Netflixは10月第3週、ウォルマート(Walmart)との提携により、公式グッズを消費者に直接販売することを発表した。Walmart.comの新しいハブには、イカゲーム(Squid Game)、ウィッチャー(The Witcher)などのNetflixの番組の公式グッズが並ぶことになる。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、小売業の変革の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
テレビや映画のストリーミング配信がエンターテインメント業界に旋風を巻き起こしているなかで、小売業者は商品販売をめぐって主導権を握るべく競争を始めている。
Netflixは10月第3週、ウォルマート(Walmart)との提携により、公式グッズを消費者に直接販売することを発表した。Walmart.comの新しいハブには、イカゲーム(Squid Game)、ストレンジャー・シングス(Stranger Things)、ウィッチャー(The Witcher)などのNetflixの番組の公式グッズが並ぶことになる。ウォルマートは、Netflixの番組について、どのようなスピンオフグッズが欲しいかを近日中にファンが投票できるようにするとも約束している。ウォルマートは投票で勝利したグッズを顧客が購入できるようにする。
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Amazonはこれまで、オンデマンドプリントのTシャツなどを販売するプログラム、マーチバイアマゾン(Merch by Amazon)を提供しており、バイラルなストリーミング番組での販売においてほぼ独占状態にあった。しかし、Netflixとウォルマートによる最新のパートナーシップにより、ウォルマートはグッズの販売において、Amazonに対して大きな優位点を持つようになった。同時に、Amazonとウォルマートの両方の販売業者が、バイラルの波に乗れるようなタイアップグッズを提供する競争を始めたことにより、両者のあいだでストリーミングの番組や映画のグッズを管理する競争が引き起こされることになった。
エッジ・バイ・アセンシャル(Edge by Ascential)のシニアインサイトマネージャーであるステファニー・デマスカス氏はストリーミング配信での販売について、「特に小売の環境が頻繁に変化している現状では、どの大手小売業者のエコシステムにおいても非常に重要だ」と語る。「このような番組はますますトレンドになっている。小売業者は進化して需要に追いつく必要があるだろう」。
Netflixの爆発的なバイラル効果
この移行を端的に示すのが、Netflixのテレビ番組「イカゲーム」の爆発的な人気だ。先週、イカゲームのグッズについての検索はAmazonマーケットプレイス(Amazon Marketplace)の上位を占めた。マーケットプレイス・パルス(Marketplace Pulse)によれば、Amazonマーケットプレイスでもっとも多く検索された用語は「イカゲームのコスチューム」で、男性向けコスチュームと女性向けコスチュームのカテゴリにおいて、売上上位5つのアイテムのうち4つはイカゲームのタイアップだった(Amazon以外でもイカゲームの影響は現れつつある。ファッションサイトのリスト[Lyst]は、イカゲームに登場するようなトラックスーツと白のスリップオンスニーカーの検索件数が、それぞれ97%と145%増加したと報告している)。
しかし、イカゲームより前にもNetflixは、人気のテレビ番組をコマースの原動力に変換する能力があることを長年にわたって実証してきている。昨年の秋、ザ・コンテイナー・ストア(The Container Store)はNetflixの番組である「THE HOME EDIT~暮らしを変える整理術~(Get Organized with the Home Edit)」と提携し、番組内で自社の収納ボックスを目立つように取り上げさせた。この番組が公開されたあとで、ザ・コンテイナー・ストアの売上は16.8%も急増し、同社はNetflixとの提携により自社の総売上に「相対的なハロー効果」を生み出したと、収支報告で豪語することになった。
eコマースの成長企業であるプロフィテロ(Profitero)は、Netflixの過去の人気番組がAmazonでの購入パターンをどのように成形してきたかを追跡した。テレビ番組「ブリジャートン家(Bridgerton)」がきっかけとなり、コルセットの検索件数が前年比で3661%も激増した。「クイーンズ・ギャンビット(Queen’s Gambit)」がリリースされると、チェスセットの検索件数が前月の857%も増大し、チェス関係の教本の人気も大幅に増えた。つまり、ストリーミング配信は洗練された販売経路であることが証明された。
