動画サービスの均一化、「NowThis」はどう向き合ってる? : 分散型メディア先駆者のいま

動画パブリッシャーのNowThis(ナウディス)は、ネイティブコンテンツを求めるプラットフォームを利用し、驚異的な成長を遂げた最初期のデジタルメディア企業のひとつだ。現在、それらプラットフォームの均一化が進むのに伴い、NowThisの動画戦略は次なるフェーズに突入している。初期のメディア企業の多くは、桁外れな視聴数を前提とした動画戦略をとっていたが、視聴数はいまや低下の一途をたどっているからだ。

チューブラー・ラボ(Tubular Labs)のデータによると、Facebook、Twitter、インスタグラム(Instagram)、YouTubeの各プラットフォームを合わせたNowThisの月間動画視聴数は、過去12カ月間で50%減となり、2018年6月の15億回から2019年5月には7億2900万回に数字を落としている。減少分の大半は、Facebookでの視聴数が低下していることによるものだ。FacebookはいまなおNowThisの視聴数の多くを稼いでおり、チューブラー・ラボによると、NowThisが5月に記録した7億2900万回のうち、Facebookでの視聴数は5億5300万回、1年前の2018年6月には13億回を占めていた。一方で、同時期にNowThisが視聴数を大きく伸ばしたプラットフォームもある。YouTubeでの月間視聴数は2018年6月の760万回から2019年5月は2050万回に増加、またTwitterでの視聴数は同時期に7340万回から9720万回に増加している(チューブラー・ラボ調べ)。

当のNowThisは、上記4つのプラットフォームだけで全体を評価することはできないと指摘する。広報担当者によると、Snapchat(スナップチャット)など上記以外のプラットフォームも含めたNowThisの自社調査では、前年からの視聴数低下は30%未満にとどまるという。

「視聴数欲しさに稼いだ視聴数など、無意味な指標だ」と、NowThisのプレジデント、エイサン・ステファノプロス氏は話す。「我々は、エンゲージメントと視聴時間に非常に重点を置いている。それが我々の注目する重要指標だ」。

視聴数と売り上げは別物

同時期に、NowThisのFacebookにおけるブランデッドコンテンツ配信も低下している。ブランドトータル(BrandTotal)の分析によると、2019年の上半期に、NowThisがFacebookで得た動画視聴がスポンサード投稿の閲覧につながった回数は、2018年上半期と比べて79%減少した。

気がかりな数字だが、それでも視聴数と売り上げはあくまで別物だ。実際、NowThisによると、同社が2019年上半期にFacebookから得た収入は前年同期から増加しており、Facebook関連の売上予測を上回るペースだという。具体的な売上高は明らかにしていないものの、NowThisによると、この売上増は、スポンサーシップ契約やミッドロール広告など、複数の方法でマネタイズ可能な長編動画の制作に力を入れている戦略のおかげだという。

最大配信先の視聴数は落ち込んでいるものの、NowThisは引き続き複数のプラットフォームで登録者数を伸ばしている。チューブラー・ラボのデータによると、NowThisの全プラットフォームを合わせた登録者数は、過去12カ月間に600万人(15%)増えて4500万人に達している。NowThisの調べでは、Snapchatと中国の一部ソーシャルプラットフォームにおける伸びが奏功し、合計登録者数は60%増えているとのことだが、スナップ(Snap)との取り決めによって具体的な数字は公表できないという。

またニールセン(Nielsen)のデータによると、NowThisは依然として米国の20歳人口の72%にリーチしている。

各SNSへ同時に配信

プラットフォームにまたがるリーチは、長編で質の高い動画を複数プラットフォームに配信するというNowThisの目下の戦略の要だ。インスタグラム、Snapchat、Facebookなど、プラットフォーム別に異なるコンテンツを制作する代わりに、NowThisは、複数のプラットフォームに一度に配信できる長編デジタル番組の制作にますます力を入れるようになっている。

この種のコンテンツを専門的に手がけているのが、NowThisの独立した部門であるナウディス・オリジナル(NowThis Originals)だ。2019年1月に正式発表された同部門は、現在シリーズ番組を15本配信しているほか、制作中の番組も25本控えており、NowThisによると、昨年の今ごろ制作中だった15本から番組数を増やしている。同社広報の話では、NowThisがリリースした番組の約75%が、最低3つのプラットフォームで配信されているという。

