この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。 Amazonは11月2日、同社のアパレル実店舗「Amazon Style」を閉店すると発表した。この動きはAmazonの実店舗小売にお […]
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
Amazonは11月2日、同社のアパレル実店舗「Amazon Style」を閉店すると発表した。この動きはAmazonの実店舗小売における焦点が食料品店に絞られつつあることを示す一方、進化し続ける同社のアパレル戦略も浮き彫りにしている。
Amazon Styleが最初に登場したのは昨年で、すでに同社が実店舗小売の展開を調整しようと試みていた頃だ。Amazon 4-Starを閉店し、Amazonフレッシュの店舗を一部縮小したばかりだった。しかしAmazonは依然として、百貨店のあり方を見直す試みを続けていた。
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オフラインの体験にオンラインを持ち込む
Amazon Styleは、オフラインの体験にオンラインを持ち込むことを約束していた。この店舗の中心となるのは、買い物客がアプリを使ってアイテムをスキャンし、パーソナライズされたおすすめ商品を受け取ることだった。当時、Amazonが強く注力しているのは明らかにアパレルだった。ウォルマート(Walmart)を抜いて米国で1位のアパレル小売業者になったばかりで、市場全体の15%のシェアを占めていた。一方、Amazonはより多くのハイエンドブランドを取り込むことにも注力しており、ファッションブランドに対して、Amazonが単なるショッピングアプリを超えたものであることを納得させるひとつの方法として、より優れた小売体験を実現しようとした。
しかし、Amazon Styleが提供する特典は当初から、最高の店舗体験というよりも、便利さとテクノロジーに重点を置いたものだった。それがAmazon Styleの最終的な敗因となったかもしれない。
コンサルティング企業のクウォンティファイド(Kwontified)の共同創設者であるエレイン・クウォンは、「いくつか的外れな点があった」と指摘する。「とにかく定着しなかった」。
クウォンティファイドのブランドも、いくつかAmazon Styleの店舗で販売されていたが、この2年間でいくつかの問題が顕著になっていた。まず、テクノロジーに費やした労力は必ずしもプラスにならなかったということだ。「Amazon Styleがテクノロジーを統合した方法は魅力的ではあったが、購買体験における摩擦を生んでいた」とクウォン氏は述べる。
その意味で、店舗は目新しいものとして機能することがほとんどだった。人々は一回だけ店舗に入り、アイテムをスキャンして試してみたものの、戻ってくることはなかった。「人々が店に入ってスマートフォンを使うというのは、ちょっと不自然な体験だ」。
これは、おそらくもっとも顕著な問題点であり、Amazonが実店舗販売の方法を再考することにつながった。つまり、Amazonは、多くの人々にアパレルやそのほかの魅力的な商品をオンラインで買ってもらうことには間違いなく成功したが、小売店、特に高級百貨店はそれ以上のことをしなければならなかったのだ。
クウォン氏は、「勝つためには、空気感を生み出さないといけない」と語る。Amazon Styleの店舗はクリーンで新しいものの、この分野におけるほかの大手業者と比較して、そこで買い物をする価値があるか、明確な理由を示せていなかったのだ。
デジタル面における前進
これは、Amazonが小売を開拓しようとする試みのすべてにおいて直面している、おそらく最大の問題点を示している。つまり、実店舗の分野は、オンラインでうまく行った方法を再現すればいいというわけではない。そしてAmazonは、自社のことを実店舗よりも、むしろオンラインでアパレルを買える場所として、人々にどのように見てもらうかという側面に重点を置いているようだ。
実際に、Amazonはデジタル面において前進している。代理店のエンビジョンホライズンズ(Envision Horizons)の創設者であるローラ・メイヤーズ氏は、「Amazonは、どのようにして体験をより精選できるかということよりも、自社のコアとなるセットアップをどのように扱えばいいのかを模索しているのだと思う」と語った。
