラットフォームは、独自の広告ビジネスを構築するようになってきており、eコマースのサービス企業は、このサービスを提供することがより強く求められつつある。ボブスレーは特にこの点を重視しており、現在ではウォルマート、ターゲット、インスタカート向けにサービスを提供している。マスターズ氏によれば、ボブスレーのクライアントの10%は現在、同社のインスタカート広告サービス(同社が2020年に開始したもの)を有料で使用しており、7%はウォルマートのサービスを使用している。
Amazonでのビジネスチャンスが拡大している
代理店が専門技術を得るためにほかの代理店を獲得するのは、決して新しい現象ではない。マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)の創設者でCEOを務めるジョーザス・カジウケナス氏は、WPPによるマーケットプレイスイグニッション(Marketplace Ignition)の買収を例に挙げた。「これはおそらく最初の例のひとつだろう。それ以来、この分野で多くの買収が行われるようになった」と同氏は述べている。ほかの特筆すべき買収例として、eコマースサービス企業のアセンブリ(Assembly)がAmazonの商業ソフトウェアメーカーのヘリウム10(Helium 10)を2020年に獲得した例や、ティヌイティ(Tinuiti)がオルテガグループ(Ortega Group)を2021年に買い取った例が挙げられる。
最近になって変わったこと、あるいは加速したことは、Amazonサービスが、より多くのカテゴリーで、より多くのブランドに適応するようになったことだ。カジウケナス氏は次のように述べている。「Amazonは拡大を続けている。より多くのブランドがAmazonに対するある種の戦略を持つ必要性がでてきている」。
最近の決算だけを見ても、複雑さが増していること、そしてマーケットプレイスでの販売だけでなく、ビジネスチャンスが広がっていることを実感できるだろう。Amazonの2021年の収益は、前年比22%増の4698億ドル(約54兆円)だった。Amazonは、特に広告事業が310億ドル(約3兆5700億円)を稼いだと具体的な数字を明かしている。AmazonのCFOを務めるブライアン・オルサブスキー氏は、決算発表で、「スポンサー付き広告、ストリーミング動画、計測などの分野でイノベーションを続けることに期待している」と述べている。
マーケットプレイスパルスの最近の年間レビュー(year in review)投稿では、ショッピファイ(Shopify)のマーケットプレイス分野への進出や、Amazonの広告およびマーケティング事業の成長など、eコマースプラットフォームが提供する付随的なサービスの成長が示されている。Amazonのクリック単価は昨年、前年比43%増の1.33ドル(約153円)に達し、かつてオーガニックな検索と発見に頼っていたウェブサイトの領域は、広告ユニットによってますます影を薄くした。これらの付随的なサービスの成長に伴い、これらのプラットフォーム上で広告の活用を支援する代理店への需要も高まっている。
人材確保の課題も
このような成長が見られる一方で、能力のある人材の不足も深刻になってきている。たとえばAmazonアグリゲーターは2020年以降だけでも100億ドル(約1兆1500億円)以上を調達し、数十のブランドを買収し、プラットフォームのゲーム性向上を目指して人材を雇用している。セラシオ(Thrasio)やゴジャ(Goja)のようなトップ企業は、この1年間で巨額の資金調達(10億ドル[約1150億円]を少し超える)を発表し、また、Amazonのブランドを買収してeコマーステクノロジーサービスを構築する壮大な計画も発表した。「これは完全に常軌を逸している。これらのアグリゲーターは、わずかでも経験を持っている人なら誰にでも、白紙委任を与えているということだ。我々は皆、同じ人々を雇用しようとしている」と、マスターズ氏は語っている。
これにより、マーケットプレイスでのサービス拡充をめざしている代理店は、ますますその必要性を認識するようになっている。しかし、カジウケナス氏が説明したように、Amazon、さらには成長しているマーケットプレイス全般において、スキルセットはより多種多様で動的なものだ。同氏は次のように述べている。「独自に成功している多くのセグメンテーションや、単独ツールが存在する。しかし、明確な市場リーダーは存在しない」。
このため、eコマースサービス企業が買収によってより良いサービスのポートフォリオの構築しようとする可能性が高い。「我々のクライアントは、小売業での支援を切望している熱狂的な状態だ」とベルスキー氏は語っている。
[原文:Amazon Briefing: Interest in Amazon services and agencies is reaching fever pitch]
Cale Guthrie Weissman(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)