サードパーティ販売業者の存在
Amazonとウォルマートのサードパーティ販売業者は、テレビ番組や映画が予測せずバイラルになったとき、販売されるグッズを供給するために特に重要である。テイカメトリクス(Teikametrics)のインサイトディレクターであるアンドリュー・ウェーバー氏は次のように述べている。「これらの販売業者が上位を維持する方法のひとつは、バイラルなストリーミング配信で何がヒットするか、その動向を監視することだ」。Amazonは「消費者がこれらの番組に関連するグッズを最初に探す場所のひとつ」であるため、バイラルな番組をいち早く見つけることで、大量の販売を確保できる。特にストリーミングの時代においては、人気のテレビ番組がわずか数週間で消えてしまう傾向があり、オンデマンドプリントの技法を使用するサードパーティの販売業者は、従来の小売店のバイヤーよりも、迅速に商品を提供することができる。そのため、特定の番組やキャラクターがインターネットで人気になったとき、小売業者が依然として利益を上げる方法は、サードパーティの販売業者を通したものとなる。小売業者にとって「次に何が大ヒットするのかを予測することは極めて難しい」とデマスカス氏は話す。「おそらく、ウォルマートのバイヤーはつい最近まで、イカゲームという番組が存在していることも知らなかっただろう」。
サードパーティの販売業者に頼るのはおもにAmazonの戦略だったが、ウォルマートがNetflixとの契約をきっかけにサードパーティから離れていくかどうかはいまだ明らかでない。ウォルマートは発表のなかで、Netflixのマーチャンダイジングに「命を吹き込む」ために「ウォルマートの販売業者」に頼ると述べた。これは、特定のサードパーティ販売業者と直接取引する可能性を示唆しているが、同社はまだ詳細をほとんど明かしていない。
Netflixは最初、自社独自のショッピファイ(Shopify)店舗を6月に開設し、バイラル小売戦略の収益化を試みた。これは視聴者がNetflixのオリジナル番組からグッズを購入できるようにしたものだった。しかし、この店舗は十分なトラフィックを集められなかった。シミラーウェブ(Similar Web)が米モダンリテールと共有したデータによれば、2021年7月から9月にかけて、Netflix.Shopの月間訪問数は17万8989件だった。これはディズニー(Disney)の店舗であるショップディズニー(ShopDisney)の月間トラフィックである809万7000件とは比較にならないほど少ない。
ウォルマートの反撃
ウォルマートをパートナーにすることで、Netflixほど強力な企業にとってもさらなる知名度が得られる。さらに注目すべき点として、ウォルマートはAmazonと異なり、映画やテレビの分野でNetflixと直接競合していない。ウォルマートにはAmazonプライムビデオ(Amazon Prime Video)に相当するものが存在しないためだ。さらに、メディアおよびコマース調査企業であるロックウォーター(RockWater)の設立者であるクリス・アーウィン氏によれば、「ウォルマートが膨大な数の消費者とのつながりを持ち、巨大なサプライチェーンを保有して、あらゆる場所の消費者に短期間でグッズを届けることができることを、Netflixは理解している」。同氏はさらに、「このサプライチェーンが競合における真の差別化要因となるだろう」と付け加えている。
テレビや映画のストリーミング配信は、現在のオンライン市場でグッズの熱狂的な人気を引き起こしているおもな要素だが、Amazonはほかのカテゴリーにおけるグッズの提供でも成長を画策してきた。Amazonは昨年、特に音楽やスポーツのグッズにおけるシェア拡大に取り組んできた。たとえばAmazonミュージックはAmazonプラットフォームでのみ入手できる独占グッズと曲をセットで販売している。またAmazonは、NFLとの間でサースデーナイトフットボール(Thursday night football)のストリーミング配信の大きな契約を締結した直後に、NFLグッズの非公式ベンダーの取り締まりを開始した。
ウォルマートがNetflixとパートナーシップを結んだことは、ウォルマートが反撃を開始すること、そして両社ともグッズの契約を獲得することでほかと一線を画そうと考えていることを示唆している。
[原文:Amazon and Walmart are duking it out over streaming merch]
Michael Waters(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)