[ DIGIDAY+ 限定記事 ]Googleに対して、世界中のデータプライバシー監督機関に協力させようとする圧力が強まっている。メディアや広告会社の幹部によると、この圧力はGoogleが計画する今後のプロダクトロードマップに影響を与え、ほかのメディアや広告の市場に長期的な影響を及ぼす可能性があるという。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]Googleに対して、世界中のデータプライバシー監督機関からの圧力が強まっている。
メディアや広告会社の幹部によると、この圧力はGoogleが計画する今後のプロダクトロードマップに影響を与え、ほかのメディアや広告の市場に長期的な影響を及ぼす可能性があるという。これが良い影響をもたらすのか、それとも悪い影響をもたらすのかという点が議論の的になっている。
確かなのは、技術革新の面で信頼のおける明るいかがり火のようなイメージを持つGoogleに負担がかかっているということだ。企業が広告のターゲティングなどを目的として、顧客の個人データを収集・保存・使用する方法に対する規則の厳格化が、ヨーロッパの国境を越えてアメリカ、そして、オーストラリアや日本などの別の国に広がってきた。アメリカ議会は、カリフォルニア州が、ヨーロッパのEU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)に相当する、消費者プライバシー保護法(Consumer Privacy Protection Act)で一歩先んじていることにならい、連邦プライバシー法案を可決するかどうかを検討中だ。一方で、ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)によると、アメリカ合衆国司法省(the Justice Department)は、Googleに対する独占禁止法違反の有無の調査を新たに準備中だ。
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「これは重要だ。なぜなら、2~3年前のアメリカ政府の見解では、Googleは間違ったことは一切しないだろうと考えられており、Googleには後光が射していた。いまやもう、それはない」と、アメリカのパブリッシャー業界団体であるデジタルコンテンツネクスト(Digital Content Next)で、CEOを務めるジェイソン・キント氏は言う。
これに加えて、Appleが、積極的にユーザーデータプライバシーに配慮した企業という位置付けを打ち出し、同社のSafariブラウザでサードパーティによるクッキー追跡をデフォルトでブロックするようになった。Googleは、そのような強力なマーケティングメッセージに押され、劣勢に立たされているように見られたくないと考えている。
広告会社幹部の大半が、Googleは今後、さらに制裁金が科されることを回避し、Appleに対する競争力を保ち、自社をユーザーのプライバシーに配慮する企業として位置付けるために、同社が生み出す今後の製品にデータプライバシー機能を導入するだろうと考えている。
一部のパブリッシャーや技術ベンダーにとって、これは問題だ。昔ながらの経験則から言えることは、規則は必ず現在優勢な側に有利に働くようになっており、そのため、しばしば力のあるものが自分の支配的な立場を固めるために利用するということだ。当初、パブリッシャーやエージェンシー、アドテクベンダーに混乱を引き起こしたGoogleによるGDPR戦略に対する土壇場での変更は記憶に新しい。アドテクの情報筋によると、YouTubeがサードパーティの広告技術ベンダーによる同社プラットフォームへのアクセスをGDPRへの準拠を理由に掲げてブロックしたとき、これは不快な措置だと受け止められたという。このプラットフォームでは、現在では再度アクセスが許可されているが、ターゲティングには制限が課せられているという。
その一方で、エージェンシーは依然として、ダブルクリックユーザーID(DoubleClick user IDs)がGoogleのログファイルから失われたことを嘆いている。これは、同技術プラットフォームがGDPRを理由に、昨年廃止してしまったものだ。「ダブルクリックユーザーIDがログファイルから喪失したことで、同業界の多くのサービスが失われた」と、エージェンシーの幹部は言う。
Googleの最新版Chromeのプライバシーアップデートは、あらかじめ身構えていたアドテク業界の多くの企業にとって、決してそれほどの大惨事的なものではなかった。Googleは、AppleのITPの歩みに率直に歩調を合わせるのではなく、ユーザーにサードパーティによるクッキー追跡をブロックするか否かの選択肢を与える、より慎重なアップデートを発表した。こうしたことで、誰もが眉をひそめた懸念の大半を解決したが、多くの人が、このアップデートはGoogleが自社の広告ビジネスの利益を守り、反競争的行為で告発されないように、より段階的に進められているものの、このアップデートを今後、より厳格な変更が加えられそうな前触れだと考えている。
