[ DIGIDAY+ 限定記事 ]Googleが何か大きな変更をすると、それが必ず市場に波及する。同社が誓約しているセカンドプライスオークションから統合型ファーストプライスオークションへの移行も例外ではない。この動きが、実際どの程度影響するのかは、変化が行き渡る今後数カ月で明らかになっていくだろう。だが、いまのうちに勝者と敗者を考えてみたい。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]Googleが何か大きな変更をすると、それが必ず市場に波及する。同社が誓約しているセカンドプライスオークションから統合型ファーストプライスオークションへの移行も例外ではない。
ファーストプライスオークションが当たり前の状態に市場が順応すれば、その後に来るのは不安定な変化の時期だ。しかし、大きな変化には必ず長所と短所がある。
この動きがパブリッシャーの収益や価格設定パターンに、実際どの程度影響するのかは、変化が行き渡る今後数カ月で明らかになっていくだろう。だが、いまのうちに勝者と敗者を考えてみたい。
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勝者 / Winner
Google : Googleがパブリッシャー向けに計画しているアドサーバーとアドエクスチェンジ、すなわちGoogleアドマネージャー(Google Ad Manager)への変更内容は、大きくふたつのバケットにわかれている。ひとつは、アドエクスチェンジをセカンドプライスからファーストプライスのオークションに移行させること。そしてもうひとつは、アドサーバーへの統合オークションの導入である。どちらも大きな変更だが、デジタルメディアの専門家からは、ふたつのうち後者がより重要で、Googleに今後大きな利点をもたらすものになるのではないかという声も上がっている。
一説として言われているのが、オークションをひとつに統合しようという今回のGoogleの動きでは、セカンドプライスオークションに戻す可能性へのドアがしっかりと開いたままになっているということだ。ファーストプライスオークションへの移行は、ヘッダー入札の台頭によって大量の逐次型オークションが同時発生するようになった現状を考えると理にかなっている。この変更は、パブリッシャーのオークションプロセスを簡略化するものとして訴求されてきており、パブリッシャーは諸手を挙げて歓迎するだろう。だが、ヘッダー入札によって存続してきた複数オークションというシナリオは、数年後にはなくなるだろうと考えるデジタルメディア専門家もいる。
「条件さえ整えば、Googleはほぼ確実に(セカンドプライスオークションに)戻ってくるだろう」と、最新のニュースレターにそう書いているのは、アドテクコンサルタント企業アドプロフス(AdProfs)の創業者、ラトコ・ビダコビッチ氏だ。「そのときには、パブリッシャーにとって、Googleのヘッダー入札製品であるエクスチェンジ・ビディング(Exchange Bidding)が新たな需要の源を取り込むもっとも簡単な方法になる一方で、Googleはすべての取引から5%の使用料を取っていくようになる」。
それと同時に、Googleによる今回の変更は、競合アドエクスチェンジとの競争を阻害するものになる可能性もある。
あるデジタルメディアパブリッシャーの幹部は、「英国の大手パブリッシャーのほとんどがGoogleアドマネージャーを使っており、私たちが欲しいのは、特に考えなくても成功できる道なのだ」と語った。
パブリッシャーのデジタル広告収入 : パブリッシャーのデジタル広告収入は、少なくとも短期的には増加するだろう。ファーストプライスオークションでは、もっとも高い値段をつけたところが勝つので、バイヤーは自分が提示した金額そのままを払う覚悟をしておかねばならず、また競り勝つためにはより高い金額を提示しなければならない。セカンドプライスオークションの場合、落札者は、2番目に高かった提示価格より、1ペニー、1セントだけ高い金額を支払えばいい。ふたつの提示価格の差が、非常に大きくなることもある。バイヤーが最高提示額を支払うのが新基準となれば、当然ながら広告収益は高くなる。だが、メディアエージェンシーが入札戦略を磨いてくれば、その収益も横ばいになるだろう。
「バイヤーのなかには、変化する(オークションの)ダイナミクスに適応できない者も出てくるので、短期的にはパブリッシャーの広告収益は増加するはずだ」と、エッセンス(Essence)で、欧州・中東・アフリカ向けプログラマティックの責任者を務めるマット・マッキンタイア氏はいう。「だが、これ(ファーストプライス)はバイヤーにとって戦略を立てやすいオークションになるので、時間が経つにつれ、パブリッシャーに不利になっていく可能性がある」。
プログラマティックギャランティード取引からの収益 : パブリッシャーからはすでにプログラマティックギャランティード(保証型のプログラマティック取引)からの収益が急増しているとの報告が上がっているが、Googleの動きはこれを加速させる可能性がある。一部の観測筋によれば、これがパブリッシャーにとっては、ファーストプライスオークションで高すぎる金額を払うリスクを取りたくない広告主と、より緊密な関係を築く新たな理由になるというのだ。「今回のGoogleの動きによって、プログラマティックギャランティード取引の形勢が変わるのではないだろうか」と、アクセンチュア(Accenture)のデジタルマーケティング責任者、アミール・マリク氏はいう。「入札するのであれば、そのユーザーやインプレッションに対して、自分のところがライバルの広告主より多く支払おうとしていることを把握しておかなければならない。けれども、パブリッシャーと直接関係を築くことができれば、不公平でも競合ブランドよりも優位に立つことができる。その魅力には抗いがたい」。