「我々が注目しているのは、どんなタイプの番組が複数のプラットフォームにまたがって深いエンゲージメントを獲得しているかということだ」と、ステファノプロス氏は話す。「我々は、自社が構築したチャンネルとオーディエンスに合致した番組を制作している。そのおかげで先行者利益を失わずにいられた」。

動画サービスの均一化

たとえば、ポップカルチャーに登場する悪役を取り上げる番組「スラッシュ・コース(Slash Course)」は、Snapchat、Facebook、YouTubeで配信されており、また、メインストリームでないコミュニティに属するインフルエンサーを紹介する番組「シーン(Seen)」は、Facebookのような大手プラットフォームでも、インスタグラムのIGTVのような新興プラットフォームでも配信されている。「シーン」はこれまでに、IGTVで計100万回を超える視聴数を記録している。

一部のケースでは、NowThisはFacebookなどのプラットフォームから資金提供を受けて番組を制作している。それ以外のケースでは、複数プラットフォームに配信されるプレロールおよびミッドロール広告をスポンサーに販売することで、番組のマネタイズを図っている。

しかし、いずれのケースにおいても、NowThisが利用しようとしているのは、ソーシャルプラットフォーム間で進む動画サービスの均一化だ。従来型テレビの広告マーケットから流れてくると予想される広告費を狙って競い合うなかで、各プラットフォームの動画サービスはますます違いがなくなりつつある。

「すべてのプラットフォームが、互いの製品機能を真似するようになっている」と、NowThisの広報担当者は話す。「そうしたプラットフォーム側の動向に応じて、当社は戦略を進化させているわけだ」。

スケールとクオリティの問題

これらの新たな番組は、広告主やエージェンシーを引きつけている。彼らにとってNowThisは、スケールとクオリティを兼ね備えたいまなお魅力的な存在だ。

「NowThisにはその力がある」と、広告およびコミュニケーションのエージェンシーで、政治関連の広告主を扱うタルボット・デジタル(Talbot Digital)の創業者クリス・タルボット氏はいう。「魅力的なストーリーを提示したり、ブレークスルーのきっかけをつかんだりすれば、NowThisがその広告のインパクトを最大限に高めてくれる」。

しかし、NowThisがこれらの番組に見込んでいる成長やチャンスは、Facebookの視聴数低下という課題を相殺するものでなくてはならない。依然として、ブランデッドコンテンツはNowThis最大の収入源であり、Facebookは同社のもっとも重要な配信チャンネルだ。NowThisによると、リーチが低下していることで、一部のブランデッドコンテンツのキャンペーン目標を達成することが難しくなっているが、それでも長時間視聴するユーザーの数は変わっていないという。「影響が実際よりはるかに誇張されている。指標となる10秒の視聴時間に到達するユーザーの数は以前と同じだ」と、NowThisの広報は述べている。

複数プラットフォームのオーディエンスにリーチする広告やポンサーシップの販売を増やすことに成功すれば、Facebookのリーチ低下の埋め合わせができると、TVレブ(TVREV)のアナリスト、ジョン・カッシーロ氏は指摘する。ただしその場合、パブリッシャーのオーディエンス全体に占める比率が小さい層を相手に、毎回成功を収めなくてはならないため、リスクはより高くなる。

「大勢のオーディエンスを相手に大当たりしなかった場合、それでも(スポンサーシップにおいては)プラスの効果を生み出せる」とカッシーロ氏はいう。「だが、少数のオーディエンスを相手に失敗したら、キャンペーンが生み出すプラスの効果などいくらも期待できない」。

従来型テレビからへの移行

NowThisの新戦略はまた、マーケターが今後、広告費を従来型テレビからほかのチャンネルの動画広告へ移すようになるとの見通しを根拠にしている。ごく小規模ではあるが、この動きはすでにはじまっていて、Twitterなどのプラットフォームがその恩恵を受けている。

しかし、NowThisやほかのパブリッシャーが、こうしたプラットフォーム間の競争からどれだけ恩恵を得られるかは、いまのところ不明だ。プラットフォームの動画サービスが均一化している傾向について、メディアエージェンシーのクレーマー=クラッセルト(Cramer-Krasselt)のメディア戦略担当シニアバイスプレジデント、ステファニー・エステス氏は次のように述べている。「メディアの立場からすれば、おかげで以前よりやりやすくなった。しかし、現在のこれはあくまでプラットフォームに関する話であって、パブリッシャーのことはまた別の話だ」。

Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)