「後に生じる波及効果で怒りを招くことになるだろう」と、グループ・エム(GroupM)でビジネスインテリジェンス部門のグローバルプレジデントを務めるブライアン・ウィーザー氏は言う。
プライバシー時代に足を踏み入れたGoogle
ほかの企業も潜在的な影響についてそれほど安穏としているわけではない。ChromeのアップデートやGoogleがデータプライバシーを遵守する名目で閉鎖するプラットフォームを増やす可能性について、これは同社がIABヨーロッパ(Interactive Advertising Bureau Europe)主導のGDPRコンプライアンス標準(透明性と同意のフレームワーク[Transparency and Consent Framework(TCF)])を業界として試験的に適用してみようとする不吉な兆候だと解釈しているパブリッシャーもある。
「問題は、TCFは素晴らしい取り組みであるが、その進展が緩慢なことにある」と、匿名を条件に大手ニュースブランドのパブリッシャー幹部は言う。「この進展が緩慢であるほど、Googleは事前の準備をする機会が得られ、ある種のプライバシーツールを独占するようになるだろう」。
Googleは、TCFの第2版が策定されると、TCFに参加することに常に関心を持っていることを繰り返し表明している。
「私たちはサードパーティによるクッキー追跡の存在があることに苦しむ最後の世代だ」と、アドテクベンダーであるインフォサム(InfoSum)で営業部門のバイスプレジデントを務めるスチュアート・コールマン氏は言う。「現在、これはGoogleにとって大きな恵みだ。現在、我々が設定する業界としての姿は、プライバシーが大きな収益を得る機会につながる」。
Googleはデータプライバシーに対する責任を真剣に考えており、その要件を満たすために実施可能なことをあらゆる面で遂行していると多くの人は確信している。最終的に、この業界はGoogleが新たなデータプライバシーのアップデートを出すことを静観しながら待つのではなく、独自の解決策を自社で模索する必要がある。
「短期的には、破滅だ、暗黒だ、窮状だと叫び、走り回ることになるだろう」と、ルビコンプロジェクト(Rubicon Project)のCTOであるトム・カーショー氏は言う。「そして、次の朝に起きて、いまもここで問題なく生きていることが分かる。10年前に広告にサードパーティクッキーが使用されていなかったことなど忘れる。それで良いのだ。この業界がサードパーティクッキーを利用せずに広告を提供できるようになる方法はたくさんある」。
そういった状況にも関わらず、データプライバシーは、遠からず最大手4つの技術プラットフォームの戦場となる可能性があると話すアドテク幹部もいる。
「Googleは現在、Amazonが広告における競合他社として浮上してくると見ている」と、アドテクベンダーのサブライム(Sublime)のCOO(最高執行責任者)、アンドリュー・バックマン氏は言う。「最大手の4つの企業(Apple、Google、Facebook、Amazon)に対する責任追及があり、(データプライバシーに関して)完全に運営体制が整っていない企業を指弾しようという動きがある」。
どちらにしても、これはアドテクに長期的な影響を及ぼすだろう。
「Appleはデータプライバシーを攻撃的に使用しているが、Googleにとってプライバシーは最低限必要な手持ちの賭け金のようなものだ」とロンドンメディアエクスチェンジ(London Media Exchange)でCEO(最高経営責任者)を務めるダン・ウィルソン氏は言う。「Googleは個人を認識する情報や電子メールアドレス、広告ビジネスを成功させるために必要なすべてのものを有しており、(厳格に規制されたデータプライバシーの世界において)この権益を守っている。Googleは、『私たちは消費者の利益を最大化するように動いている。そして、私たちはすべてのアドテクベンダーをつなぐ可動橋を跳ね上げて通れなくした』と主張できるだろう」。
AppleのSafari、そして、Mozilla、Firefox、BraveなどすべてのブラウザはすべてWeb上でのトラッキングを制限している。
「Chromeに関しては、(体制を変えることを)1~2年待つことができれば良かった。ブラウザの市場シェアを失いはじめたら動き出すつもりだった」と、キント氏は言う。「あるいは、先手を打って、以前から存在するルールは維持しながらトラッキングの防止もできただろう。ここで大きな問題は、こういったことがどのようにGoogleによるトラッキングに影響を与えるかということにある。ほかのすべてのアドテク企業に対しては異なるルールを適用することになるのだろうか?」。