Amazonは明らかに、高級ブランドに自社を合わせようと試みてきた。たとえばコーチ(Coach)はこの9月から、Amazonのプラットフォームで販売を開始したばかりだ。しかし、この分野でAmazonが行っている取り組みは、すべてデジタル面におけるものだ。「Amazonの販売チームは、ラグジュアリーブランドをこのプログラムに載せるべく労力を注いでいる。確実に、ブランドの店舗をよりアクセスしやすく、簡単に見つけられるようにしている」と、メイヤーズ氏は述べている。
それ以外にメイヤーズ氏が気づいたアパレルへの取り組みは、新しいデジタルマーケティングプログラムだ。Amazonは、モバイルアプリのインスパイア(Inspire)タブを通じて、より多くのブランドがライブショッピングに投資するよう働きかけている。さらに、以前ならファーストパーティベンダーに委託してきたプログラムをさらに開放している。たとえば、これまでならサードパーティの売り手が利用できなかった「Try Before You Buy(試着後に購入)」機能をベータテストしてきた。
「必ずしも、Amazonがアパレルから離れるとは限らない。単に見直しを行い、実際にうまくいっているものに注力しているだけなのだと思う」と、メイヤーズ氏は述べる。
すでにアパレルに大きく傾倒している
店舗で販売されているブランドも、閉店には驚かなかった。たとえば、アパレル企業のトゥルークラシック(True Classic)は、早い段階で、シャツを店舗で販売しないかと誘われた。トゥルークラシックのCOOを務めるマット・カワドラー氏は、常にこれをAmazonが店舗体験の中で人気ブランドを紹介するためのマーケティング戦略だと見なしてきた。しかし、これが売上の大きな原動力になると考えたことはなかった。
「どのみち、これらの店舗は利益を生み出さないだろうと考えていた。Amazonの目的を考えたら、利益が出るとは思えなかった」と同氏は述べた。
とはいえ、これらの店舗が閉店するとしても、マーケットプレイス側での大きな戦略的変化を心配しているわけではない。「Amazonはアパレルに大きく傾倒している。今や、人々はアパレルを求めてAmazonを訪れるようになっているからだ」と、同氏は述べている。
Amazon自身も、このデジタルへの再注力を認めている。閉店のニュースが配信された際、広報担当者はブルームバーグ(Bloomberg)に対し、「十分に考慮した結果、Amazon Styleの実店舗を2店舗閉店し、オンラインのファッションショッピング体験に注力することにした。ここでは、新しい魅力的なセレクションをお得な価格で提供し、あらゆる顧客のニーズを満たす革新的なテクノロジーを導入する」と話した。
常に実験的である
「Amazon Styleの店舗の閉店は、Amazonのアパレルへの取り組みに大きな変化があることを示唆しているとは感じない」と、代理店のポディーン(Podean)の創設者兼CEOのマーク・パワー氏は、米モダンリテールへのメールに記した。「消費者インサイトは、人々がAmazonの売れ筋ブランドを知らず、衣服に触ったり触ったりする必要があり、また商品購入前に試着して、見た目やフィット感を確かめたいということだった」。Amazonが店舗のテストを望んでいたということは、実店舗をずっと続けることを意味しているわけではない。Amazonはいくつものプロジェクトを開始し、規模を縮小して、そこで得られた教訓を将来の試みに活かすことで知られている。
「Amazonは本質から常に実験的であり、今回はアパレルの実店舗をテストした結果、賃貸料の上昇、スタッフ確保の課題、返品、そして店舗のセキュリティ対策といった新たな問題を考慮すると、実店舗は難しいということを学んだ」とパワー氏は述べた。
そのため、この動きは驚くべきことではなく、おそらくはAmazonのやり方を強化するものだろう。そして、これはAmazonが高級ブランドとのパートナーシップを見直すということを意味しているのではなく、デジタル面を調整することにより多くの価値を見出すということだ。
「Amazon Styleが長期的に大きな成功とならなかったことは、驚くに当たらないと思う。これでAmazonの挑戦が終わりだとは思わない。私だったら、eコマースに眠っている機会に焦点を当てるだろう。まだまだ多くの可能性が存在するからだ」とクウォン氏は述べた。
[原文:Amazon Briefing: Following Style’s closure, Amazon’s apparel strategy zooms in on digital]
Cale Guthrie Weissman(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Amazon