パブリッシャーがうまく切り札を使えば、広告主を購入に走らせるような環境を作り出すこともできるだろう。効率を重視する広告主にとってもメリットがあり、Win-Winの関係となれると、マリク氏は付け加えた。
ビッドシェーディングツールを持つベンダー : 市場がセカンドプライスオークションとファーストプライスオークションの両方にまたがっているという厄介な状況のなか、最悪の影響を被っていると感じているのがバイヤーたちだ。勝つためには2番目に高い提示額よりも1ペニーか1ドル高く提示すればよかったセカンドプライス決済に基づく入札をしていたのに、突如、ファーストプライスオークションになり、確実に入札するにはより高い金額を支払わなければならない羽目になった。眉間にシワを寄せたバイヤーたちをなだめようと、一部のデマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)やアドエクスチェンジが考え出したのが、ファーストプライスの世界でバイヤーたちが支払う金額を下げられるようにする方法、すなわちビッドシェーディングである。これを先取りしている独立系ベンダーは有利な立場に立てるだろう。
敗者 / Loser
クライアントサイドのヘッダー入札 : ヘッダー入札は、セカンドプライス環境でパブリッシャーの収益を最大化させるには効果的な方法だったが、欠点もあった。そう、ページ読み込みのレイテンシー(遅延)である。オークションの負担が、パブリッシャーのヘッダーからアドサーバーに移されたサーバーサイド入札が普及したのも、自然な進化と見なされていた。だが、今回のGoogleの動きはヘッダー入札の終焉を加速させるだろうと考えているデジタルメディア専門家は複数存在している。ある全国的大手パブリッシャー幹部などは、ヘッダー入札は今後3年以内に消滅すると予測している。ここまで極端な予測ばかりではないが、未来はサーバーサイド入札と統合型オークションにあるという点には、複数のデジタルメディア幹部が同意した。
「運用の面から言って、Googleのアドサーバーを使っており、そのGoogleが今や完全に統合されたオークションを提供しているのだから、プレビッド(prebid)など、クライアントサイドの(ヘッダー入札)テクノロジーを使う必要性が感じられない」と、あるパブリッシング幹部はいう。「パートナーをエクスチェンジビッダーに組み込み、サーバーサイドも一体となった統合型オークションで競ってもらえばいいだけなのだから」。
「ヘッダー入札は、統合型オークション市場から排除されるだろう」と、ある全国規模のパブリッシャー幹部はそう言い添えた。
独立系アドエクスチェンジ : 率直に言おう。Googleが自社のサービスを強化するためにすることが、独立系エクスチェンジに有害な影響を及ぼすというのはよくあることだ。この最新の変更により、DSPはパブリッシャーのアドサーバーに直接入札できるようになる(ほとんどのパブリッシャーがGoogleのアドサーバーを使っている)。つまりGoogleによって、仲介業者の必要性が事実上失われてしまったのだ。あるデジタルメディアパブリッシャー幹部は「独立系テックベンダーと、この新しいエコシステムにおける彼らの立場が心配だ」と語った。
マーケター : プレミアムなパブリッシャーは長らく、いかに自社のインベントリー(在庫)から引き出せる価値を高めるかに重点を置いてきた。ファーストプライスオークションの世界でも、ほとんどのプレミアムパブリッシャーが、自社のサイトやコンテンツ、インベントリーは、高くなるであろう入札価格に見合うものだという自信を持っている。長期的に見れば、この変化のなかに、マーケターにとってもチャンスがあるだろう。だが、短期的には、できるだけ低い、あるいは高い金額で入札するというシンプルな入札方法に比べて高度な入札戦略をバイヤーたちが理解しなければならないため、マーケターの頭痛の種は増えるはずだ。
ソフトフロアプライス設定 : プログラマティック環境において、パブリッシャーは、ソフトフロアプライス(これを下回る提示額しかなければファーストプライスオークションに、これを上回る提示額があればセカンドプライスオークションになるという基準価格)とハードフロアプライス(これ以下では販売できないという最低落札額)の両方を使っている。メディア幹部らは、ファーストプライスオークションがデフォルトになれば、ハードフロアに戻らざるを得ないだろうと予測してきていた。
「ハードフロアプライスに戻さなければならない。さもなくば、バイサイドのテクノロジーは、こちらが非常に低いフロアプライスを設定している、またはフロアプライスを設定していないと判断して入札の提示金額を少し下げてくるだろうし、その結果こちらの収益が減少する」と、あるパブリッシャー幹部は語った。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)