GDPRから大きな恩恵を受けたGoogle
GDPRが施行される前は、GoogleとFacebookはどちらも法のおかげで収益を上げていたというのが一般的な共通認識であったが、GDPRが策定された理由の一部が、ヨーロッパにおいて大規模なプラットフォームがより優位になることを防止すると同時に、消費者のプライバシーの権利を守るためのものであったことを考慮すると、これは皮肉な展開だ。たとえば、企業は各々が多数のログインユーザーを有しているが、このユーザーは各社にあらゆるパブリッシャー以上の優位性を簡単に与え、その優位性を与えられた企業は、おそらく、消費者の個人データを使用するにあたって消費者の同意を得やすくなるだろう。必然的に、反対の見解を持つ人も存在する。
1年が経過し、GDPRが不注意にもGoogleを強化したと考えている人は、いまなお多い。「監督機関はこのデータを管理しているFacebookやGoogle、Amazonの勢力や支配力を抑えようとしていたが、事実上、それらの企業がデータの使途を限定し、自社独自の目的のために使用する完全な自由を与えた。これは、意図しない結果のひとつだ」と、広告サーバー会社、フラッシュトーキング(Flashtalking)でマネージングディレクターを務めるサイモン・ソーン氏は語る。
Googleは長年にわたり、ヨーロッパの監督機関といたちごっこを続けてきた。その結果が、約82億ユーロ(約9940億円)にも上る独占禁止法違反による罰金の累積だ。のちに、フランスのデータ保護当局であるCNILによって科された少額の罰金もあった。こちらでは、GoogleがGDPR違反を犯したとして、5000万ユーロ(約60億円)の罰金が科された。
Googleの親会社であるアルファベット(Alphabet)は4月、広告収益の伸びが前年の24%から下降して15%の上昇へと鈍化し、307.2億ドル(約3兆3200億円)となったと発表した。欧州連合(European Union)が不正な広告戦略に対して科した17億ドル(約1840億円)の罰金がGoogleの収益を圧迫したことが広く報道された。ヨーロッパや中東、アフリカにおける収益の伸びは対前年比で29%から13%に下降した。
YouTubeもクリック数が減少した。このときには、Googleの主任財務担当者であるルース・ポーラット氏が、このYouTubeのクリック数増加の減速はブランドセーフティ管理の強化のために行った必要なアルゴリズムの変更が原因だと述べた。
「重要な点は、なぜ収益の増加が減速したかではなく、その前の2年間に収益が非常に高かったかということにある」と、ウィーザー氏は言う。「Googleは非常に長いあいだ、20%の伸びを維持できていた。これこそが特に驚嘆すべきことだ。収益増加の減速は避けられない」。
この収益の下降のほうが重大だと考えている人もいる。
「Googleが収益の伸び率を1%下降させた場合、世界レベルで見れば、1年あたりで10億ドル(約1070億円)を超える額だ」と、キント氏は言う。「そのため、これらの小さな変動は非常に重要だ」。
アルファベットの株式価値を8%下落させた誘因を明らかにすべく、この下落を引き起こした可能性のある理由に関して考察がなされた。ブレクジット(Brexit)の不確実さが引き金となって広告主の慎重さが増したことや通貨変動などをはじめとして、考え得る要因は枚挙にいとまがない。
また、GDPRがきっかけとなって、誰が、もしくは、どういったものが自分たちのデータを管理しているか、また、誰がそのデータにアクセスできるのかについて広告主はより慎重に考えるようになった。「多くの技術契約がエージェンシー主導や持ち株グループレベルで行われてきたが、GDPR規制の別の波及効果として、これらは個々の技術企業と契約関係を結ぶ必要のある広告主レベルで行われるようになってきた。その結果、業界の動きが鈍化し、小規模な企業にとっては困難が多くなった」と、ソーン氏は言う。
メディアエージェンシーの幹部のなかには、セカンドプライスオークションからファーストプライスオークションへと移行した市場の変化が広告料金を下降させている理由である可能性があるとする人もいる。なぜなら、現在、メディアエージェンシーは以前にもまして入札戦略に慎重だからだ。
それにも関わらず、GDPRがこの広告料金の下降の原因である可能性があると考えている広告業界の幹部は多い。「(法令に準拠するために)必要な対応や要因のひとつがGDPRでなかったとしたら、私は非常に驚く」と、ソーン氏は述べた。
Jessica Davies(原文 / 訳:Conyac)